「時光代理人 」1期前半~過去の存在~
【はじめに】
本ブログはアニメ『時光代理人 -LINK CLICK-』を視聴し、各回を見終えた順番どおりに書いた感想を寄せ集めた文章になります。
なのでそれ以降のネタバレはありません。
考察や理路整然としたまとまりは特にありませんが、これから本作を見られる方が抱いた感想をその都度共感してもらったり、また考えの相違点などを考察の基にしていただければ嬉しいなと思い書きました。
今回は前編で、1~6話までの感想となります。
【1期1話】
ふたりの設定が存分に生かされ、かつ主要キャラ二人の性格が分かる第1話だった。
トキは「写真の世界に入ることができる」、ヒカルは「写真が撮影された12時間以内の出来事を把握できる」。トキはてっきり彼の身体のまま移動するのかと思いきや撮影者の意識そのものに成り代われるという。まずここが面白いと感じた。
写真内のトキにヒカルの声は聞こえるが、それはあくまで語りかけられる言葉のみ。即ちトキの行動は言葉でしか止められない。かつ終盤にヒカルはトキの行動を知らなかったことから、ヒカルが眠りについていたあいだのトキの行動は分からないらしい。
そして干渉された未来の改変であることもヒカルには分からないようだった。
ここで二人の条件が活きてくる。トキは写真の撮影者の過去も未来を知ることができないし聞くことも許されないので、自らの行動の結果を知らない。
またヒカルもトキに教えないことから、仮に過去が変わっていたとしてもその改変をヒカルが認識していなければこれまでと同じようにルールを守れよとしか言えない。
この視聴者にしか分からないズレがとても魅力的だった。後味はこの上なく優れないが、創作として興味深い1話目だったように思う。
【1期2話】
依頼から回収まで鮮やかだった第2話。
ナツ曰く秘伝のレシピを知る者は共同経営だったリンのみ。リンは裏切って独立をするからレシピを取り返したい、とナツが依頼。レシピを手に入れるまでの過程は、トキとヒカルともに1話よりも愉快に描かれていた。
またリンのみが知るレシピをナツが知るとき、手に入れたのはレシピだけでなく彼女たちの遠い思い出だった結末は見事。
麺が入ったひとつの器にトキとヒカルがどうするか困った場面で終幕するのも鮮やかだった。短時間で満足しました。
今回の単発の依頼に関しては概ねそんな感じですが、気になることもありました。
ひとつは写真の撮影者にダイブしたトキの知識と心。
1話もそうですが、ダイブしたトキは撮影者の心とリンクする可能性が高いらしい。また記憶を引き継いでいるように見えるが、これは視聴者に聞こえないだけでヒカルが事細かく指示を出しているとも考えられる。
あとはダイブの方法。トキの能力自体がダイブであるならヒカルと毎回ハイタッチをする必要はない。儀式なのか、それとも過去を改変しないというルールのためにヒカルと手を合わせた時しかダイブしない決まりになっているのか。
極めつけはダイブしたトキの存在。
どうやらトキはダイブすると意識だけでなく現世から肉体も消滅するらしい。これは使い勝手がよく、例えば今誰かに追われる身であるとして、誰か写真の撮影者の意識にダイブすれば少しの間逃げられる。
他にもトキが、自身の撮った写真にダイブすれば自らの過去を改変し続けられる。そんなことはしないと思うが。
あとは現世の肉体が消えるだけであるなら、仮に写真にダイブしたトキが撮影者の姿で自分(トキ)に会うことも可能なのかもしれない。
何れにせよはちゃめちゃになる可能性があるからヒカルという芯のありそうなキャラは重要と言えるだろう。
しかしここで面白いのが前回ヒカルはトキが過去を改変した事実に気づけずにいたことだ。そしてトキもまたルールにより過去も未来も知ることが出来ないから、自らの行動の意味を考える機会が訪れていないことである。
トキが異なる行動をヒカルに気づかれないよう行うと、古い過去は端から存在していないことになり、ヒカルが知る過去は新しい過去となるらしい。
次回からどう動くのかこの辺りにも注目したい。
【1期3.4.5話】
この三話は初めて続く物語であった。いや、すべては続いているのである。ここで言う続きとは、ひとつの依頼に対してトキが写真へダイブしてから現代へ戻ってくるまでを指している。
この三話からなる物語の完成度の高さには舌を巻いた。たしかに毎度上手かった。しかし序盤では語らなかった依頼人への印象を内容で人間味として最後に見させる話作りにただただ驚くばかりである。ここからはより深く掘り下げていきたい。
