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道で大号泣かましていた見ず知らずの高校生を黙って抱きしめてくれた女の人の話

わたしは交通事故に遭遇したことがある。
加害者でも被害者でもなく、発見者として。

夏の終わりかけ、日が傾いて少し肌寒くなってきた頃、いつもの塾の帰り道を歩いていたら、バンッ!と大きな音がした。
音のする方に近づいてみると、頭部から血を流して横たわっている男性と普通車が止まっていた。
夏休み前にちょうど救急救命の研修を受けたばかりだったので、とりあえずAED…!!と思い記憶を辿る。
わたしは視覚優位の画像記憶タイプなので、来た道のビル内にAEDがあったのをすぐ思い出し、AEDをビービーと鳴り響かせながら運んだ。
AEDを持っていく頃には4、5人が事態に気がついていて、幸いにもその中にお医者様がいたので殆どをその人におまかせし、ただただ見守った。
周りにいた大人たちが手際よく消防車やら救急車を呼び、しばらくすると3台ぐらいが現場に到着。
その頃には周りの人だかりが道にあふれるぐらいには増えてきて、警察は何度も注意されてもカメラを向ける手を尚やめない野次馬たちの対応におわれていた。

1時間ぐらいたったのだろうか、傾いていた日はとっくに落ち、警察の事情聴取も終え、集まっていた人々もまばらになっていった。
すべてが終わって私も帰ろうと思い、自転車置き場に向かうのだが、震えが止まらない。

AEDのビービーとした音、男性から流れる血、戻らない意識、野次馬たちの遠慮のない好奇の視線、鳴り止まないサイレン、そのすべてがひと段落ついた私に一気に襲ってきた。
感情のキャパを超え涙が止まらなかった。

怖かった。
目の前で生死をさまよう人を初めて目の当たりにして。
こんなにも怖いのに、それを囲う野次馬との温度差に。

涙がとめどなく溢れてきて道に突っ立ってただただ泣きじゃくった。
帰路に着く何も知らない大人がたくさん通ったがまわりの目は気にならなかった。
見かねたお姉さんが声をかけてくれて、優しく抱きしめてくれた。
実はここのやり取りのことをまったく覚えてなくて、でも、泣き止むまでお姉さんがずっとそばに居てくれたこと、そしてその腕の中が本当に優しかったことだけを強く鮮明に覚えている。

そのあと、門限をとっくにすぎていたことに気がつき、親に慌てて電話したが、まだ気が動転しているわたしの話を信じてもらえなかった。「いいから帰ってきなさい」の冷たさがさっきまでのお姉さんの温もりをよけい強く意識させたのかもしれない。

お姉さんは会社帰りでものすごく疲れていたかもしれないとか、もうあのお姉さんと同じくらいの年齢になっているかもしれないとか、
あの時のことを思い返しては色々考える。
わたしは身近で困ってる人がいた時にあんな風に優しく手をさしのべられるのだろうか―――

ちなみに、後日、家に警察から電話がかかってきて、感謝の言葉を貰ったが結局安否は分からずじまいだった。
あの日の出来事が鮮明に残ってるからこそ、運転するのがずっと怖いし、歩行者でいる時も道を渡る時ピリピリしてしまう。
みんなもどうか事故には気をつけて。