第1期パウパー神に向けて

この日を3年待ってました


■ まえがき


まずはじめに、僕がこの記事を執筆しているということは僕の戦績は僕の臨んだ結果ではなく、この記事があくまで2022年6月25日に至るまでの僕の思考、論理を理路整然と言語化することを目的としていて、そして自戒の念を込めていることを念頭に置いておきたい。
これを読んで下さる方の中には欲してる情報がない可能性もあることは予め留意しておく。

それらを考慮した上で、これが僕の毎週火曜日にTCに通い続けた青春の日々、そして土日を友人達とパウパーの中型大会に足繁く費やした半年間の記とする。

■ 選択肢


まず、今回の第1期パウパー神はバルダーズゲート(統率者レジェンズ2)発売後から全世界において最初のパウパー大型大会であり、僕が毎日起動しては一喜三憂するMagic Onlineにおいて、一部のカードが実施されていないという特殊状況下に置かれていることを把握して頂きたい。
その仕様の為、短い期間において行われた平日/休日大会のテーブルトップにおける結果があまりにも影響が大きくなっている。

閑話休題ではあるが、世界最大のファミリア専門ディスコードが存在することはあまり周知ではない。世界で最もファミリアが上手いSaidinが創設者となったこのディスコードにおいて、最先端のリストと思考を常に取り入れ続けた(友人の加糖(@kato1850)に招待されて入ったので本当に頭が上がらない)僕は4月1日のパウパー神発表当初、ファミリアを持ち込む気満々で調整の日々を送っていた。

事実、その結果人生初の5-0を成し遂げることも出来たし、海外の猛者達の思考を取り入れ続けて咀嚼し、日本向けに昇華させることは僕と加糖にとってファミリアを用いる大きな動機となっていた。

ところが、先述の通りバルダーズゲートの重要な新カードがMagic Online上で使用できないとなると話は違う。

あーらららら^^;

このカードをスポイラーで初めて見たとき、「ファミリアの為に生まれてきたのか?」と本気で信じていた。
実際ファミリアのディスコードも大いに盛り上がり、「これブリンクしまくったら勝つやん」「1/4飛行って壊れやろ」「第二の統治者や」とパウパーの将来を憂う声とファミリアの天下を嬉々として叫ぶ声が多数寄せられていたが——これがMagic Online上で使用出来ないとなると新生ファミリアを調整する機会が全く失われてしまうのである。

つまり、ファミリア愛好家であった僕はディスコードの後ろ盾(というとおこがましいが)を失い、自力でリストを調整せざるを得なくなったのである。

その為、神決定戦に向けて神決調整グループを加糖と設立することになる。
その中には第14期レガシー神挑戦者であり赤単プリズンの名手である48さん、第1回パウパー日本選手権準優勝のpraeさんをはじめとする各フォーマットの強豪が揃い踏みで、圧倒的な造詣の深さとプレイングスキルを以て有意義な調整の日々を送っていた。
平日や休日に各々が新リストを持ち寄ってプレイする日々を送り、間違いなく新環境を一番調整していたグループであったといえる。
その中ではイニシアチブを取り入れた青黒フェアリーや新カード満載のグリクシス親和、そして僕の相棒でもあるファミリアの新型が現れた。「どんなデッキが現れてきてもいいように」新環境で出てくるであろうメタゲームを予想しながら切磋琢磨し続けていた──


しかし転機は突然訪れた。
旧環境ながらもいつものようにMagic Online上でリーグをせこせこ潜っていた時のことである。

ファミリアを駆る僕はいつものようにグリクシス親和に当たった。
「メインは取れないにしてもサイドから《塵は塵に/Dust to Dust》をいっぱい取ってるし余裕だな」と高を括っていたところ(実際そう)、メイン戦を取ったサイド後に《塵は塵に》を4発まともに喰らっても尚弁慶の如く立ち上がり僕を粉砕してきたのである。
圧倒的なリソースと粘り強さによって、その親和という凄まじいデッキパワーをありありと見せつけられたのである。