3話は依頼から始まる。依頼人は建築家のチェンシャオ。依頼内容は「あの日の皆に伝言」。持っている写真はバスケ部の仲間が写った写真一枚。
まずトキは写真の撮影者であるこのチェンシャオにダイブするので、状況は彼がバスケの試合に参加する直前。結果としてトキが試合の勝敗を改変してしまったのは彼のバスケに対する熱量と、なにより人を傷つけたくないという意思が元となっているように思う。
トキが人想いな様子はこれまでのたった2話分でさえ散々描かれてきたのでいつかはこうなると思っていたがここまで早いとは思わなかった。しかし肝心なのは、たしかに改変したのに過去は変化しなかった点だ。
ヒカル曰く分岐点さえ変化されなければ過去が変わることはないようだ。つまり今回トキが行ってしまったバスケの試合の勝敗は分岐点ではなかったことになる。
そうして4話ではようやく依頼であった伝言が行われていく。伝えたかった相手はバスケ部のキャプテン、その妹で初恋相手、そして母親だった。彼らはチェンシャオ(トキ)の言葉を聞いて、みな清々しく嬉しそうな表情をした。ここは驚いたのだが、なんとチェンシャオが伝えたかった言葉はこの段階でひとつも明らかにならない。
トキが現代へ戻るタイミングは彼が自身で決められるらしいが、彼はそのタイミングを誤った。彼はダイブした写真の時期を知ってしまう。それは避けようのない災害が起こる日だった
ヒカルが口にした分岐点とはこの災害である。つまりどう足掻いても防ぐことはできないのだ。さらにその時期がトキ自身の記憶とも深く結びつく日時であった演出は凄まじい。
元々トキはダイブした相手の感情を己に深く結びつけすぎるきらいがあり、そういった意味では任務を遂行するためだけに過去へ向かう人物としては相応しくない。トキは優しすぎるのだ。
結果としてトキはまたしてもヒカルのいいつけを無視しキャプテンや初恋相手や母親に伝えてはいけない未来までもを伝言してしまう。皮肉なことに伝言でさえ感情ではない事実だけの言葉は相手を動かすのに足りない。
そしてヒカルはトキの言う通り、チェンシャオの母親だけは守る方法を提案する。嘘だったのはヒカルがルールを守るために仕方なかったが、トキは二度も、しかも今回は側で親類の喪失を体験する。
予想できるはずの展開だが、あまりに没入が強く息を呑むことすら忘れてしまった。その演出は酷だが、同時に母親の言葉は温かかった。
実はチェンシャオが依頼時に渡した写真を見たとき、トキは「こないだ俺が現像した」と言っている。終盤、依頼前のチェンシャオが墓参り中に父親からカメラを預かっていたことが明らかになる。それは避難時に母が忘れたと言ったカメラ。ダイブしたトキが最後まで手に持っていたため無事だったのだ。依頼時に渡したバスケ部の写真、初恋相手との写真、母の写真。これらを現像しているトキはまだチェンシャオの過去を知らない一人の青年だ。そうであるのに私はトキをつうじて終盤にはチェンシャオを追体験したような気分になっていた。このトキが物悲しく映るのはそんな心を味わってしまったからだろう。
しかしあくまで、いや当然、自分はチェンシャオでないのだ。
終盤はトキに伝言をしてもらったチェンシャオが、その相手である友人、初恋、母を言葉なくとも思い返していく映像が流れる。
そしてここで彼や彼女らに対する伝言内容が明かされていく。ここの言葉はすべて過去形で伝えられていた。それは依頼内容の伝言が書かれた手紙がそうであっただけかもしれない。実際には今の気持ちとしてトキは代弁しているだろう。
しかし、本当にそうだろうか。
キャプテンはトキの災害を嘘とは思っていなかった。もしかしたらトキはそのまま過去形の言葉として伝言したのかもしれない。キャプテンや彼らはトキが未来のチェンシャオの言葉を紡いだ存在だと気づいていたのだろうか。そうであれば過去は小さく、やがて大きく変化するかもしれない。
しかしそれでも私はどこかで彼らが気づいていて欲しいと願ってしまう。そう考える自分も過去へ行くべき人間では無いのだなと思い知らされた。
また現代でチェンシャオが初恋相手を想うとき、先に都会へ行く彼女へ追いつくという約束を契った小指を眺める場面がある。
ここでは小指以外の指を握っているが、少しすると他の指を開く。そこで薬指についている指輪が見える。この演出がどれほど時間の尊さを表しているかを想うと、あまりに上手く唸った。
チェンシャオがずっと彼女を想いあまつさえ自らの未来を潰すのではなく、しっかりと生き抜いている姿を見せている。
また彼が都会へ行くことで母の願いも叶えている。
