パウパーにおける紙とMOの齟齬
■ はじめに
ご無沙汰しております。MO上ではHeterodoxという名前でプレイしているゆーきと申します。(Xリンク)
先日とうとうMO上にUnfinityの一部黒枠カード達が収録されました。
肝心のステッカーは金輪際収録されないことが示唆されていますが、《”Name Sticker” Goblin》や《Embiggen》等、パウパー環境に影響を与えかねないカード達がいよいよ使用可能になるとMOの猛者たちは黙っていません。
《”Name sticker” Goblin》に関してはテーブルトップとの差異を可能な限り近づけるように試行錯誤がなされ、一時は使用不可に。
真の力を開放したゴブリンはすぐさまPauper Callengeに上位入賞することになります。
僕の記事で何度も名前が挙がっている「0→1の天才」Walker735は、以前テーブルトップにおける《”Name sticker” Goblin》入りのカルドーサレッドをプレイしていました。
今回のMO収録に際し、それを限りなく現代風・環境用にチューンナップした結果、またたく間にカルドーサ・ムーブメントを起こすことになります。
また、「全フォーマットストームニキ」ことSaidin.rakenは新たな玩具を手に入れていつも以上に活き活きとしているようです。
新たなカードによる影響を伺い知れたところで、ここでひとつの疑念が生まれます。
■ 問題提起
勿論WalkerやSaidinは言わずと知れたMO Pauperにおける強豪プレイヤーです。彼らの審美眼と卓越した調整によってこれらのデッキが誕生したのは間違いありませんが、しかし、テーブルトップでのみ使用可能だった期間はMO収録からの数週間よりも何倍もの期間であったことは周知の事実です。
それなのに何故、このデッキたちは今までテーブルトップに存在していなかったのでしょうか?
私はテーブルトップを主戦場としているプレイヤーですが、《”Name sticker” Goblin》がまさかカルドーサレッドにおいて強力なマスターピースとなるとは考えてもいませんでしたし、ましてやそれがPauper Challengeの上位に常連として現れる程の強さを備えているとは予想だにしていませんでした。
テーブルトップとMOの間に何か絶大な差が存在しているような、そんな雰囲気さえ感じ取ることができます。
テーブルトップでのプレイ体験は、新たな風穴を開けることができないのでしょうか?
■ パウパーという固有性
以前晴れる屋においてPauperMTGの御三方にパウパーの魅力をインタビューした記事があります。
三人とも口を揃えて言うのは「値段の安さ」。これは御三方以外のプレイヤーに聞いても同じ回答が返ってくるでしょう。
テーブルトップでのカードゲームは資産をある程度持たなければならないという障害を持ちますが、カード単価の安いパウパーはすべてのデッキを妥協点なく組み上げることが可能なほどに安価なフォーマットです。
「1万でデッキをひとつ組むよりも、10万かけてパウパーのデッキを全て組め」、と記事内で加糖も述べています。
「これがダメならこれだ」と見切りを付けやすく、あらゆるカードを試しやすいのはパウパーというフォーマットの固有性だと感じています。
他フォーマットでは試したいカードが一枚百~数千円することもありますが、自販機のお釣りで試したいカードを買えるのはパウパーの専売特許です。使うかも分からないけどこれ以上値上がる前に買うか…と買ったあなたの《敵対するもの、オブ・ニクシリス》、テスト・プレイするにはあまりにも高すぎなかったですか?
何かを試す、ということにおいて、テーブルトップにおけるパウパーは重大な課題をクリアしているように思われます。
では他に一体なにがテーブルトップとMOの差を生んでいるのでしょうか?
それについて、ステッカーカルドーサの作成者であるWalkerがスレッドを投稿していました。
■ Walkerによる提言
(以下翻訳・意訳)
(前略)では、なぜ紙ではプレイされなかったのだろうか?
ペーパー・プレイヤーは盲目的なネットデッカー(コピーデッキを使う人への揶揄的な表現)なのだろうか?
