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今日の絵本09:『あまつぶぽとりすぷらっしゅ』アルビン・トゥレッセルト/レナード・ワイスガード

雨粒が小川になり、湖になり、大河になり、
そして海に流れ込む自然の進行が
リズミカルな文章と愛らしい絵で語られる

09_あまつぶぽとりすぷらっしゅ

ぽとり ぽっとん すぷらっしゅ
ぽとり ぽっとん すぷらっしゅ
ぽとり ぽっとん すぷらっしゅ
あめは ふる ふる あさ ひる ばん

一粒の雨が山あいの細い川を下っていく。川は次第に幅を増し、やがて雨粒は広大な海に繰り出していく――。雨粒がたどる壮大な旅を「ぽとり ぽっとん すぷらっしゅ」というリズミカルな言葉を繰り返し用いながら淡々と描く美しい自然科学絵本。

* * *

以前「雨を楽しむ絵本」をテーマに調べていたときに表紙を見てひとめ惚れしていたこの本を図書館の棚でついに見つけ、借りてきました。ネット上の縮小画像で見た印象にたがわぬ美しい表紙。はやる気持ちを抑えながら家に持ち帰り、3歳児と一緒に読みました。

「ぽとり ぽっとん すぷらっしゅ」
リズミカルなこの言葉に乗せて、物語は始まります。雲を離れた雨粒はひな菊の花びらや葉、うさぎの鼻、茶色いくまのしっぽ、あまがえるの背中へと「ぽとり ぽっとん」落ちていく。数えきれないその雨粒が集まって水たまりになり池になり、それは川へと流れ込み――。水の旅はまこと壮大でスリリング。海に向かって下るにつれて、さまざまな光景が広がり、いろいろな生き物たち――もちろん人間も含めて――が登場します。美しい絵とリズミカルな文章で雨が海に流れ込むまでの自然の進行を学ぶことのできる素晴らしい絵本です。

ひとめぼれした表紙は、シックな色彩のなかに白いひな菊が浮かび上がり、くりりと丸い目をしたアマガエルが画面右下へ飛び跳ねていく情景を描いたもの。内容の美しさを想像させるに十分な絵です。しかし息子にはこのシックな色彩が暗く感じられたのか、はじめは「よみたくない」と拒まれてしまいました。

そこで中を開いて見せました。そこにあったのは、シンプルにデフォルメされた生き物たちの数々。くま、うさぎ、アマガエル、魚、鳥、虫――そのどれもが実に愛らしく描かれているのです。それだけじゃありません、船や、車でさえ、余分な線を省き平面的に描かれたそれらの姿は実に愛らしいのでした。もちろん、生き物好きの息子はあっという間に画面に釘づけです。

息子に読みながら、わたしは何度もほうっとためいきをつきそうになりました。ワイスガードの絵の素晴らしさときたら。抑えた色味(これは3色印刷。少し緑がかったスミ、黄色、茶色)、卓抜したデザインセンスを感じさせる画面構成。愛らしい動物たちの描写、美しい自然風景。これを名作と言わずしてなんと言いましょう。

それにしてもこの雰囲気、「ロシア絵本」に似ている……と思いながらプロフィールを確認したところ、ありましたありました。「アフリカのコンゴーの洞穴画、ドイツの聖書挿絵、フランス、ロシアの絵本、アメリカ初期の絵画などを多面的に学ぶ。」と。やはり影響を受けているんですね。1947年コールデコット賞オナーブック(次席)受賞作品。

「ぽとり ぽっとん すぷらっしゅ」という楽しいフレーズが繰り返されるためか、読み終えると息子は「ぼくもすぷらっしゅしたーい」と言い出しました。描かれている水滴を指しては、「あっ、この人もすぷらっしゅしてるよ!」と言うのです。どうやら、水滴をつけていることを指しているもよう。子どもの発想はおもしろいですね。

見れば見るほど好きになる味わい深い絵本に、また出会うことができました。本作は違いますが、ワイスガードはマーガレット・ワイズ ブラウンと組んで何冊か絵本を作っているので、こちらも探してみようと思います。

オススメ度(読み聞かせ当時の記録です)
母------------------> ★★★
3歳11カ月男児-> ★★☆

※「今日の絵本」は、家で過ごす時間のために、ずいぶん昔に書いていた絵本ブログから、おすすめ絵本のレビューをランダムに紹介する記事です。リアルタイムに執筆した文章ではありません。ほんのちょっとでも、なにかのお役に立てれば幸いです。

『あまつぶぽとりすぷらっしゅ』

▽アルビン・トゥレッセルト(作) レナード・ワイスガード(絵) わたなべ しげお(訳) /童話館出版(1996/06/10 原著は1946年初版)/印刷・製本:大村印刷
▽読んであげるなら およそ5歳くらいから

▼関連情報
▽アルビン・トゥレッセルト (Alvin Tresselt) プロフィール:1916年ニュージャージー州パセイックに生まれる。「ハンプティ・ダンプティ」誌の編集、ペアレンツ・マガジン・プレス社の編集長などを歴任。自然をテーマにした短編を書き、レナード・ワイスガード、ロジャー・デュボアザン、リンド・ワードと組み、多くのすぐれた絵本を作る。岩崎ちひろ、西巻茅子、瀬川康男など日本のイラストレーターとの共作も多い。

▽レナード・ワイスガード (Leonard Weisgard) プロフィール:1916年コネティカット州ニューヘイブンに生まれる。ブルックリンのプラット・インスティテュートで商業美術を学ぶ。モダンダンサーなどを経験した後、the New Yorker、Harper's Bazzar誌などで美術担当、その間物語とイラストレーションの両分野で子どもの本の創作を志す。アフリカのコンゴーの洞穴画、ドイツの聖書挿絵、フランス、ロシアの絵本、アメリカ初期の絵画などを多面的に学ぶ。1947年『The Little Island』(ゴールデン・マクドナルド文)でコールデコット賞受賞、その他の作品でAmerican Institute of Graphic Art賞、the Society of Illustrators賞など受賞。今世紀アメリカで最もすぐれたイラストレーターの一人に数えられ、その作品は150冊余りもある。

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