トキが追体験した辛苦のうえにそうしたチェンシャオの人生が今もなお進んでいるのだと意識させられる素晴らしい場面だった。
またそれらを終えたうえで新しく続きそうな展開が引きとなって第5話は幕を閉じる。ますます目が話せない。
【1期6話】
今回はタイトルにある通り番外編であった。
依頼は奥義の攻略と変則的だったように思う。オウヤンという女性を好きなスーウェンという男が彼女との結婚を認めてもらうには、その武術家の父を倒さなければならない。
一度も勝てないゆえにされる依頼なのだが、今回は本人(この場合はスーウェン)が依頼として時光写真館へ来たわけではなかったところも変則的であった。
依頼されてもいないのに自ら時光写真館を紹介するリンの行動には営業といった姿勢よりも人助けの精神が伺える。
これは今後リンが依頼を断ったり、またトキやヒカルが依頼と向き合うときの心構えとしても関わるテーマではないかと考える。
依頼はいつもリンが写真を持って来て始まるが、前回の話でどうやら時光写真館には写真にダイブできる妖術使いがいるという半端な噂が流れていることも判明した。
その噂と請け合い口でもあるリンとに関連性が生まれるのかは今後楽しみである。悪用されるなら危険な目にあうのはまずリンになってしまうだろう。
また今回はヒカルがトキに守らせている『過去を問うな、未来を聞くな』というルールを意識的に破りかけている。
トキの「どこで受けた依頼か」という問いにリンははっきりと答えるし、さらに彼女は依頼の紹介時に残された機会は少ないことも答えている。
これは兄弟子も結婚を申し込んだからだとトキは思うが、年老いた現代のスーウェンにそれほど多く時間がないという意味だったのだろう。年に1回戦いを挑むということはトキがダイブした時のような行いが現在進行形で進んでいることである。
彼や彼女らの若々しさを体験したあとにこの状況を目の当たりにすると、どれほどの時間を彼らが耐え忍んだのか痛感させられる。
最終的な父の言葉より、オウヤンとスーウェンには既に子どもがいるらしい。またリンの言葉より二人はいつも一緒にいる。だから制限などはないのだろう。
唯一、結婚という形を正式に認めてもらうために彼らはずっとこうして生きているのだ。
序盤と最後、スーウェンによって愛の難しさが語られる。序盤では明確に例がいくつか挙げられた。出逢い、告白、そこから生まれる困難。
そして終盤では語られない代わりに、オウヤンからのメールがスマホに表示されている。
愛で最も難しいのは、継続や、貫くことなのかもしれない。
それらとは別にヒカルから気になる言葉もあった。
ヒカルは写真に対し撮影された12時間以内の出来事を把握できる能力を持っているが、どうやら写真の世界において細かい部分はトキの目を通してしか分からないらしい。
つまり、トキの視界を通して現代のヒカルが写真の世界12時間を把握し続けている、ということだと私は考えている。
そうであれば1話においてエマ(トキ)が家族に連絡したときヒカルは寝ていたのでその事実を知らなかったとしても納得がいく。
1話で最初からエマは亡くなるという未来をヒカルは知っていたが、その過程はトキの行動で変化しているのかもしれない。
どうやらこの事件が連続して起きており、次回からに関わってきそうである。
【あとがき】
時光代理人、ずっと面白い。
1~6話を見た感想はこの一言に凝縮されているが、作品を通じて改めて過去の存在というものに向き合わなければいけない人生を想うことも増えた。
本作だと現段階では分岐点さえ変わらなければ、小さい過去の改変で大きく未来は変わらない可能性もある。もちろん小さな歪でなにが起こるか分からないという大前提はあるが。
実際の人生において過去の改変を行える機会が巡ってきたとして、私をそれを行使するだろうか。
また誰かが自分の代わりにできたとして、それを時光写真館のような場所へ依頼するだろうか。
過ごしてきた時間はすべて私が存在した証に他ならないが、私は時間の一部にすぎないのであれば、堂々と過去の改変を依頼する気がしなくもない。しかしそうして特定の人だけ何度も触れた過去の時間は私だけのものになったようで、そこから生きる私はその先で同じようにやり直しのきかない人生に悩みながら時間というものを過ごせていけるとは考えにくい。
そういった点でやはりヒカルと特にトキの能力は容易に使用してはいけないものであったのでないかと考えている。
本作がどういった方向に進んでいくか分からないが、他者の時間を知る、そして他者の時間を過ごす、その恐ろしさが存分に活かされている前半のさらなる先を今は見たくて仕方がない。