(余談だが、基本テーブルトップでの対戦では寡黙(諸説あり)な僕からは想像もつかないと思うが、一人でリーグに潜っている時はよく独り言を喋る(イラつくと拳から血が出るまで台パンをする)。この時ばかりは沸点をいとも容易く通り越し、僕が震央となってマグニチュードが観測される寸前まで机を殴打し続けた。)

何はともあれ、親和というデッキの底力を思い知らされた僕は大人しくトップティアーのデッキを握るべきなのかと思案することになった。
神決グループ内においても、続々と「親和が板」という意見が集まり始めており、”如何にして《塵は塵に》を避けるか”というところだけに焦点を絞ったリストを組み上げることもひとつの完成形として示唆されていた。

さらにそれを後押しするように新カードの存在がある。

上から下まで全部強い。

《ケンクのアーティフィサー》のカードパワーは新環境の中でもズバ抜けて高い。破壊不能土地にカウンターを載せれば環境上のあらゆる飛行クリーチャーを無視することが出来るし、青黒フェアリーやボロスシンセサイザーはこれ1枚で完封することさえできる。本より親和は飛行クロックを横並びさせるデッキに対してそこまで耐性が無かった為、親和にとっては《ケンク》によって1つの弱点を克服した形となる。
間違いなく次環境のトップメタになると推察されていたし、神決グループ内でも《ケンクのアーティフィサー》入りの親和は《深き刻の忍者》、《呪文づまりのスプライト》と並ぶ、パウパーにおける新たな前提としての脅威という評価に落ち着いていた。


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さて、神決グループや予想される新環境を念頭に置いた上で、生み出された3つの選択肢が存在する。

  • ①ファミリアを信じ、新環境用に調整を続ける。

  • ②親和のデッキパワーを信じ、新環境用に調整する。

  • ③未知の板デッキを探す。


ひとつずつ振り返ってみる。

  ①ファミリアを信じ、新環境用に調整する。


 ⇒直前まで調整し続けていた。

自分語りが過ぎる話ではあるが、加糖よりディテールに及ぶプレイテクニックがないものの、自分が日本のコミュニティにおけるファミリアを支え続けた存在であることは自負している。新たなファミリアプレイヤーには自分が持てるすべてを教えてきたし、古くからファミリアをプレイしてきた方々とは熱い議論を交わし続けていた。

そんな自信もあるし、昔から培ってきた杵柄があることは勿論、加糖と僕はファミリアと心中する気満々であった。ここで急にメインデッキから舵を切って大敗を喫するよりは、相棒のデッキのまま納得のいくプレイで散っていきたい気持ちも大いにあった。
ファミリアはいわば"情"の選択肢になるまで自分の中で咀嚼されていたのである。

さて、神決グループでの調整には毎回僕と加糖がエスパーを持ち込み、思い思いの構築で新環境の調整を行っていた。

初期に調整していたエスパー by 加糖(4マナのヴィダルケンが《アーラコクラ》)

何百回という対人や壁打ちの試行の中で、既に存在していた小技に加え、新環境における大きなポイントを2つ発見することが出来た。

1つ目はあまりにも至極当然な話ではあるが、イニシアチブが最強すぎることである。

左の5点に目がいきがちだが、
地味に右のルートも滅茶苦茶強い。

新環境に触れた人は皆イニシアチブに関して「何故刷ったのか分からない」と口裏を合わせたかのように言うが、実際回してみると本当に何故刷ったか分からない程圧倒的に強力である。
イニシアチブを保持しているだけで統治者以上に累乗的にアドバンテージの差はついていくし、最終層まで辿り着いた後に敗北した試合は一度もなかった。
統治者が「相手を真綿で首を絞めるように」敗北へ導くメカニズムなら、イニシアチブは「相手をガトリングガンで蜂の巣にする」くらいの差がある。
勝利へ直結するアドバンテージをもたらすメカニズムが弱いはずもないのだ。

そして加糖と調整の中気付いたことは、ファミリアのリストにおいて新たな定石と化していた《当世》+《綿密な分析》のパッケージが新環境のスピードに追い付いていないことが挙げられるだろう。

