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朧に駆ける

春霞の先に浮かぶ面影は
静かに微笑みを湛えて揺れる
花弁に紛れて消えてしまう前に
思わず駆け出す

走って 走って 走って
息も絶え絶えに
浅い呼吸ばかりが
口の先を往来して
重くなる身体に
肺までは満たされない

辿り着く先が朧と知っていても
今を逃せば もう届かないと
確信ばかり強まって
縺れて絡まる足も構わず
どうか……
手を伸ばす

溢れる積年の想いが
淡い花弁に攫われて拭われても
形振り構わず飛び込んだ

逢いたかった……
どれほどに
これほどに
待ち望んだ邂逅を
刹那の隙間の夢としても

あぁ、どうか……消えないで

声の温度さえ掠れて
もう本当が分からなくなりそうなんだ
大きさも 温もりも 香りすら
創り出したものになりそうで怖くて堪らない

懐古の映写機に映しては
擦り切れそうな記憶も 想い出も 感情も
全てがどうしても遠くなっていく
やさしさの残酷さが傷んでも進むしかなくて
軋む音が途切れてしまう前に

あぁ、どうか……消えないで

仄かにまだ視える春影の幻でも
微かに触れられる気がして
走る度に小さな自分に巻き戻って
迷子の解放のように咽び泣く

待っているのが
アスファルトの冷たさでも
擦り剥いた両手足でも
どうしても 逢いたかったんだ



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