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きみのすがた(データ版)

割引あり

まえがきにかえて

 はじめまして。そうでないかたも、こんにちは。望森ゆきです。
 カエルのけろさんの物語【きみのすがた】を、noteにて冒頭(後半は有料)公開することにしました。
 よいなぁ。続きが気になる! とおっしゃってくださる方は、購入していただけたらと思います。
 また、紙の本(B5サイズ)にもなっており、こちらはBOOTH(https://mochimori.booth.pm/items/4926447 ) にてお求めいただけます。

 では、けろさんの世界へ! いってらっしゃいませ。
 コソッと(以下のツイートをリポストしていただくと、お得に続きを読んでいただけます~。よろしくお願いします)


本編

 ある森の奥に、井戸がありました。
 井戸の中には、赤い屋根のおうちがあり、カエルさんが一匹、住んでおりました。
 カエルさんのおなまえは、けろといいます。
 けろさんは、朝にうたの練習をして、お昼は絵を描いて、過ごしています。

 実は、けろさん、おうたが得意ではありません。
 そのため、カエルの仲間たちからは、〝カエルもどき〟なんていう失礼な呼ばれ方をされています。
 悲しく思ったけろさんは、カエルの仲間たちの住む池から離れました。そして、井戸で暮らすようになったのです。

 今日も今日とて、おひさまのあいさつが、はじまる頃になりました。
 けろさんはおうたの練習をはじめます。
 井戸から元気な歌声が聞こえてきます。
 でもやっぱり、あまり上手ではありません。
 しかし、井戸の近くを通る動物たちは、けろさんをほほえましく見守っています。

 夏のある日のことです。
 おひさまが、空のてっぺんで大きなあくびをしました。すると、おひさまはいるのに、こまかい雨が降り始めました。
 けろさんは、絵を描く筆をとめて、窓からお外を見ました。
 雨は、キラキラと光を反射させています。いつもとはまたちがう、きれいなお外の様子でした。
 けろさんは少しの間、キラキラとひかる、お外の様子をながめていました。
 その時、玄関のドアをノックする音がひびきました。けろさんを呼ぶ声もします。
「こんにちは~。けろさん、いらっしゃいますか~? おてがみを届けに来ました~」
 けろさんはあわてて、玄関にむかいます。
「はいはい! カタツムリくん。今、ドアを開けるね」
 そうして、玄関を開けると、カタツムリくんが、おてがみの束を口にくわえて、待っていてくれました。
 けろさんは、カタツムリくんにお礼を言って、おてがみを受け取りました。
 けろさんは、おてがみの宛名があっているか、確認をはじめました。その待ち時間に、カタツムリくんは、まったりと口を開きました。
「今日は雨が降っていますね~。ボクとしては過ごしやすい天気です~。けろさんの筆の進みはどうですか~?」
 そう尋ねられたけろさんは、にがい薬を飲んだような、ムムッとした表情になりました。重いため息をつきます。
「なかなか良い作品が描けているよ。でもなかなか、これぞ、という作品はまだ描けないね……」
「納得できる作品を作るというのは、なかなかにむつかしいのですね~」
 カタツムリくんもつられて、口がへの字になりました。
 けろさんは、こころまちにしていた、おうたのお仕事についてのおてがみを見つけました。少し雨にぬれて、へにゃりとしていました。少しドキドキしながら、破らないようにと気をつけて、ていねいにおてがみを開けました。おてがみを読み進めるうちに、けろさんの目にはなみだがたまってきました。そのおてがみには、「今回のお仕事はけろさん以外のカエルに任せることになりました」というものだったからです。
 けろさんは、しおしおとしょんぼりしてしまいました。
 カタツムリくんは、そんなけろさんを見て、切ない気持ちになりました。カタツムリくんは、けろさんの明るい顔が見たくて、あるはなしを持ちかけてきました。
「まだ締め切りは先になるのですが~。けろさん、絵のコンテストに興味はないですか~?」
 けろさんは目をパチクリとさせました。
 けろさんは絵を描きはするけれど、その絵で何かをするなんて、考えたことがなかったからです。
「う~ん? コンテスト? どういうものなの?」
「ボクがお届けしている新聞がありますよね~? その新聞にのせる絵を募集しているのです~。集まった作品の中からのせる絵を決める、そんなコンテストです~」
「そういうものも世の中にはあるんだね。知らなかったよ。ありがとう、カタツムリくん」
 カタツムリくんは、けろさんのその言葉を聞いて、にんまりしました。
「けろさん応募してみましょうよ~。きっと、けろさんの絵は、新聞にのりますよ~?」
 けろさんは、困った顔をして首を横に振りました。
「けろなんかにお仕事は来ないよ……。今回のおうたのお仕事も、ダメだったもの。それにカエルらしくないよ、絵のコンテストに出るだなんて」
「そうなのですかねぇ~……。とりあえず、宛名まちがいもなかったようなので、今日はこのへんで~。失礼いたします~」
 そうして、カタツムリくんは、おひさまが見守る雨の中、次のお届け先にむかって出発していきました。
 けろさんは、キラキラひかる雨をながめながら、ポツリとつぶやきました。
「どうしたら〝カエルもどき〟なんて、言われなくなるんだろう……」
 けろさんは、重いため息といっしょに、窓のカーテンを閉めました。

 悩んでいるうちに夏が過ぎ、肌寒い季節がやってきました。
 秋を感じさせる高くて青い空の下、けろさんはおうちの屋根に登りました。もうすぐおひさまもマフラーを巻くような寒い冬がやってきます。その前に、けろさんはおうちの屋根をなおさなければなりません。
 けろさんは、かなづちを片手に、リズム良く、「トンカン」「トンカン」と屋根をなおしていきます。
 朝から屋根をなおしていたけろさんは、ひと休みすることにしました。
 けろさんは、なおした屋根の上に座り空を見上げました。
 空は青く、ときどきモクモクな雲が流れていきます。風は少し涼やかで、けろさんの疲れをとってくれるようでした。
 雲のかげに入り、からだが寒くなってきたけろさんは、作業に戻ろうと立ち上がりました。目を閉じて、うーんと背伸びをしました。上を向いたまま、目を開けると、空から何かが降ってくるのを、けろさんは見つけました。
 けろさんの知る中でも大きなものが、雨粒のように空から降ってきています。井戸のかべを、つたってくるのではありません。宙を飛んでいます。
 けろさんは、思わず目をこすりました。しかし、大きなもののかげは消えません。もっともっと大きくなっていきます。
 けろさんは口をポカンと開きました。
「なにあれ……?」
 大きなものはそのまま、井戸の水面に叩きつけられ、大雨のような水しぶきを上げながら沈んでいきました。
 けろさんは、改めて何事かと、上見て下見て、まわりをキョロキョロと見渡しました。
 水面がブクブクと泡立ちはじめました。けろさんが身構えていると、水面から何かが現れました。
「ふぅうう! 生きかえるぜぇえ!」
 井戸を震わせるほどの大きな声がひびき渡りました。けろさんは、そんな大きな声にビックリして、足が滑りました。先ほどの水しぶきで、屋根はツルツルになっていたのです。
 あっと思ったときには、けろさんも水の中へと落ちていました。冷たい水がけろさんを迎えます。
 けろさんは、思わぬことの連続で、息の仕方を間違えてしまいました。水をたっぷり飲んでしまい、ジタバタするけろさんです。しかし、誰かが、けろさんを水の中から引き上げ、助けてくれました。

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