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今日の絵本07:『11ぴきのねこ』馬場のぼる

こずるくて弱っちい、愛すべきねこたちの愉快な絵本

07_11ぴきのねこ

11ぴきの野良ねこは、いつもおなかがペコペコでした。ある日ねこたちのところに、じいさんねこがやって来て言いました。「あの山のずうっと向こうの広い広い湖に、怪物みたいな大きな魚が住んでるわい」。「そんな大きな魚なら、おなかいっぱい食べられるぞ」11ぴきの猫はさっそく湖に向かい、怪物のようなその魚をつかまえようとしますが――。

* * *

作者の馬場のぼるさん(1927-2001)は、日経新聞に連載していたこともある漫画家(1970-84年「バクさん」)。1949年に漫画家を目指して上京し、翌年「ポストくん」という作品でデビューしました。この『11ぴきのねこ』はそんな馬場さんの絵本作家としての代表作品。子どもたちに大人気を誇るシリーズ全6冊の記念すべき第一作です。

のほほんとしてちょっととぼけた味わいの11ぴきのねこたちキャラクターと、思わずクスクス笑ってしまう愉快なストーリーが楽しい絵本。漫画家さんの描いたキャラクターらしく生き生きのびのびと動き回るこのねこたち、なんとも人間くさいのがシリーズを魅力的にしている理由の一つ。

たとえばこのお話も、クライマックスまでは

「どんなおおきな かいぶつだって,
みんなで ちからを あわせれば,
つかまえられるよ,ぜったいに」

というセリフがテーマとなっているようにも取れる筋書き。一歩間違うとお説教くさくなってしまいがちなこのテーマに、馬場さん独特の味つけがほどこされて、見事に楽しい世界に仕上がっています。

ねこたちは決して聖人君子ではなく、時にずるく時に卑怯で時に弱っちく、がまんすべきこともがまんできなかったりします。そんな人間くさいキャラクターに仕上がっているのは、馬場さんが人間というものをその弱さもひっくるめて愛し、「人間ってかわいいよね」と大きな心で受けとめているからじゃないでしょうか。馬場さんの人間を見つめるあたたかな眼差しをしみじみと感じながら、けれど読んでいる間は小難しいことなど一切忘れて、子どもと一緒にガハハと笑ってしまう、それがこの『11ぴきのねこ』シリーズなのです。

3歳半男児もこのシリーズが大のお気に入り。保育園で先生に読んでもらっている姿を何度も見かけましたし、家でもくり返しながめています。ところどころ文章を暗誦していて、時々自分で読んでいるのを耳をそばだてて聞いているとおもしろいです。彼はまだ文字を読めないので、覚えているストーリーを適当に読んでいるんですね。聞いているとどういう言葉が彼にとって印象的なのかがよくわかります。この絵本では「ねんねこさっしゃれ」という言葉が印象深かったようです。

それから、あっと驚くラスト。息子はもう、このページが大好きで大好きで、ここにさしかかるたびにニヤリとしながら、何分でもラストの2見開きをながめているのです。

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本文ページの印刷は墨に加え、ピンク、紫、青などの特色インキが用いられています。オフセットのカラー印刷は通常、シアン(青)、マゼンタ(赤)、イエロー、スミの4色をかけ合わせてさまざまな色を出すのですが、インキの状態ですでにピンクやオレンジなどある特定の色が作られているのが特色インキ。通常印刷に比べ、澄んだあざやかな色が出やすいのが特徴です。この絵本ではページごとに墨インキのほか3色のインキを組み合わせていますが、その組み合わせがとっても良く、単調さをまったく感じさせません。

11ぴきのねこシリーズの原画はリトグラフという方法で制作されたものだそうです。リトグラフとは版画技法の一種で、分版は作家自身が行なっています。『子どもと絵本の学校』(日本子どもの本研究会編/ほるぷ出版/1988/07/10)という本の中で、馬場さんご自身が次のように述べられていました。


 『11ぴきのねこ』は、私がリトグラフに取り組んだ初めての作品である。
 リトグラフというのは、主版から色版のすべてを自分で描き分けなければならないので、オフセット印刷の原画にくらべると、ずいぶん時間がかかる。ひと仕事終わるとグッタリしてしまって、もうこういうのは二度とやるまいと思う。
 けれども不思議なもので、ほんの少し時がたつと、なんとなく次なる作品の構想を考え始めたりしているのだ。(P.173)

表紙の絵も大好きです。11ぴきのねこたちが、茜色に染まった空を眺めているところ。空にびっしりと浮かぶ雲たち、なんともおいしそうな形をしているではありませんか。

馬場のぼるさんは2001年4月7日、胃がんのために亡くなられたとのこと。享年73歳。最後の作品となった『ぶどう畑のアオさん』の初校(校正)を、病に蝕まれた体をおしてチェックした数時間後に、息をひきとられたのだそうです。なんと凄絶な最期。これほどまでに真摯に創作に取り組んだ馬場さんの愛すべき作品の数々を、いつまでも子どもたちに伝え続けたいものです。

※「今日の絵本」は、家で過ごす時間のために、ずいぶん昔に書いていた絵本ブログから、おすすめ絵本のレビューをランダムに紹介する記事です。リアルタイムに執筆した文章ではありません。ほんのちょっとでも、なにかのお役に立てれば幸いです。

オススメ度(読み聞かせ当時の記録です)
母--------------> ★★★
3歳半男児---> ★★★

『11ぴきのねこ』

▽馬場のぼる(作)/こぐま社(1967/4/1)

▼『11ぴきのねこ』シリーズ6冊セットもアリ。


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