日本BGMフィルに見た夢(1) 「終焉」

■終焉

2014年3月31日。
その日、ひとつの交響楽団が終焉を迎えた。
公式Twitterによる突然の発表。
設立者であり、音楽監督および指揮者を務めてきた市原雄亮氏の発言。
「発展的解消」「解散消滅」
短い発表や発言に並んだ言葉から判断すればそう考えて良いのだろう。

「日本BGMフィルハーモニー交響楽団」は終焉を迎えたのだと。

"日本で初めての"プロとしてゲーム音楽を演奏活動を行うことを掲げてスタートした「日本BGMフィルハーモニー交響楽団」は、最初の公演から1年を待たずして姿を消すことになった。

その報を聞き、全身の力が抜けるようだった。
寂しくもあり、悲しくもあり、そして残念に思った。
立ち上げの話を耳にしてから注目し続け、演奏会にも度々足を運んで応援していたということもあるが、それだけでない。

夢を見ていたからだ。

彼らに。
その存在に。

■日本初

「ゲーム音楽を主体に演奏活動を行う日本初のプロオーケストラ」

最初にその話題を耳にしたのは2012年のころだったと思う。
日本初。
その言葉を意外に思ったのは私だけではないだろう。
ファミリーコンピュータが発売されて30年が経過し、歴史的にも規模的にも「ゲーム大国」と呼べるこの国で、ゲーム音楽をメインに演奏するプロのオーケストラが今まで無かったということが不思議に思えた。
ニュースサイトの片隅で見つけた、まだ名前も無かった管弦楽団になにか光るものを感じた時のことを今でもよく覚えている。

代表理事に並ぶのが遠藤雅伸氏と古代祐三氏ということにも驚いた。
遠藤雅伸氏は『ゼビウス』や『ドルアーガの塔』といった、ゲームファンにはもはや説明不要の名作を世に送り出した伝説中の伝説といえるゲームクリエイター。
古代祐三氏は『イース』や『アクトレイザー』といった、時代を代表するような名作の音楽を作り上げただけではなく、音楽性の高さでゲーム業界に衝撃を与えたことで知られている。ゲーム音楽ファンからも絶大な支持を得ている音楽家だ。
立ち上げたばかりの管弦楽団が大御所を迎えたことに驚き、感心したものだった。
往年のゲームファンなら、この二人の名前が並んだだけでも何か凄いことになりそうだと興奮するだろう。

 オーケストラがゲームの音楽を演奏するということはこれまでにも数多くあった。『ドラゴンクエスト』の楽曲をオーケストラアレンジした演奏会やCDなどはゲームファンならずとも耳にしたことがあるだろう。
BGMフィルはゲーム音楽を主体に演奏活動を行う。
しかもこれから団員を集めて、イチからオーケストラを作るのだという。
途方もない話だ。
この厳しい時代によくまあそのようなことを、と思った。
しかしながら、さわやかな風が吹き抜けるような爽快さがあった。
閉塞した部屋で思い切り窓を開くような気持ちよさがあったのだ。

そしてそれは決して無謀な企てではないと思った。
十分に「勝算」があると感じた。
もちろん、オーケストラを作ることがどれだけ大変なことかは言うまでもない。
たとえ数人であっても、人を集めて何かを始めるということは難しいことだ。
ましてやプロフェッショナルを集めてのオーケストラとなればなおさらのことだろう。
取り巻く時代や景気などの状況も考えれば決して易しいとは言えない。
しかしながら、市原氏はじめBGMフィルをスタートさせた人達には、志や信念といった思いの他に「これならいける」という確信があったのではないかと感じていた。

次回はBGMフィルが最初の公演を迎えるまで、そして私自身が感じたBGMフィルの「勝算」について書いていきたい。

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