掌編小説:足下で奏でる

ぺらふぇす2023秋、参加記念小説。
お馴染みのカエルさん(けろ)のおはなし。

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 少し前まで、早かったおひさまも、すっかり寝坊。けろも、いつもよりぼんやりした目覚めだった。

 目をこすりながら、タンスにしまってあるニットのチョッキを取り出した。このチョッキは、少し前にお世話になった、ヒツジのめぇ子さんに作ってもらったものだ。

「やっぱり、あったかい」

 けろは、チョッキを着て、呟いた。時計を見ると、もうお昼ごはんの時間だ。でも、日課の歌の練習がまだ。けろは、目を泳がせた。

「いや。今日も練習しよう!」

 サボりたい気持ちを押しやって、けろは家の外に出た。

 サク、サクサク

 けろが地面を踏むと、軽い砕ける音がした。霜柱を踏んだのだ。

「どおりで寒いわけだよ」

 けろは、白い息を吐いた。空を見上げると、厚い雲に隠れたおひさまが、うっすら見えた。

 びょーびょー

 冷たい風がひときわ、強く吹く。

「ひぃい……。はやく、おうちに入りたい」

 けろは歌の練習もそこそこに、家に飛び込んだ。

「そういえば。この間、めぇ子さんからお手紙が届いていたな……」

 けろは、もう一度、手紙を封筒から、ていねいに取り出した。ゆっくり手紙に目を通す。
 どうやら、めぇ子さんがお茶会を開くようだ。

「なにも、こんな寒いときにしなくても良いじゃないの」

 けろの口はへの字に曲がった。でも。

「おうちの中で、毛布にくるまらずに動けるのも、めぇ子さんのおかげだからなぁ」

 けろは、水に潜るときのように、深い息を吸った。

「……うん。がんばろう」

 いつものどんぐりリュックに、色鉛筆と画用紙を入れて、昨日焼いた焼き芋も入れた。

「焼き芋を温め直したら、背中があたたかくなるとかないかな?」

 そうして、けろは温め直した焼き芋のおかげで、引き返さずに、めぇ子さんの家に着いた

「ごめんください」
「あらあら。いらっしゃい。寒い中、ようこそ」

 めぇ子さんは、いつものように、ゆったりと、けろを出迎えた。
 めぇ子は、けろを家に招き入れるなり、すぐに姿見の前に立たせた。

「ちょっと、力作を作っちゃったのよ」

 そう言って、めぇ子さんがけろに着せたのは、もこもこのコートだった。

「わぁ! すっごいあったかいよ!」
「喜んでもらえて嬉しいわ」

 めぇ子さんも、頬に手を当て、ふふっと微笑んだ。
 けろは、コートをもらうお礼に、持ってきていた画材で、めぇ子さんの似顔絵を描いたのだった。

=おしまい=

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