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夢日記「奪われしとび森」_2023/08/03

伯父一家がうちに遊びに来た。
伯父夫婦の娘、つまり私のいとこであるマユちゃんは現在小学2年生。年こそ離れているものの、私に非常に懐いてくれている。

親たちがリビングで雑談に花を咲かせている間、私は退屈そうな彼女を自分の部屋へ案内した。


部屋に入るやいなや、マユちゃんは「何して遊ぶ?」と無邪気な笑顔で尋ねてきた。私たちが失ってしまった類の笑顔だ。

「じゃあ……ゲームでもする?」
「えっ、やりたいやりたい!」
「おっけ、お父さんとお母さんには内緒だよ」

伯父夫婦は「ゲームをすると頭が悪くなる」という古典的な考えの持ち主であるため、マユちゃんがいくらねだっても、Switchはおろかスマホゲームすらプレイさせてくれないという。
私はゲーム反対派反対派だから、ここぞとばかりにゲームの楽しさを彼女に感じてもらおうと思った。

「うちSwitchとかなくて、64と3DSしかないんだけど、どっちがいい?」

確かこの辺に仕舞っておいたはずなんだけど。最近はどっちもやってなかったから、押し入れの奥から引っ張り出してくる。

「ろく……よん……? すりーでぃー、えす?」

うむ、そうか。64はともかく、今をときめく小学2年生にとっては3DSすら過去の遺物なのか。
ジェネレーションギャップだ。私はGGを感じている!
まだ自分が人類史の最前線にいると思っていた私は、ちょっとショックを受けた。


その後、64に必須なテレビが部屋にないということに遅まきながら気付いたため、結局マユちゃんには3DSをやらせてあげることになった。

カセットは「とびだせ どうぶつの森」を選んだ。
他に私が持っていたのといえば、メタルギアや戦国無双といった物騒なラインナップ。小2女児にそんなゲームをやらせるわけにはいかなかった。


「やあ」

隣で三角座りをしてとび森に集中するマユちゃんをほのぼの眺めていると、いきなりそんな声が聞こえた。
ばっと振り向くと、私の部屋の真ん中に、中学の同級生だった宮澤が立っていた。

私はこれだけでも心臓が飛び出るくらい驚いたが、突如現れた宮澤に対する諸々の疑問は、さらなる驚きでかき消されることになった。

ガヤガヤとした騒がしさを感じて窓から外を覗くと、おびただしい数の若者たちが私の家を取り囲んでいたのだ。100人はくだらないだろう。
しかも、その顔をよく見ると、全員見覚えがある。宮澤と同じく、彼らも私の中学の同級生だった。

私は驚きと困惑で声も出ない。
知らぬ間に部屋に同級生が入ってきていて、家の外ではまた100人の同級生がひしめいている。
そういえば、と隣に目を向けたが、マユちゃんはこの異変を気にも留めず、無表情で黙々ととび森を続けている。
おかしい。
私は悟った。この世界は、何かがおかしい。


その瞬間。
宮澤の妙に長い手がマユちゃんの持つ3DSに伸び、スロットからとび森のカセットを強奪した。カセットだけを。
そして彼はスボンのポケットから自らの3DSを取り出し、奪ったカセットを挿し込んだ。
マユちゃんはまったくの無抵抗だった。

「宮澤、どうして――」

私が聞いても彼は答えない。
無言・無表情のまま、宮澤は踵を返し、ためらうことなく窓に向かってタックルをかました。
ガラスの割れる音を合図に、外では100人の同級生が2つに分かれて道を作る。
宮澤はまるでモーセのようにその間をとっとこ走り抜けていった。


実際にガラスが割れる音ってあんな感じなのか。「Smash Hit」みたいだな……。
その場で起こったことに対して脳の処理が追いつかず、私はしばらく呆然と立ち尽くしてしまった。
依然としてマユちゃんも無言・無表情。何の反応もない。

――ああ、み、宮澤! 早く彼を追いかけなければ!
本能の啓示。
何としても宮澤からとび森のカセットを奪い返さないといけない。
奪い返さないといけない。
奪い返さないといけない。


私は急いで割れた窓から外に出て、同じく割れた100人の同級生の間を通って宮澤の後を追った。
史実のように人の海が戻るということはなかったものの、右を見ても左を見ても同級生たちは無表情だった。

家の外はなぜか近代フランスみたいな街が広がっていたが、いちいち驚いている暇はない。そういう世界なのだ。

遠くに宮澤の背中を認めた。
もう一段階ギアを上げて、ひたすら彼を追う。
速く走ることに全神経を動員する。
車にクラクションを鳴らされても関係ない。
後ろから銃撃されても関係ない。
私は宮澤を追い続けた。


ハリウッド映画さながらの追跡劇の後、私は宮澤に手が届きそうなほどすぐ背後まで迫っていた。

「おああ!!!」

勝利の咆哮をし、宮澤の肩を掴んで思いっきり後ろに引き倒した。
相も変わらぬ無表情で道に倒れる宮澤の手には、マユちゃんから強奪したカセットの挿入された3DSが握られていた。

私は3DSを取り上げ、カセットを一度ぐっと押し込む。カセットが抜ける。
本当はとび森であるはずのそれは、どこからどう見ても「ドンキーコング」のカセットだった。




今日、そういう夢を見た。


※登場人物は仮名


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