《当世》は《綿密な分析》をディスカードすることによって新規牌を手札に抱えながらアドバンテージを失うことなく飛行クロックを用意することが強力であったが、仮に《綿密な分析》を引いていない場合、また、3点ライフを失うフラッシュバックコストを払いづらい相手だった場合、「必要牌になるかも不要牌になるかも分からないカードをディスカードしなければならない上にクリーチャーを展開することにタイムラグも生じるカード」になる。

さらに先述した《ケンクのアーティフィサー》によって裏側の2/3飛行というクリーチャーの価値が(いくら《断絶》があるとはいえ)圧倒的に下がっていることもある。

《綿密な分析》に関して言えば、イニシアチブによる”ゲームの縮小化”が考えられることを留意したい。4マナで且つソーサリータイミングでしか打てないドロースペルは最早《当世》等によるディスカードをした上で、ようやく2マナでフラッシュバックしなければ新環境のテンポ感についていくことは出来ない。キャストするタイミングが今までより遥かに失われてしまっているのだ。

想像してみよう。貴方は先手4ターン目で《綿密な分析》をキャストした。対戦相手は返しに《アーラコクラ》等のイニシアチブクリーチャーを展開する。貴方の対処札は自分も《アーラコクラ》を出すか除去をしてイニシアチブを奪い返すことだが、ファミリアにおいて4ターン目にクリーチャーを除去しながら相手プレイヤーをパワー持ちクリーチャーで攻撃できる盤面はほとんど存在しない。
では4ターン目に《綿密な分析》をキャストしない場合はどうか。
5ターン目からは《熟考漂い》通常キャストや《古術師》《儚い存在》といった黄金ムーブが存在するし、それらはファミリアの終着点であるコンボルートも通過していてゲームメイクとして強力である。6ターン目以降もパーマネントを展開してコンボへと繋がる道筋を保ち続けたい為、4マナのソーサリーをキャストするタイミングはない。(無論、《白使い魔》が2体いれば話は違う)

つまるところ《綿密な分析》が3~4ターン目にキャストできないのであれば、新環境においてそれをキャストするタイミングはどこにも存在しない。

であれば《当世》+《綿密な分析》のパッケージをすべて抜いて、相手のイニシアチブが奪取しやすく、且つ潤滑剤として素晴らしい《海門の神官》をフル投入して、且つ《アーラコクラ》を採用して自らの押し付けもしやすくしようという魂胆である。
このプランニングは非常に上手くいき、《アーラコクラ》による押し付けだけで勝つマッチも多数挙がるようになった。

そして加糖と口々言っていたのは、最早《白使い魔》より《黒使い魔》の方が強いという新事実である。
《殺し》を採用しているエスパーファミリアは除去コントロールとしての立ち回りも可能になったが故に、それはそもそものデッキコンセプトとして新環境のイニシアチブ合戦に非常に合致している。
ということは相手のクリーチャーを除去した上でイニシアチブを保持/奪還するべく、相手プレイヤーを殴れて、且つ無敵のブロッカーになれる《黒使い魔》はソリューションなのではないか——
最終的に当日には加糖のリスト上で《黒使い魔》は不採用となったものの、この新たなプランは新環境においていつでも検討の余地があるように思える。

そして更にその除去イニシアチブプランへ《喪心》まで採用することによって、既存のエスパーでは処理しづらかった《黒薔薇の棘》《グルマグのアンコウ》等、厄介なクリーチャーを除去し尽くしてイニシアチブと共に盤面を完全に制圧することを、新たな到達地点として完全にデッキへ落とし込むことが出来たのだった。

6/18 晴れる屋川崎店でSE入りを果たした構築 by 僕(本邦初公開)

ディスコードで議論し合う良き友でありエスパーファミリアでのPauper Challenge優勝経験もあるPyotrPavelと新環境について相談していた最中、《蘇生の天使》という新たなマスターピースを提供してもらい、新環境初陣戦である晴れる屋 川崎店さんのSE有りトーナメントでトップ8を果たすことが出来た。
肝心の《蘇生の天使》はイニシアチブと除去でコントロールするデッキコンセプトと完全に合致していて素晴らしい役割を果たし、2マナのマストカウンターとして対青デッキに相当な有利をつけることも可能にした。

