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看護師が求人・転職サイトを使う前に知っておいたほうが良いこと

はじめまして。結城と申します。これまで大手求人・転職サイトでの勤務や、コンサルタントとして100を超える医療機関の採用支援などを経験してきました。

本記事では看護師の方が求人・転職サイト(以下、求人サイト)を利用する際に知っておいたほうが良い点をまとめます。

看護師の知人から「看護師の求人・転職サイトは使わない方が良い?」「キャリアアドバイザーとはどう付き合えば良い?」といった相談をもらうことが多いので、本記事がこれから転職する方の参考になると嬉しいです。

人材ビジネスの大枠

まず始めに知っておきたいのが、「人材ビジネス」についてです。採用領域における人材ビジネスを大きく分類すると以下のようになります。

(領域)
・新卒採用:新卒者の採用
・中途採用:就業経験がある者の採用

(ビジネス形態)
・求人広告
・人材紹介
・人材派遣

新卒採用・中途採用という医療機関側のニーズに対して、人材ビジネスを行う企業が採用支援サービスを提供していますが、そのやり方が大きく3つあります。

ひとつは求職者がよく目にする媒体に広告を掲載する方法。これが求人広告です。場所貸しのようなイメージで「何万人もの人が見に来る求人サイトに病院名を載せますよ」というビジネス。料金は掲載する場所や大きさ、期間によって変動します。仮に採用できなくても返金されないシステムになっていますが、掲載料金は比較的安いです(数万円~20万円台が多い)。

ふたつめは人材紹介。これは人材ビジネスを行う企業が何らかの方法で集めてきた求職者を医療機関とマッチングさせる方法。求職者と医療機関の双方が合意の上、入職に至った際に紹介料を請求するビジネスです。求職者は無料で利用できますが、医療機関側は入職が成立したときのみ看護師の想定年収の20~30%を支払います(想定年収が450万円であれば、90~135万円くらい)。

三つめが人材派遣です。これは人材ビジネスを行う企業が自社で雇っている看護職を一定期間医療機関に派遣する方法。医療機関側は雇用する必要がないので、短期的な人材不足を補う際に便利です(日本の法律上、雇用すると簡単には解雇できないので)。ただし、普段看護師に支払うよりも多くの金額を派遣会社に払う必要があります(看護師への平均支給額が月35万円だとすると、派遣会社には月50~60万円くらい支払うイメージ。派遣されてきた看護師さんは、この額の一部を受給します)。

人材サービス産業の近未来を考える会の『2020年の労働市場と人材サービス産業の役割』に3形態の違いをわかりやすく示す図表があったので転載しておきます。

以上が医療業界で利用されている主な人材ビジネスです。

看護師求人・転職サイトの仕組み

では、看護師求人サイトはどの分類に入るのでしょうか。「サイト」と呼ばれていますが、実態は人材紹介に分類されます。

「求人広告とどう違うのか?」と疑問を持たれた方もいらっしゃるのではないでしょうか。この違いについて整理します。

一般的に求職者が求人広告から医療機関に応募する場合、その間に人を介することはありません。「求人を見たので連絡しました」と直接医療機関に連絡する、もしくは、求人サイトの応募フォームから応募すると医療機関から直接連絡を受けることになります。その後の応募手続きや面接調整、入社手続きなどはすべて自分一人で行うことになります。

一方で、人材紹介の場合、求人サイトに登録すると、まず求人サイトの運営企業に所属するキャリアアドバイザーから連絡があります。そこで、興味を持っている医療機関について質問したり、今後のキャリアについて相談したりできますし、医療機関との書類選考、面接調整、入職調整などもこのキャリアアドバイザーに委任します。

簡単に言うと、求人サイトのキャリアアドバイザーから連絡があれば人材紹介、なければ求人広告、という棲み分けです。

前提が長くなりましたが、看護師求人サイトの多くは求人広告ではなく、人材紹介の形態をとっています。求職者からするとキャリアアドバイザーからの支援があって便利ですが、医療機関側からすると一人採用するのに100万円前後の費用がかかり、負担が大きいとも言えます。

看護師求人・転職サイトは使わない方が良いのか

長年、医療機関の採用に関わってきましたが、多くの看護師は上記のビジネスの仕組みを理解していません。「わたし一人採用するのに100万円もかかったんですか?」とびっくりされる方のほうが多いです。

医療機関側も「逼迫する医療財政の中で高額請求をする人材紹介は悪だ」とする論調が強く、「看護師の求人サイト・転職サイトは使わない方が良い」という発信も現場ではよく耳にします。本当にそうなのでしょうか。

たしかに求職者視点でのデメリットもあります。求人サイトを使うと、「この人を採用するのに100万円かける価値があるか?」という目で見られることになり、採用基準は厳しくなる場合もあるのです。

また、これから就職する医療機関側に少なくない額の負担をかけることにもなります。これを考えると「求人サイトを通さずに直接応募したほうが良いのでは?」と考えるのも自然なことでしょう。

一方で求職者が自力で最適な転職先を探すことにも難しさがあります。医療機関の多くは一般企業と異なり、採用ページの情報が充実していません。これは人事など専門の広報機能がないケースが多いことを背景にしています。勤務条件や働きやすさのポイントとなる情報を得ることが難しく、医療機関どうしを比較することが難しいのです。