私はそうは思わない。アルタートロンもターボイニシアチブもステッカーカルドーサも、テーブルトップにおいて生まれたものである。
テーブルトップで新たなデッキを生み出すことの本当の問題は、新しいデッキの知名度を得ることが極めて難しいということだ。
力を持ったプレイヤーの周りに、経済/地理/時間の都合が揃って且つ知名度を持ったテーブルトップのイベントがあるとは限らない。
強力なデッキを携えた素晴らしいプレイヤーでさえ、Paupergeddonやパウパー神のような大会で上位に入る確率は少ない。
さらに、オンラインでの試行回数無しにはデッキを完璧に調整するのは難しいという事実が加わって、なぜ新しいデッキがほとんどオンラインでしか生まれない理由が分かるだろう。
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インターネットの普及と共に、紙面や口伝だけで新たなメタデッキを得る環境は去っていきました。利便性を増したが故に、足繫くショップに通って調整する労力も、時間も、最終的な効率を考えると厳しいものがあります。
第1期パウパー神決定戦の時は私たちのチームの中でいにしえの環境を再現できたように思えますが、それ以降は確かに”存在しないアーキタイプやデッキ”を模索する努力はしていなかったように思えます。
特にこと日本のテーブルトップは、世界的にも稀な競技的思考の強いプレイヤーの集合体です。プライズを度外視してテスト・プレイを積極的に行うプレイヤーを散見することはあっても、それがデッキリストを載せるほど安定した戦績を残すかどうかは別問題です。
当然ですが対戦ゲームには勝敗が付き物ですから、試行錯誤の中で負けが混んでいてはテスト・プレイのモチベーションも奪われてしまいます。
そこで、テーブルトップ・パウパーにおける過去の成功例を挙げながら解決策を探っていこうと思います。
■ 先達
PauperMTGのOONSさんが平日大会や休日大会で魂を削りながら磨き上げたブラッドバーンは、”存在しないアーキタイプ”の成功例でしょう。
OONSさんの手によって完全にゼロから構築され、本人の愛機として記事やコピー者のLeague5-0によって全世界に伝播していきました。やがてこのデッキは後にPauper Challengeを優勝し、メタゲームの一角に入り込むことになります。
第1回パウパー神決定戦でもトップ8のうち一人がブラッドバーンを選択していますし、なんとMTGwikiに記事まで存在しています(上リンク参照)。
日本パウパー界において歴史上最も偉大な「0→1」を生み出した例です。
なお、今もOONSさんは別の角度から新たな可能性を模索しているようなので、必見です!
↓OONSさんによる名記事↓
また、先日のPauper Summit Cupでトップ8に入賞された初手に未練がある魂さんが駆っていたターボイニシアチブは、”存在しないデッキ”の成功例でしょう。
デッキの雛形こそあれど、初めて見るデッキに潜むシナジーの数々を100人の前で見せつけ、それが大型大会のトップ8に残ったという衝撃は非常に大きいです。事実SEの1回戦を抜けてトップ4まで進出されるほど強力なデッキでした。
イニシアチブ・クリーチャーとしかシナジーを形成しないように思われた《儚い存在》を有効活用するための《鼓舞する監視者》や《ラノワールの幻想家》はデッキコンセプトと完全に合致していますし、《ホネツツキ》に至っては何を食ったらそんな発想が湧き出てくるのか分からないほど強力なシナジーをデッキ全体として発揮しています。原案者の加糖も思わず「あれ滅茶苦茶いいデッキなんだよね」と何度も耳打ちしてくるほどです。
角とうふさんが編み出したステッカーストンピィも例に漏れず”存在しないアーキタイプ”です。
このデッキに関してはオンライン上での実装が未来永劫ほぼありえないので、完全にテーブルトップで独立したアーキタイプとして唯一の輝きを放っています。初心者にも扱いやすくしかも強力なアーキタイプですから、デッキとして門戸の広さも抜群。何より使っている本人が滅茶苦茶勝っているのは特筆に値するでしょう。
各種ステッカーや《Finishing Move》というカードを突き詰めた結晶です。
こうして例を挙げていくと、それぞれが五里霧中を掻き分けながら完成系に辿り着いていることが分かります。
靄の中で確信めいた何かを感じ、「これはいけるんじゃないか」という少しの希望を突き詰めたプレイヤーが結論を導出しているようです。
その確信めいた何かとは、とあるカードだったり、とあるシナジーに因んでいるものが多いことが窺えます。
■ おわりに
知らないデッキの活躍や知らないカードの活躍はいつでも私たちプレイヤーの心を躍らせてくれますし、何よりその体験はデッキを駆る本人も楽しいこと間違いありません。競技者としてスパイクである以前に、マジックを楽しむ一人のプレイヤーであり、ティミーでありジョニーなのです。
よくわからないカードにも目を向けましょう。
よくわからないシナジーにおへそを向けましょう。
未開のフォーマットだからこそ、テーブルトップでの試行錯誤が時としてオンラインの猛者たちを上回る結論を導くことは間違いなくあります。
敗北や葛藤を乗り越えてそれを擦り続けた先に何か新しい発見があるということは、歴史も事実も物語っているのです。
と色々書いてきましたが、かくいう僕は例の記事にある通り全然ネットデッカーなので、みなさんにおんぶにだっこでやっていきます。
手分けしてやっていきましょう。最強デッキ、見つけよう!
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