上の構築を見て頂ければ理解されると思うが、最早このデッキはファミリアというデッキタイプからは乖離したところに位置している。”エスパーイニシアチブコントロール”と言って差し支えないだろう。事実コンボを決めて勝った試合は一度も無い。
しかしいくらコンボを決める気が無いとしても戦場に降り立つのは各種《使い魔》。対戦相手はファミリアが着地した瞬間にこちらのコンボを警戒した立ち回りにシフトする為、「相手の意識をズラす」というところで精神的なアドバンテージをもたらしやすくするのであって、これは環境初陣戦向けのデッキであったと言えるだろう。

更に特筆するならば、《塵は塵に》を不採用としてその枠に《存在の破棄》を採用しているところも注目したい。拳から血が出るまで台パンし続ける程に親和を毛嫌いしていたのにも関わらず、一体それは何故か。

理由はただ一つ。《塵は塵に》をサイドから採用しなくとも、1:1交換を繰り返しながらイニシアチブを保持しているだけで対親和の勝率が圧倒的に改善されたからである。
新生エスパーの強みがここにある。従来の青白やエスパーでは土地を《塵は塵に》で追放した後、親和が徐々にリソースを回復して《マイアの処罰者》《海蛇》、《グルマグのアンコウ》といった巨大なクリーチャーを連打し始めることが大きな負け筋であり、《塵は塵に》のプランが瓦解することも多い。そこで一度《塵は塵に》で土地を追放するという固定観念を崩し、相手のクロックを捌くことに長けたこのデッキであれば、《血の泉》や《マイアの処罰者》を《存在の破棄》で1枚ずつ追放してクロックを捌き続けることで親和の勝ち手段を実質的に無効化すればよいのではないか——、実際《マイアの処罰者》を無力化しただけで勝ったマッチは枚挙に暇がない。
(尚、後に《存在の破棄》すら枚数が必要ではなくなるとの結論まで至る)

親和の新戦力である《ケンクのアーティフィサー》においても、土地が《断絶》されれば親和にとっては大きなテンポ損になるし、そもそもファミリア側の《アーラコクラ》がフワっと3/3飛行をキャッチしてくれる。親和の新戦力も抑え込めるこのデッキが最強だ!

このコペルニクス的転回によって得た対親和の改善によって、自分の中でエスパーの立ち位置は一躍トップティアーに躍り出ることになる。

(ちなみにこのリストをファミリアのディスコードでシェアした時、saidinから「今後も75枚のうち1枚でもファミリアが入ってたら、このチャンネルに投稿してくれよな(笑)」との皮肉を言われた)

  ②親和のデッキパワーを信じ、新環境用に調整する。


 ⇒ 当日親和を使用するにまで信頼を勝ち取ることになる。

①においてやられ役として挙げられていた親和だが、そのデッキパワーは最早言うまでもないだろう。メインデッキにおける各フェアデッキへの勝率は圧倒的で、明確に不利であると言えるデッキも環境上に数少ない。
更に《ケンクのアーティフィサー》を得て飛行持ちに弱いという弱点も克服したとなると、愈々正真正銘の最強デッキになったと言えるだろう。

しかしながらそんな最強デッキを以てしても、神決当日に持ち込むには渋く感じる──そんな理由が複数存在していたのである。
以下箇条書き。

Ⅰ やっぱり《塵は塵に》はキツい
Ⅱ 当日増えると予想されるボーグルやバーン系のアンフェアにそこまで強くない
Ⅲ ミラーがめちゃくちゃ不毛
Ⅳ 最強のダークホースが現れた

Ⅰから順を追って説明していこう。

《塵は塵に》を3回撃たれたくらいじゃ再起不能にならないのは間違いなく事実ではあるものの、再起不能にならないだけでほとんど負けている。
考えてみれば当然の話だが、いくら親和が圧倒的なリソース回復力を得ているとはいえ、何回も何回もすべてのパーマネントに干渉される1:2交換を繰り返されていたら当然負ける。サイド後《塵は塵に》を撃つことに命を賭けているデッキも数多く存在する中、何故自ら針山に向かって突撃せねばならないのか。

