初恋の人と、初恋について考える
もう数年前のことだし、
本人は覚えていないかもしないけれど
初恋の人に
「どうしてその恋を、“初恋”って呼んだの?」
と、聞かれたことがある。
肌寒い季節の、居酒屋から九段下の駅まで歩いている途中で。
彼は、私にとって自分が初恋の人であることを、ずいぶん前から知っている。
中学生のときに出会って、恋をして、想いを伝えて当時は終わりにしたのだけど、お互いにお酒を飲めるようになってから(いつだったかは忘れたけど)、地元の居酒屋で「あれが私の初恋だったよ」と話したことがある。
片想いしていた当時は、それはもう必死で、死んでも好きなんて言えない、心臓が口から出て死にそう、と本気で思っていたけれど
今やなにも隠すことなく、照れることもなく、「初恋とはなにか」なんて話を一緒にできるのだから、歳を重ねるのって悪くないな、と思う。
その問いに対して私は、
「人を心底好きになるということが、どういうことかを、生まれてはじめて教えてくれた恋だから」
と答えた。
彼は当時、私の世界の覇者だった。
いとも簡単に、1日を天国にも地獄にも塗り替える。彼の言葉ひとつ、行動ひとつで毎日がこんなにもめちゃくちゃになる。「揺れ動く」どころの騒ぎではない、本当に、めちゃくちゃになってしまうのだ。「好きな人」というたった一人の他者によって、こんなに影響を受けたのは初めてだった。
これが「好きになる」ということ、
これが「恋をした」ということ、
その答えをもらって、辞書に記される恋だった。
「それなら初恋は、
これからかもしれないですね。」
「…これから?」
「これが、心底人を好きになるということかって。今までの定義を覆すほどの、強烈な答えが誰かとの間に生まれたとき。」
「…それが、“初恋”になる?」
「そう。あなたは明日、初恋をするかもしれないし、俺も明日、初恋をするかもしれない。」
「ふふ、なるほど」
「人は何度でも、初恋をするのかもしれないね」
ほろ酔いながら、照れることもなくそう言う彼の横顔を見ながら「そんな人生もいいね」と笑った。
寒い季節に日本酒を飲んだ帰り道は
今でもこの言葉を、ふと思い出す。
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