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あなたは、誰なのか

先日、上野の東京都美術館で行われている東京藝大の卒展に行ってきた。
東京藝術大学、いわずと知れた日本の芸術大学の名門。その卒業・修了制作が数多く並ぶさまは、圧巻だ。

上野駅を降りて上野公園に入り、国立博物館の目の前の大きな広場に出て、平家建てのスタバの横を通ると、東京都美術館が見えてくる。門の奥にある大きい銀の球を横目に、かつての母校の最寄駅にもこんな大きい銀の球があったなとふと思い返しながらエスカレーターを下ると、入り口に着く。

その日の東京都美術館は、いつもより若者が多い。藝大の卒業生・修了生も多いのだろうし、後輩たち、他校の美大生たちがたくさんいるのかもしれない。卒展は無料で入れるので、特に何もなく受付を過ぎ、卒業生・修了生の今を迸る凄まじいエネルギーが空間すら歪ませるような、そんな空気感を感じる会場に入る。入る際、正直この金額設定はどうかと思った。学生は無料、大人は有料にして、その売り上げで卒業生・修了生全員の打ち上げ費用とかに使ってくれたらいいのに、とか思う。

この広い会場には、100名か200名か正確な数は分からないけれど、多くの学生の作品が並ぶ。しめて3時間くらいだろうか。それぞれの作品を眺めたり、時折立っている製作者の話を聴いていた。もちろんどの作品も素晴らしいし、素敵だ。その場で買いたくなった作品もあるし、ファンになってインスタをフォローした方もたくさんいる。これからここにいるアーティストたちの作品を見て投稿にいいねできるのが嬉しい。その中で、最も目に焼き付いたのは、とある女子学生の自画像だった。

絵画を専攻する学生の作品が飾られている部屋の、ちょっと奥にその自画像はあった。絵画の部屋は面白くて、それぞれの巨大な作品の横に、おそらく作者だろうと思われる自画像が一緒に掲示されている。その部屋の中で作品もたくさん見たが、何より心に残ったのは、その女子学生の自画像だった。

女子学生は、爽やかな笑みを浮かべているようであり、どこか儚げで遠くを眺めているようでもあり、どこか寂しそうでもあった。その目は何を見ているのだろう。背中に花開く花弁たちは、あなたに何をもたらしているのだろう。あなたは今、何を感じて生きているのだろう。自画像にそれを心の中で問いかけても、何も返事は返ってこない。

ただ、横にはあなたが描いた、あなたの自画像とは対照的にとも見える作品がある。宵闇の中での奉納だろうか。竹を燻し、炎を巻き上げるその作品を眺めると、よりあなたが誰なのかが分からなくなってきた。ただ、そんなことを思っている僕を見て、「そんなに複雑に考えなくていいよ。あなたが見たいように見たらいい。」と言いながら笑っているようにも見える。あなたは、誰なのか。

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