※神決グループ内ではメインから《塵は塵に》を搭載したボロスラリーが出現してもおかしい話ではないという結論が導かれている。

Ⅱに関して言えば、当日のメタゲームからもかなり正確なメタ読みだったと言える。数回戦が終わった段階で上位卓と下位卓は明瞭に「親和に勝てるデッキ」「親和」に分けられ、更に「「親和に勝てるデッキ」に勝てるデッキ」がぽつぽつと上に残っている印象だった。
そもそも親和は土地構成の約半分がタップインで構成されており、タップインを嫌ってアンタップインを増やした構築は往々にして土地事故に苛まれる。タップインのテンポ損を親和能力による軽減でカバーしている分、そのテンポロスを突かれた場合にはすぐさま山札の上にそっと手を置くこと以外に出来る行動は無くなる。
結果として当日に第二勢力となったブラッドバーンは、なんとか試合の序盤を生き残った親和が繰り出す必殺:《勢団の取り引き》の上から圧殺出来る程の継戦戦力を持ったアンフェア・デッキであり、神決グループ内でも間違いなく流行するであろうと予測されていた。
流行するであろうデッキに耐性のないデッキを何故握るのかと、尚更親和を握る気持ちは薄れていった。

Ⅲであるが、《ケンクのアーティフィサー》を得た親和のミラーマッチはあまりにも面白くなかった。
一見極めて感情的な話のように聞こえるが、ストリートファイターシリーズで有名なウメハラ氏が「ミラーマッチが面白いキャラしか使わない」と公言しているように、ミラーマッチはお互いの手の内が晒されている状態で相手を上回ろうとするから面白い。しかし、以前ですら親和のミラーマッチは相手より2ドローを連打して《マイアの処罰者》に還元することしかプレイの幅がなく不毛であったが、新環境はそれを遥かに上回る不毛さであった。
新環境の親和のミラーマッチは相手より《ケンクのアーティフィサー》を多く出すことしかゲームの焦点が無いのだ。3/3破壊不能 飛行を止める術が親和には本当に存在せず、《ケンクにアーティフィサー》を出されたが最後、《マイアの処罰者》をはじめとするクロックは一瞬でビタ止まり。それがサクリファイスされた後に《血の泉》で回収されたらいよいよゲームセットである。

(尚、神決グループ内ではこの不毛さを鑑みて《破壊的一撃》の採用を考えていた程である──、一応ジェスカイブリンクの《浄化の野火》を無効化する役割も持っている)

あと焦点があるとすればせいぜい相手より先に《ゴリラのシャーマン》を置いて《ケンクのアーティフィサー》圏外に相手のマナを縛ることくらいしかない。

※尚、この意見は後に友人であり調整仲間のflower氏の懐柔によってある程度撤回することになる。彼によると、「ケンクの有無関係なしに、より綺麗に回った方が勝つ」とのこと。結局不毛じゃねえか!

そして最後、Ⅳであるが——、詳しくはこちらの記事をご覧いただきたい。

パウパーの平日大会に突如として現れた現レガシー神兼ヴィンテージ神のタカノさんが持ち込み始めたこのデッキは、我々パウパー原住民の淡い幻想をいとも簡単に打ち砕いた。
3Turn Killを造作もなく成し遂げ、更にはマナフラッドをしても相手を屠ることの出来るこのデッキは、僕たちが辿り着いたあらゆる選択肢を無へと帰し、環境最強デッキはまさしくこれなのではないかと本気で信じ込むまでに至ったのだ。
信じられないくらい強力なデッキが、他フォーマットの猛者によってひっそりと爆誕していたのである。


