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就活とスーツ

春の連続投稿チャレンジにあった「就活体験記」というお題を見て、自分が初めて就職活動をした時のことが蘇った。

就活のノウハウや何か面接の役に立つようなことが書いてあるわけではないので、そういった内容を求めている方は、他の方の記事を参考にしていただけたら嬉しい。
ここに書くのは私の「失敗」だ。

端的にいうと、就職活動を始めてから抱え始めた悩みごとを、誰にも話さずにいる期間が長かったことだ。

就活時に「ふさわしい」とされる服装が徐々に見直されていて、今は多少マシになっているかも知れないけれど、就活が始まった途端「性別に合ったスーツ」を押し付けられるのが心の底から嫌だった。
学内でイベントが行われる時から、「ふさわしい」格好が求められる。TPOというやつである。

きちんとして見える格好がいいのは、当たり前だ。第一印象というのはとても大切だし、その場にあった服装を選べる人とそうでない人がいたら、面接する側からしても前者の方がいいだろう。

でも、今まで意識して来なかった自分の性別について急に突きつけられた気がして、就活用のスーツを買うことから出遅れた。
上手にやり過ごせばいいのに、たかが就職活動のための「ふさわしい」格好ができない自分のこともきらいだった。

大人になるとはたぶん理不尽も飲み込めるようになることで、スーツひとつを着ることにこんなにハードルを感じるなんて、自分の思考回路はなんて子どもなんだろう、と思っていたし、今振り返ってもやっぱり思う。1人で悩み過ぎてどうしたらいいかわからなくなっていた。
でも、当時の自分にとっては服装ひとつが「おおごと」だった。

フィッティングボードが備え付けられたトイレを事前に調べておいて、面接が終わって会社を離れたら、急いで「性別に合ったスーツ」を脱ぎ、靴も履き替える。そんなふうに就職活動をしていた。

今思えば、それだけスーツと身体的な性別の違和に悩んでいたにもかかわらず、いわゆるLGBTコミュニティにも属していなかったからロールモデルがいなかった。

「服装だけでこんなに悩む自分が働ける場所なんてないんじゃないか」と思っていても、そういう悩みを相談できる大人も、同じ悩みを抱えた人と繋がることができなかったことも、悩みが大きくなり過ぎてしまった原因なんじゃないかなと思う。

「こんなふうに小さなことで悩んでいるのは自分だけに違いない」と思い込まずにSNSで発信していたら、もしくは当事者のコミュニティに出会うのがもう少し早かったら、軸がブレブレのまま就職活動に突入してしまうこともなかったのかもしれない。

1人で抱えきれなくなってから、(どうせもうどうにもならないし……)という後ろ向きなんだか前向きなんだかわからない気持ちで参加したLGBT当事者向けのイベントで、幸運にも『服装のことを気にせず、安心して働ける職場』で働く人と出会えた。
服装ひとつで悩む人間に優しい会社なんてあるはずない、という思い込みが初めて解かされた出会いだった。就職活動が少しだけ怖くなくなったのは、その時からだと思う。

就職活動をする時、「他の人なら気にしないであろうポイントで悩んでしまう」ことは、たぶん誰にでもありえる。自分の悩みが自分だけのものだと思い込んでいた時間は、ちょっともったいなかったな、と今は思う。

たとえば、同じ悩みを抱えていそうな人の集まるコミュニティと繋がってみる。SNS上で同じような悩みを持つ人がいないか、探してみる。
もしくは、自分から外に発信してみる。

初めの一歩こそものすごく負荷がかかってしんどいと思うこともあるかもしれないけれど、オンライン上でも対面でも、「相談できる人がいる」というのは大切なことだ。

今、初めて就職活動をしているひとたちが、かつての自分のように「こんな自分なんか……」という気持ちを抱いたことがあるひとたちが、明るい気持ちで将来の姿を思い描ける日が来ますように、と祈っている。

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