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『飛鳥之憶 ~ あすかのおぼえ』楽曲解説・8

本記事は、弊サークルが制作した東方Projectの二次創作音楽作品である『飛鳥之憶 ~ あすかのおぼえ』の解説文です。本記事では楽曲は掲載しておりませんので、CDと併せてお楽しみください。

◆ 八、『追放――、そして目覚め、再会。』


 さて、神子・布都・屠自古の3人が尸解の術を施し、青娥も彼女たちの目覚めを待っていましたが、その中の屠自古はなんと、尸解の術に失敗して魂の行き場を失い怨霊と化していました。

 かつて布都は、この先もずっと共に神子様に仕えようと言って、屠自古に尸解仙となることを勧誘してきましたが、どうやらそれは、布都がなんらかの意図を持って屠自古に仕掛けてきた策略だったようです。屠自古が尸解の際に魂の依代として使うための特別な壺が、おそらくは布都の手で別の壺にすり替えられていました。屠自古は尸解の術を施して眠ると、何かがおかしいことを察知し、やがてそのすり替えられた偽の壺はあっけなく割れてしまいました[譜例㉛]。屠自古の魂は体を持って地に着くことも横になることも出来ず、ただ魂だけが空中に浮くことになってしまったのです。

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 人間の身体に戻ることも尸解仙となることも拒まれ、ついに霊体となってしまった屠自古。彼女は隣でのうのうと眠り続けている布都の棺を見、布都が自分に仕向けてきたであろう謀を思い巡らして憎悪を募らせていき、怨霊となってしまいます。

 青娥は3人が尸解の術を施していく様子をそれぞれ見守っていましたが、やがて屠自古の異変に気付きます。屠自古はまさかこのような形で尸解の術に失敗するとは夢にも思わず、布都に騙されたことに気付いて怒り狂いましたが、そんな霊体となってしまった屠自古の面倒を見てくれたのは青娥でした。依代も肉体も失い、怒り心頭に発し気が不安定だった屠自古でしたが、皆が眠ったあと一人だけ残されるはずであった青娥のフォローもあって、屠自古の霊体は次第に安定を得ます。そして青娥と屠自古の2人は、失敗なく術を施すことができた神子と布都が尸解仙として目覚めるまで待つことにしたのです。

 しかし、何年待っても、何十年待っても、何百年待っても、彼女たちは中々目覚めません。最初は霊体となってしまったことに憤っていた屠自古も、もうそんな遠い昔の感情は忘れてしまい、明くる日も明くる日も、ただひたすら、彼女たちが目覚めるのを待つだけの日々を、青娥と共に送っていたのです。


 そしておよそ1400年後の現代……、なんと巷では聖徳太子の存在は伝説・まやかしであると噂され、日本の歴史から聖徳太子の存在が消えかかるという騒動が起こります。この騒ぎに伴い、神子たちの眠る霊廟は、存在丸ごと幻想郷に移されてしまうのでした。更に、この霊廟の存在そのものが移動する事件がきっかけとなって、かつての飛鳥とは異なるこの異国の地・幻想郷で、彼女たち尸解仙の復活の兆しが現れるのです。

 屠自古もついにこの時が来たことを察知して、恐る恐る、2人の眠る霊廟に近付きます。どうやら神子より一足先に、布都が目覚めるようです。まるでそれを屠自古に知らせるかのように、コントラバスが『大神神話伝』の短い動機である3音をピチカートで奏します[譜例㉜]。

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 2人の目覚めを出迎えようという気持ちで動いた屠自古でしたが、私を罠に陥れた者と1400年ぶりにどう顔を合わせれば良いのかも、私が今日この日に祝福の意を抱いていいのかどうかも、屠自古はほとんど気持ちの整理がついていませんでした。

 息を呑んで、慎重に、布都の眠る棺をそっと開けました。それまで暗かった棺の内部に光が差し込みます。布都の眉がわずかに動き、屠自古の霊体に緊張が走ります。そして、千年以上にわたり棺の中で横たわっている目の前の宿怨の彼女は、幾年も動かすことのなかった重たい瞼をゆっくりと開けるのです。


 ピアノソロによって、おぼつかないゆっくりとしたテンポの中、『大神神話伝』が優しく奏されます[譜例㉝]。

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 屠自古は布都の瞳を、布都は屠自古の顔を、1400年ぶりにお互いの眼中に迎えました。生前、2人で共に過ごした、楽しかったことも、悲しかったことも、仲違いしたことも、喜びを共有したことも、甘樫丘でお互いの将来の夢を語り合ったこともみなすべて、2人の記憶が長い長い時を経て蘇ります。2人とも、この日の未知なる体験に、完全に呆然としていました。


 布都がかすかな声で開口します。

 「……とじこ……」

 屠自古は、かつての恨みや怨念を忘れて布都の目覚めを心から受け入れ歓迎し、ついに涙を流しながら布都を力強く抱擁します。千年以上に渡る屠自古の孤独は、このとき終わりました。トゥッティのオーケストラによって、第5曲目で奏された『大神神話伝』と『夢殿大祀廟』が組み合わされた旋律[譜例㉔]が半音高い調で盛大に再現されます。

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 布都も屠自古に影響されて少し目を潤ませながら、涙が止まらず言葉を発することができない屠自古を抱き寄せ、かつての飛鳥の甘樫丘のように、屠自古の髪を優しく撫で続けます。……そして、屠自古の涙が少し落ち着くと、2人は共に抱擁する腕の力をそっと抜き、互いの目をしっかりと見合わせた後、神子の眠る夢殿の塔を黙々と見上げるのでした。


九、『生ける伝説』に続く――


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