  ③未知の板デッキを探す。


 ⇒上のⅣを参照してくれ・・・

誰にも話したことはなかったが、ものの直前まで、本気で赤単ブリッツを当日に回すか悩んでいた。赤単でリーグにも潜り続けていたし、潜るたびにこのデッキの如何に強力かを痛感するのであった。思わず虜になってしまうまでにこのデッキは強力で、抗いようもなく3,4ターン目に対戦相手の目の前が真っ暗になっているのはパウパーにあるまじき快感を得ることが出来る。遅くても5ターン目には白目を剥いて泡吹いてる。

実際①のエスパーファミリアを回して何度か平日のタカノさんと相対することがあったが、最初こそ勝ち越していたもののこちらの手の内がわかるとなると途端に分が悪くなり、最後にはサイドを完全に読まれての敗北。やがてタカノさんと同じコミュニティに属する方の同デッキとも当たるようになって対赤単に対しては徐々に負け始めることとなった。
デッキパワー×プレイヤースキルの最上級という壁に阻まれ、いよいよ僕も「押しつけが板」と、この新たな板デッキを握るかと半ば諦めがつくような圧倒的な差を見せつけられ始めた最中。

とあるデッキと”再び”出会った。

かつてはエルフマスターとして名を馳せ、現在は親和にお熱な強豪プレイヤー、Walkerのリストが僕のTL上に現れたのである。

■ 諦念という決心


自分語りも甚だしいが、僕はデッキビルダーとしての能力が著しく欠如している。かつては青黒ランデスとかいったオモチャを組み上げて遊んでいたがビルダーとしての能力はその程度で、0⇒1を創造することを本当に苦手としている。故にコピーデッカーとしてMTGをプレイし続けていたし、メインボードの微調整ですら怯えながら行う始末であった。

①で掲載したエスパーファミリアも、加糖という0⇒1を産み出せるプレイヤーとたまたま仲が良かった為に生まれた産物であって、自分ひとりでは絶対に辿り着くことの出来ない境地なのは重々承知だった。
エスパーの調整中に加糖から《喪心》を入れるというアイデアを聞いた時に膝から崩れ落ちそうな感覚になったのを克明に覚えているし、《黒使い魔》を入れるというヴィヴィッドな発想も彼由来のものだ。

僕はクリエイターではない。クリエイターにはなれない。
二番煎じの塊みたいな人間である。

それ故、新たな試みをすることを完全に諦めた。

Walkerのリストはあまりにもクリエイティブで、親和というアーキタイプの新たな可能性を明確に示唆するものだった。

"再び"と銘打ったのには訳があり、以前にも僕はWalkerの親和のリストをコピーして晴れる屋 川崎店のSE有りのトーナメントでTop8に残った経験がある。その時に受けた圧倒的な0⇒1の才能に、筆舌しがたい感銘を受けたことは言うまでもないだろう。

当然と言えばそうだが、親和から飛び出す《対抗呪文》《定業》《喪心》は対戦相手の意識外からの一撃として明確なアドバンテージとして成立している。その土地構成も独特なもので、アンタップインを極力排した対《ゴリラのシャーマン》性能は,、対赤デッキのサイドボード後に活躍すること間違いない。

このリストの最も特徴的な2種である《対抗呪文》《喪心》は、1:1交換するカードというもの以上の役割をアーキタイプ:親和において為すことが出来る。
親和の強みは圧倒的なリソースとその出力の大きさによるゲームの再現性の高さにあるが、この2種のカードによって《マイアの処罰者》等の押し付けはそのままに、相手の脅威を”確実に”捌きながら押し付け続けることにリソースの出力を割くことが出来るようになり、従来よりもクロックパーミッションの色が強く出るようなリストに仕上がっている。
”確実に”と念を押したのは、従来の親和では除去は《感電破》、カウンターは《金属の叱責》と、最高峰ではあるものの特定のデッキに対して有効牌とはなりづらいカード群が主流であったことに所以がある。
故に《対抗呪文》や《喪心》は環境”最上”の受け札として、”確実に”クリティカルな相手のカードを弾き続けることが出来ることがWalkerのリストのソリューションたるところなのだ。

更にはカウンターデッキ特有の「カウンター構えてたけど結局相手の強い動きなかったから構え損したわ」のあるある《命取りの論争》《勢団の取り引き》によって自らのさらにアドバンテージを伸ばす形で解消しており、カウンターの構え損によるテンポ損の影響を受けづらい。各カードのシナジーが異常に高いことは特筆に値するだろう。

