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『飛鳥ノ遷都 ~ アスカノセント』楽曲解説・3

本記事は、弊サークルが制作した東方Projectの二次創作音楽作品である『飛鳥ノ遷都 ~ アスカノセント』の解説文です。本記事では楽曲は掲載しておりませんので、CDと併せてお楽しみください。

◆ 三、『土中の日の出・墓場にたつ戦士』


 CDの中の楽曲構成という点において『飛鳥ノ遷都』が『飛鳥之憶』と異なるのは、1トラックが必ずしも1トラック内で完結する1曲とは限らない、という点です。『飛鳥ノ遷都』では、曲が2トラック連続して続くものがいくつかあり、その第1例目がこの楽曲です。CDの『飛鳥ノ遷都』では、『土中の日の出』はトラック3、『墓場にたつ戦士』はトラック4にそれぞれ収録されており、これら2つのトラックは途切れることなく連続して再生されます。スコアも同様に、この2つの曲は途中終止線で分断されることなく連続します。

 本書ではこの連続する2トラックの曲を1曲として扱うので、以降、CDのトラック数と本書の収録順を示す漢数字は同一のものでなくなります。

 豊聡耳神子は尸解仙になるべく長い眠りにつき、再び自分のような為政者の存在を求める声が上がった時に復活しようと目論んでいました。しかし神子が自らの手で日本中に広めた仏教は、その後もずっとこの国の基盤となっており、仏教中心の世界に神子の存在が再び入り込める余地はありませんでした。それだけでなく、神子の不審な死と、現実離れした数々の伝説、そして後世の不可思議な歴史の記録から、社会では「聖徳太子非実在説」が巻き起こります。これにより、神子の存在は現実の世界から遠ざけられてしまうのです。

 「急ぐ必要はない、いつ復活しても良い」

 そう考えていた神子の存在が現実世界から否定され、やがて辿り着いた先は幻想郷でした。不幸にも神子らが眠る霊廟の上には、神子たちの復活を妨げるような形で寺が建っていましたが、もうそれを心配する必要はありません。神子の強力な能力を求めに、数々の欲という名の神霊が霊廟へ集まっていたのです。復活の時は近い――。

 神子たちの眠る霊廟は幻想郷の寺の地下に位置しており、その霊廟へは洞窟で繋がっています。そしてその入り口は、寺に隣接する墓地にありました。

 一部の妖怪を除いて、人間が誰も近づくことのない夜の寺の墓地、ヴィオラとチェロが不気味な物音を立てます。すぐさまヴァイオリンとハープの優しい音色に導かれて、土の中に眠る「ある死体」が、霍青娥の手によって掘り起こされます。

 「おはよう」

 青娥はキョンシーと化した日本古代の死体、宮古芳香に優しく語りかけて目を覚まさせます。

 「ここで見張りをしていてね」

 青娥は手慣れた手つきで優しく丁寧に諸々の準備を済まし、芳香に札を貼ります。青娥はこの日を待ちわびていました。かつて1400年前に自分の手で育て上げた豊聡耳神子が道士として復活するこの日を。誰にも邪魔されることなくその復活を見届けるために、青娥は霊廟に繋がる洞窟の入り口に、見張り役として芳香を置いたのです。『古きユアンシェン』の主題がフルートによって奏され、青娥の話すことを芳香が一言一言ずつ頷くかのように、クラリネットとファゴットが『リジッドパラダイス』の動機で応答します[譜例⑫]。

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 そして、去り際に青娥は芳香の方を振り返って言いました。

 「あなたにとっての今日は、長い一日かもしれないし短い一日かもしれない。けれど、しっかり頑張ってね」

 そう少し念押しするように言い残して、青娥は芳香を一人残してどこかへ消えてしまうのでした。

 青娥が芳香のもとからいなくなると音楽の世界観は静かに急変します。『東方神霊廟』のステージ第3面の道中曲『素敵な墓場で暮らしましょ』が、ファゴットのソロを筆頭に盆踊り風のリズムに乗せて展開されます[譜例⑬]。

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 神子のことを求めにやってきた神霊たちが墓場の方へと集まってきたのです。

 神霊は明かりのない夜の墓地でうっすらと光を灯しているように見え、このようにして墓場に集まり漂っている神霊たちは、まるで提灯を持った踊り子が舞っているようでした。最初はその幻想的な景色にぼーっと見惚れていた芳香でしたが、オーケストラの楽器の数が次第に増えていくと、目に映る神霊の数も増えていきます。そして、芳香はやがて自分がここに立たされている意味を知るのです。

 「ここはお前が立ち入って良い場所ではない!」

 門番として直立するキョンシーの芳香は声を上げます。侵入者が洞窟の入り口を訪ねに来たのです。そう、数多の神霊が空中を漂うこの現象はただごとではないと感じた人間、幻想郷の博麗神社の巫女・博麗霊夢がやってきました。神霊が集う場所を探り当ててこの墓場に現れたのです。霊夢はこの神霊の正体を探るべく洞窟の内部の調査をしに来ましたが、無論、青娥に見張り役を頼まれた芳香はこれを拒み、芳香と霊夢の戦闘が始まります。集まる神霊と繰り出される鮮やかな弾幕は、深き眠りから芳香の目をはっきりと覚まさせました。

 115~116小節目の境目が、『土中の日の出』と『墓場にたつ戦士』の境界線になります。中東風の増2度音程を含む『リジッドパラダイス』の異国情緒溢れる主題[譜例⑭]がトゥッティで現れ、キョンシーは人間を威圧します。

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 管・弦・打、いずれのセクションを問わず、多くのパートが細かい刻みや細かいパッセージを伴って激しく展開していき、バトルはどんどん激化していきます。

 この曲の主題が何度も反復されるうちにやがて最高潮を迎えると、『リジッドパラダイス』のイントロをはじめ随所で現れる8分音符×2つの重たいリズムの動機が、執拗に繰り返されていきます。更には8分の7拍子という字足らずの拍子によって再び主題が繰り返されますが、その先の音を待つことなく8分音符×2つの重たい動機が畳み掛けるように何度も繰り返され、ついに強力な蘇生術によって身体を動かしていたキョンシーの芳香は、人間の巫女である霊夢を前に、洞窟の入り口を開けて倒れてしまうのです。

 邪魔者をやっつけた霊夢は、いそいそと洞窟の内部へと入り込んでいきましたが、芳香が倒れるのを陰で青娥は見ていました。霊夢がいなくなったことを確認すると、青娥はすぐさま物陰から姿を現し、芳香のもとへと駆け寄っていきます。『古きユアンシェン』の細かいパッセージ[譜例⑮]が、子守唄を優しく奏でるオルゴールのような大変ゆっくりとしたテンポで奏され、青娥は倒れて動かなくなった芳香を、自分の子のように強く抱き抱えるのです。

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 そして、芳香の身体を抱える腕の力を少し抜くと、青娥は黒洞々たる洞窟の闇の奥を睨んで、ニッコリと不敵な笑みを浮かべたのでした。


 音楽はここで終止線が引かれていますが、和音は完全終止することなく、この次の楽曲へのドミナントとして機能しています。こうして少しだけの間を持たせた後に、次の楽曲へと繋がっていきます。


 四、『一直線の猛追・新しき異邦人』に続く――


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