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2023/8/14 夏を拒絶した

何気なく立ち寄った書店で文庫小説を何冊か手に取る。しかし、どれも今の気分に適しておらず棚に戻してしまう。戻す際にも元の正しい場所であったかどうかやけに気になってしまい、どこかぎこちない動きになってしまっていただろう。まるで未知の最新の機械を渡された時のような。

書店を出てから歩いて海を見に行く。砂浜には夏という季節に上手く順応できている若者たちが無邪気に走り回っている。夏に拒絶された、いや夏を拒絶した私は砂浜には降りずに上から眺めていた。海は好きだが、何も考えずにいると容赦なく飲み込もうとしてくるのが怖い。気を抜くと深海へと引きずり込まれる(ような気がする。)。

気づいたら1時間以上経っていた。走り回っていた若者もまばらになり、BGMの湘南乃風もどこか寂し気に鳴り響いていた。それに共鳴するように空に灰色の雲が広がる。これは一降りあるかもしれないと、小走りで駅に向かう。ちょうど帰りの電車も止まっていたため、そのまま飛び乗る。私が電車に乗るのを待っていたかのように窓には雨が打ち付けていた。

同じ電車にはきっと先ほどの海で遊んでいたであろう若者も数人乗っている。私は顔を歪みかけたがなんとか堪え、両耳をイヤホンで塞ぐ。季節外れの冬歌をわざわざ選び、若者からは背を向けた。

今日は少し回り道をして帰ろうと静かに心に決めた。

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