このリストと出会った時、僕は自分でアーキタイプの限界を決めていたことを恥じ、そして何より自分の想像力、創造力の無さを恥じ、同時に自分は模倣することによってしか高みへ行けないことを悟り、このリストを持ち込むことを決心した。
リストを紹介するときにポロっと述べているものの、僕が持ち込むことを決心したのは勿論②で先述したⅠ~Ⅳの各弱点を網羅する裏付けがあってのことだ。

Ⅰ やっぱり《塵は塵に》はキツい
 ⇒《対抗呪文》が最強の受け札として機能している。

Ⅱ 当日増えると予想されるボーグルやバーン系のアンフェアにそこまで強くない
 ⇒《対抗呪文》が最強の受け札(以下略)

Ⅲ ミラーがめちゃくちゃ不毛
 ⇒《対抗呪文》が(以下略)

Ⅳ 最強のダークホースが現れた
 ⇒《対抗(以下略)

結論:《対抗呪文》が最強

《島》に次いで最強と言われるだけはある

昔から言われていることだが、パウパーというフォーマットは攻める手段より受ける手段の方が遥かに豊富で強力である。近年は古豪Birbによる抗議が為されたように攻める手段のカードパワーが指数関数的に上昇するようになったものの、《対抗呪文》といった最強の受け札が揺らぐような予感は全く以て無い。
《喪心》も、苦手としていた英雄的系のデッキや赤単ブリッツに対する追加の除去としての役割は勿論、ミラーの《グルマグのアンコウ》や《海蛇》を後腐れ無く除去できる上、イニシアチブを相手から奪取するときに「《感電破》だと除去しきれなくて・・・」という親和あるあるな状況を打開することが出来る。
たかだか6枚の差で・・・と思うかもしれないが、親和のデッキを掘るスピードが異常であることはパウパーを触れた方ならすぐお分かりだと思う。この6枚はほとんど常に手札に1枚は抱え続けることが出来る。《感電破》まで含めれば10枚もの干渉手段だ。

つまるところこうだ。

最強の盾を手に入れた最強の矛が弱いと思うか?そんなはずはないだろう!

↓ 最終的に完成した75枚 ↑

https://www.mtggoldfish.com/deck/4919318#online

あらゆるファッティよりも《ケンクのアーティフィサー》の優先順位が高い為、《グルマグのアンコウ》や《海蛇》よりも枚数を多く採用している。
4枚までテストプレイしたが、2枚が適正枚数で間違いないだろう。

また、《勢団の取り引き》を3枚に増量したり《肉貪り》を3枚サイドに搭載することで赤単ブリッツ・バーン・ボーグルといった代表的なアンフェアを強く意識していることが一目瞭然である。加えて一時期はこのタイプの親和におけるサイドボードに採用されることは無かった《強迫》も、対アンフェアで重要なカードをピックアップ出来ることから2枚採用している。勿論《塵は塵に》を引っこ抜くのに最適なカードだ!

リスト提出の直前まで悩み続け、日本パウパー界を代表する一人であるけいがさんとはリストを共有したりして問題点を指摘し合い、75枚すべてに納得の行くリストに仕上げることが出来た。
平日大会や休日大会でもその圧倒的なデッキパワーから「一見弱そうな回り」程度では負けることは無く、2枚で土地が止まった試合以外は全て勝利するなど。
試行回数と共に結果を伴ったことによってそれは僕自身の自信へ繋がり、この75枚に対する信頼を徐々に得ることも出来た。

そして長い旅路の末、僕はこの75枚で当日デッキ登録を済ませることとなった。

■ 賭けの果て


当日、ディスコードの皆からの熱い応援

結果を先ず先に言おう。7勝2敗。19位。

本来は有利なマッチアップであるはずの初戦を凄まじいハードラックの前に落とし背水の陣を敷くことになった僕は、結果としてサイドを減らしていたエルフ以外には勝ち続けることが出来た。

