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今日の絵本11:『ゆかいな かえる』ジュリエット・キープス/石井桃子

かえるの暮らしもわるくない

11_ゆかいなかえる

水の中にゼリーのようなタマゴ。やがてタマゴはおたまじゃくしに、後足前足がはえてきて、しっぽが縮んでかえるになった。4匹のかえるは気ままに暮らす。潜ったり、泳いだり、遊んだり……。時には食べられそうになるけれど、のらりくらりとかわして笑う。夏中歌って遊んで過ごす、ゆかいなかえるの物語。

* * *

「かえるの暮らしもいいもんだな」
つい、そんな風に思ってしまうこの絵本。

内容は淡々とかえるの1年間の生活を描くのみ。鳥獣戯画を思わせる飄々とした「ゆかいなかえる」たちが、のらりくらりと暮らしている、ただそれだけです。けれどこのかえるたちの、なんと楽しそうなことか。サギやカメに食われそうな時でさえ彼らに危機感はなく、のらりくらりとやり過ごします。かえるたちにとって「生きること」は「遊び」そのものであり、自分たちが生きてここに在るということが楽しくて仕方ないのです。

絵に使われているのは水色、緑、黒、そして紙の白の4色のみ。けれども地味な印象はまるでなく、軽妙洒脱で心地よい。表紙からして洒落者の顔、手に取らずにはいられませんが、表紙を開いて完全にノックアウトされました。見返しに並ぶまあるい黒・黒・黒……茶目っ気たっぷりでなんとも愛らしいオタマジャクシの大群です。ここを見れば絵本の中にどれほどユーモラスな世界が広がっているか、わかるというもの。

奥付によれば、作者のジュリエット・キープスは「生きものたちの動くフォームが、何よりの絵の教師だ」と言っていたとか。流れるようなフォルムで描かれる、かえるたちの伸びやかな姿、画面にあふれる躍動感は、彼女のそうした姿勢から生まれたのだと、なるほど納得。

かえる好き(わたしです)垂涎の1冊であるのはもちろんのこと、読み終えた誰しもを楽しい気分にさせてくれる、まさに「ゆかいな」1冊。1961年にアメリカで、1964年に日本で出版されて以来、50年以上ものあいだ愛され続けてきたロングセラーです。

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生き物好きのわが家の息子(3歳10カ月)もご多分にもれず、一読してハマりました。まず見返しに釘づけ。1匹1匹指差して「なにしゃべってるの?」と聞いてくるので、なかなか本文に入れません。彼が一番好きなのは、タマゴからかえるになっていくさまが描かれた見開き。成長の過程を指でたどりながら、「こうやってこうやってこうやって……かえるになるんだよね!」とうれしそうに眺めています。

※「今日の絵本」は、家で過ごす時間のために、ずいぶん昔に書いていた絵本ブログから、おすすめ絵本のレビューをランダムに紹介する記事です。リアルタイムに執筆した文章ではありません。ほんのちょっとでも、なにかのお役に立てれば幸いです。

オススメ度(読み聞かせ当時の記録です)
母------------------> ★★★
3歳10カ月男児-> ★★★

『ゆかいな かえる』
▽ジュリエット・キープス(文・絵) 石井桃子(訳)/福音館書店 (1964/07/15)
▽読んであげるなら3歳から 自分で読むなら小学校初級むき

関連情報
▽ジュリエット・キープス プロフィール:1919年ロンドン生まれ。英国のペックマン、ブライトン両美術学校、米国シカゴのインスティチュート・オブ・デザインを卒業。1944年に初めての絵本『五ひきのこざる』を描き、それ以後数冊の絵本を出版。絵や織物のデザインでニューヨーク近代美術館の賞も受けた。

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フリーライター。『デザインのひきだし』レギュラー編集者。著書に『印刷・紙づくりを支えてきた34人の名工の肖像』『もじ部』『文字をつくる9人の書体デザイナー』他。Web連載:活字・写植・フォントデザインの歴史–書体設計士・橋本和夫/「書体」が生まれる―ベントンがひらいた文字デザイン

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