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星の名前

ひとつひとつの星に名前があるんだろうけど
僕は知らない
だけど確かに今、目の前に光る君がいるのは
誰でもない僕が見つめてる

方向音痴の僕だから
君がいる今の空の位置がどこなのか
分からない
そういえば星座早見盤も
車のハンドルを回すみたいに
こっち?あれ、あっち?とぐるぐるしていたっけ
それより手にした時に見た様が羅針盤みたいで
何か素敵なアイテムを手にしたように
これで魔法使えたりして、なんて
そんな風に違うことを考えてた

よく耳にする星座の名前やかたちはいくつか覚えた
自分の星座と言われれば興味も湧いた
けど、今も自分の星座のかたちは覚えてない
反復して自然と定着するくらい繰り返しはしなかったし
僕の脳みそは食べてはくれなかったみたいだ
きっとその時は美味しくなかったんだろう

いつから僕は星を眺めるようになったんだろう
何かを探すみたいに
多分あの時からだ

海の大冒険譚
嵐にあって海原で迷ったら
北極星を探せば何処にいても
自分がどの方角にいるのか分かるって云った
だからお前が迷っても探しにいけると
僕は北極星なの?
と聞いたら
俺にとっては還ってくる場所だ
と僕の頭をすっぽり包んでくれた
大きくて温かい厚い掌でぐりぐりされて
やめなよ、もうって言いながら何となく嬉しかった
見上げた顔がいつもの豪快じゃなく目尻が下がっていて
柔らかく笑う表情を微笑むって初めて識った
そして
じゃあ、帰ってきたら僕がおかえりって言うね
と云うと文字を書いて「還る」
こっちだって
何がちがうの?って聞いたら
自分自身の本来の場所に戻るってことだって答えた
循環って分かるか?とここからはプチ講義
じゃあ、父さんが僕の還る場所なら、父さんが僕の還る場所だ
と云ったら、それも嬉しいけどなぁと笑った

お前もいつか自分だけの北極星に出逢える
それまでは父さんが見ててやるって云ってくれた
思いの外、ロマンチズムに溢れていたんだ
なんだか酷く安心したのを憶えてる
どれだけ飛んだり跳ねたり
がむしゃらに走ってズッコケても
かっこ悪くはないんじゃないかと思えた
目指す場所があるならそこまで
ずっと駆けていけるような気がしていた

今日も僕は星を眺めている
ただ綺麗だなぁと
煌めく反射してる様子をぼんやりと

君は誰?
そう聞いたら、ぐんっと空に近づく感覚に目眩を覚えて
戸惑って少し怖くなった
そこはどんな場所でどんな景色が見えるのって思ったら
自分がぐわりと歪んで空に投げ出されるように引き寄せられた
ぎゅっと目を瞑ったらその感覚は止んで
そっと目を開いたら何のことはなく地面に僕の足は着いている

安堵のため息をついて
もう一度見上げたら見つめていた星が先程より一層煌めいて見えた

あぁ、そうか……
君は教えてくれようとしたんだね
私はここにいるよって
私の世界はこんな感じでねって
でも僕が怖がったのを分かって慌てて手を離してくれたんだね
大丈夫、ありがとう
変わらず僕には綺麗に映るから
泣くように震えないで
きっと君は優しい星なんだね

そんな風に思ってソワソワした
自分も思いの外、ロマンチズムに溢れてるんじゃないかって
咳払いをして居住まいを正した途端、苦笑した
存外こんな僕もきらいじゃないと思えたから

眺めた先に見つけた君の名前
僕にはまだ分からないけど
いい気分の夜だ

見つけたって思うにはまだ淡くて
ぼんやりとしているけど
これもひとつの出逢いなら面白いと
素直な好奇心が疼くから



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お借りした写真:晩秋11月の星空・北斗七星
出典:ヒロタカ05様
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