勿論268人という圧倒的な人数の中での成績と考えれば、誇らしいものなのかもしれない。高望みなのかもしれない。寧ろデッキを切り替えてからの期間を考えれば望外の結果なのかもしれない。
しかし、トップ8に残るためにはあと1勝足りなかったという事実が、現実が、重く、のしかかってくる。

2敗が確定した盤面で、僕はあまりのあっけなさに暫く投了することを忘れていた。

対戦相手の方が何故か申し訳なさそうな顔をしていたのが脳裏に焼き付いている。

これもまた運命でしょうと、喫煙所で吐いた煙が震えて、いつもはほんのりとした甘みと深みで僕を楽しませてくれるアメスピも、あの日のあの時ばかりは少ししょっぱく感じた。
あの味は二度と忘れることはないだろう。


しかしながら神決グループからは7-2を3人排出した。僕と加糖、そしてエルフ使いの椎葉さんである。椎葉さんは9位、加糖は10位、そして僕の19位。
母数8人に対して3人が7勝している為、神決グループで行った調整の方向性が間違っていなかったことが暗に証明されたようで、そこはとても安堵の気持ちで満たされている。

ここへ向けての方策はどうやら間違っていなかった。
少しの運と、少しの判断力と。そうやって少しずつ積み重なっていった負債が2敗の結果をもたらしてしまった。
勝ち点1の重みを、これでもかと味わうことになってしまったのだった。

第1期が開催されたということは、もちろん第2期も開催されるに違いない。
この反省を踏まえて、今度はより高度な次元まで自分自身を高めていきたい。僕にはもったいないほどの最高の友人達と一緒に、今度こそ神へと辿り着きたい。

以上が僕の備忘録となる。

ここまで読んで頂き有難う御座いました。

以下は読んでも読まなくてもどちらでも構いません。



■ 私信 (おまけ)


僕にはMTGを始めたての中学1年生の時に知り合った、9年以上の付き合いの友人がいる。一緒にスタンダードもやったしモダンもレガシーもやったし、パウパーも一緒に何年もプレイしている。

休日はほとんど一緒に過ごしていたし、中高の同級生よりも遥かに親睦が深い。(それはどうなんだ?)
高校時代には修学旅行のお土産をわざわざ郵送するくらいには気の知れた仲である。

ただ——彼は僕と大会で当たる度に完膚なきまでに叩き潰してくるし、やたらMTGに関して僕に対する当たりも強い。プレイの裏付けがなかったら裏付けが取れるまで糾弾してくるし、かといって僕が彼の何かを咎めようとしてもその隙を全く与えてくれない。とはいえ気が付けば大会で5-0を連発してSE有りのトーナメントでも常に結果を残し続けるし、果てにはオンライン大会でも無双するような、クソムカつく友人。

そんなクソムカつく大親友がいる。

でも、彼に叩き上げられた無数の日々のお陰で今僕は自信を持ってプレイ出来ているし、「でもアイツならもっと上手くプレイする」と自分のプレイを見直す契機も作ってくれている。そんな感謝すべき友人。
先日僕が人生初の5-0を達成した時は、我が身のことのように喜んでくれて、Twitterでも大はしゃぎだった。僕の悲願であることを知っていたからか、何故か5-0した僕本人よりテンションが上がっていた、ユニークな奴。

しかしそんな友人がパウパー神に出場できないと知って、僕は心底落ち込んだ。
忙しい職種であることは知っていたし、彼が敬体でツイートする時は感傷的になっている時と決まっている(当社比)。

大会が終わって自分の部屋で虚空を眺めている時、ふと思い立って、いつぶりか、唐突にLINE通話をかけてみた。反応は無かったが、一件だけ、
「ごめん、勝てなかった」
と残し、僕はLINEを閉じた。

彼からの返事はいつものように素っ気なく、ちゃんとムカつく一言も添えられていたが、いつもよりどこか優しげで、でもやっぱりなんかムカつく!

次はお前も絶対出ろ。俺にお前を越えさせろ。宜しく。
第2期はお前と決勝で戦いたいから。

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