また、ナースセンターやハローワークを使う手も考えられますが、求人サイトで得られる支援と比べると、その品質は見劣りします。

まずナースセンターはスタッフ体制から手厚い支援は期待できません。例えば『平成29年度ナースセンター事業実施状況』によると、東京都のナースセンターは常勤職員11名、非常勤職員30名で運営しており、小規模な人材紹介企業並みの水準です。また、彼らの支援の実績を見ると、40代以上の復職支援がメインで純粋な転職支援の実績やノウハウは民間企業と比べものになりません。

ハローワークはどうでしょうか。ハローワークは一度行ってみればわかりますが、職員のほとんどが医療業界に精通していません。親切な方は多いかもしれませんが、各病院の内情等についてはほとんど把握していないのが実態です。

医療機関の採用広報力も公共の就業サービスの支援力も弱い実情を考えると、求職者個人が求人サイトを利用することは理にかなっていると言えます。医療機関に費用負担をかけることを後ろめたく感じるかもしれませんが、多くの医療機関は人材紹介を利用することで、自力で採用を行う際に必要になる採用広報のスタッフ(福利厚生費込みで年間500~600万円の人件費がかかります)を雇わずに済んでいるとも言えます。

結論をまとめると、希望する転職先が明確ならば直接応募すべきでしょう。無理に就業先の費用負担を増やす必要はありません。一方、「適切な転職先がわからない」「次の転職先は慎重に決めたい」という方は求人サイトを利用すればよいと思います。ホワイトカラーにおいても人材紹介経由の転職は当たり前ですし、十分な情報取得を行わない状態での転職は早期離職につながりやすく、求職者も医療機関も不幸な結果になりがちです。

看護師求人サイト利用時の心構え

最後に看護師求人サイトを利用する際の心構えを記載しておきます。求人サイトのキャリアアドバイザーはボランティアではなく、厳しいビジネスの世界に身を置いています。彼らから本気の支援を引き出すのは、利用する側の心構えも非常に重要です。以下の点を頭に入れておきましょう。

キャリアアドバイザーの理解
・キャリアアドバイザーにとって自分は商品であることを理解する
・就業先が決まり、入社するまではキャリアアドバイザーに1円も入らないことを理解する
・キャリアアドバイザーは毎月数値目標に追われていることを理解する
・キャリアアドバイザーは18時以降が多忙であることを理解する
・キャリアアドバイザーは様々な求職者を担当しており、その中で優先順位が付けられていることを理解する


キャリアアドバイザーとの関係構築
・自分自身の商品としての価値をアピールする
・転職軸をある程度明確にしてから相談する(転職可能性が低いと思われないようにする)
・キャリアやスキルだけではなく、真摯さ、マメさ、レスの速さ、転職に対する意思などをアピールし、「この人なら良い転職ができる」「この人の想いに応えたい」と思ってもらう
・何か依頼する際には締め切りを設ける
・依頼されたタスクには締め切りを設け、必ず守る
・心理的に依存しない
・ビジネスパートナーとして向き合い、伝えたいことは伝え、相手の意見もよく聴く
・都度感謝の意を伝える

求人サイトの選定
・大手を中心に複数(2~3社)の求人サイトに登録する
・求人サイトを以下の視点で評価する
  ・担当者との相性(長く信頼して付き合えるかどうか)
  ・求人の豊富さ(関心に合った求人をどれだけ紹介してくれるか)
  ・提案力(キャリアの考え方や求人についてどれだけ気づきを与えてくれるか)
・評価が最も高い求人サイトに絞り、他の企業には断りを入れる
・良いキャリアアドバイザーに出会えなければ、問い合わせ窓口から担当者交代を依頼するか、他の求人サイトに登録する

※求人サイトの詳しい選定軸についてはこちらの記事でまとめています

選考中のコミュニケーション
・紹介してもらった医療機関の選考後は、すぐに結果や感想、気になった点を伝える
・求人サイト以外からの経路で応募している選考の状況も正直に伝達する
・面接対策には積極的に協力を要請する
・内定が出た場合、キャリアアドバイザーから勧められても即決はしない
・内定先の条件提示に納得がいかない場合、条件交渉に協力してもらえないか相談する
・内定受諾する際にはキャリアアドバイザーにも改めて感謝を伝える

内定受諾後のコミュニケーション
・内定受諾~入社までの間に内定先とのやりとりで認識相違が発生した場合、必ずキャリアアドバイザーにも報告・確認する
・相性の良いキャリアアドバイザーに出会えた場合、次の転職でも付き合えるようFacebookやLinkedinなどで繋がっておきたい旨、依頼する(キャリアアドバイザーが転職してしまう可能性もあるため)
・担当者に友人や知人を紹介することで、紹介フィーを貰える制度がないか確認しておく
・入社時にはあらためて担当者に感謝のメールを送る

最後に

看護師の方が求人サイトを利用する際には、医療機関側の負担・自身のメリット・人材ビジネスやキャリアアドバイザーの立場をしっかり理解しておく必要があります。偏った意見に流されず、3者にメリットがある使い方をしてみてください。本記事がこれから転職される方のお役に少しでも立てれば幸いです。

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