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2023/7/15 蝶の翅

汗ばんだシャツを身に纏い、慎重にベッドから身を起こす。
忙しない日が続いているからか、夢と現実の境目も視界と同様にぼやけている。スマホを取るために伸ばした腕の動きは鈍い。まるで錆び付いた金属のドアのように。

誰からの連絡もないことを確認した後、重たい腰を上げ窓際に向かい、日光の眩しさに備えて目を細めつつカーテンを渋々開ける。外は曇っていたため目を刺すような日光は影を潜めていた。今日も暑いらしい。窓を少し開けると熱気が押し寄せてきて思わず顔が不格好に歪んだ。

ふと机に無造作に置かれたカレンダーに目をやる。もう7月も中旬だ。
ということはもうすぐ夏休みになると少し口角が上がる。
特段楽しみな予定があるわけではないけど。

気になるあの子でも誘って海に行こうか。花火大会もいいな。
浴衣なんて着ちゃったりして。

なんて妄想を膨らませるがすぐに我に返る。
あの子はもういないのだと。頭の中のあの子には少しずつ靄がかかる。
膨らんだ妄想も萎むしかなかった。

肩を落としつつ再び外に目をやると、アゲハ蝶がふらふらと彷徨っていた。
まるで見失った大事なものを探し回るように。

僕ら似た者同士だね、と笑みがこぼれたと同時に寂寥感を抱いた。
蝶の翅の模様がいつもより鮮やかに見えた。

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