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『飛鳥之憶 ~ あすかのおぼえ』楽曲解説・1(初回)

本記事は、弊サークルが制作した東方Projectの二次創作音楽作品である『飛鳥之憶 ~ あすかのおぼえ』の解説文です。本記事では楽曲は掲載しておりませんので、CDと併せてお楽しみください。

◆ まえがき

『飛鳥之憶 ~ あすかのおぼえ』について

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 『飛鳥之憶 ~ あすかのおぼえ』(以下、『飛鳥之憶』)は、同人サークル「針の音楽」の白鷺(はくろ)ゆっきーが2018年4~5月に制作・発行したオーケストラによる東方アレンジCDで、本記事はそのアレンジのオーケストラスコア(総譜)に添書されている解説文です。
 『飛鳥之憶』は、同人サークル「上海アリス幻樂団」制作による弾幕シューティングゲーム『東方神霊廟 ~ Ten Desires.』(以下、『東方神霊廟』)(2011年)を原作とし、同作品内に収録されている『聖徳伝説 ~ True Administrator』・『大神神話伝』・『夢殿大祀廟』・『古きユアンシェン』・『リジッドパラダイス』・『デザイアドライブ』・『デザイアドリーム』・『小さな欲望の星空』、以上8曲の楽曲を組み合わせ、同作品内に登場するキャラクター、豊聡耳神子・物部布都・蘇我屠自古・霍青娥・宮古芳香、以上5名の生前の記憶・体験を回想し標題音楽として描くというコンセプトのアレンジアルバムになっています。同じ原曲を複数回にわたって多用し、状況や場面、その時々のキャラクターの感情などに応じて、様々な形にアレンジされ展開していきます。

 彼女たちの過去の詳しい描写についてはゲーム本編ではほとんど明らかになっていませんが、ゲームに同梱されている原作者によって記されたテキストなどから、その様子を伺うことが出来ます。

 ……その時、歴史は動かされた。あの日あの時、飛鳥の地で何が起きたのか―。千年以上の眠りから目覚め、幻想郷に復活を果たした豊聡耳神子とその師弟たち。彼女らは、現代に残る歴史や伝説に様々な影響を与え、また痛ましい過去を彼女たち自身が経験してきました。飛鳥の地を顧みて、豪族たちの過去、そしてこれからの彼女たちの行く末に思いを馳せてみましょう。

◆ 一、『飛鳥の夜明け、伝説のはじまり』

 『東方神霊廟』のストーリーでは、豊聡耳神子というキャラクターが重要なポジションを持ちます。彼女は「聖徳太子」として現代にも名前を残している、1400年前の飛鳥の為政者でした。『飛鳥之憶』はこの豊聡耳神子を主役とし、神子とその周囲のキャラクターとのつながりを追って物語が展開していきます。
 原作の『東方神霊廟』で彼女は、飛鳥時代から1400年の時を経て現代に復活する形で登場しますが、本作『飛鳥之憶』では原作に登場する前の、いわゆる生前の彼女とその周りの者たちの出来事について綴っていきます。

 第1曲目のこの曲は、物語の序曲としての機能を持ちます。音楽の各セクションには、それぞれの場面で思い描かれる景色やキャラクターの置かれている状況などを説明した標題を記していますが、この曲に限っては、各場面の標題が現れる順番とその時系列関係はバラバラです。

 冒頭は大和国(現:奈良県)の夜明け。小鳥の鳴き声を模したピッコロ・フルートとオーボエが朝を告げる歌を歌い、もそもそと都が目覚め始めます。やがてトランペットの合図で東の空から陽が差して、飛鳥寺や法隆寺など、飛鳥文化の建築様式で建てられた絢爛豪華な寺院が輝き出すのです。
 前半部は主要な登場人物の紹介をするような形で、主要な楽曲のフレーズが1曲ずつ順番に演奏されていきます。筆頭となるのは豊聡耳神子のテーマ曲『聖徳伝説 ~ True Administrator』(以下、『聖徳伝説』)で、オーボエとフルートによって演奏されます[譜例①]。

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 ここは尸解(後述)をする前の生前の神子を映してゆくので、原曲の『聖徳伝説』のように、人々の上に立ち真の為政者となる望みを持った神子のイケてるアレンジではなく、美形で淑やかで麗しくてカッコいいけれど上品で、人々から頼られる一人の皇子としての側面が出せるようにアレンジされています。
 しかし、神子は単なる皇族の尊いお坊ちゃんではなく、心の奥深くには大きな夢を秘めていました。管楽器が持っていた主旋律は弦楽器へと受け渡されやがてトゥッティへと拡大し、場面は変化します。

 続いてクラリネットのソロによって奏されるのは、物部布都のテーマ曲である『大神神話伝』のモチーフ[譜例②]です。物部氏は蘇我氏と強く対立することになりますが、布都は大陸から渡来してきた道教の思想と、(表向きでは)蘇我派についていた神子のことを私的に敬うため、他の物部の氏を持つ兄弟達の目につかぬように、道教の研究に精を出している神子と密かに関わりを持っていました。兄弟達と同じく物部の氏を持つ布都は、物部氏として目立つような動きこそしませんでしたが、神子と共に歴史の裏で大きく活躍するのです。

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 音楽は一度緩やかになり、優しいハープの音に導かれて蘇我屠自古のテーマ曲である『夢殿大祀廟』のモチーフ[譜例③]が出現します。蘇我氏の娘である蘇我屠自古は、物部布都のように大きな活躍をしませんが、布都と共に神子を慕い、神子と親密に生きます。

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 やがて曲は『古きユアンシェン』[譜例④]に切り替わり、霍青娥が映ります。青娥は大陸から道教の思想を伝えるべく日本に渡来してきた仙人で、如何に自分の技術を人に売るかを考えた末に、神子と接触をしていました。神子は青娥の誘いによって道教思想と不老不死の魅力を悟り、青娥を師として道教の研究に励みます。寝る間を惜しんで毎晩机に向かっている神子は、ついにうとうとしながら書斎で眠ってしまい、青娥は神子の行く末を期待しながらその姿を見届け、やがて都には再びトランペットの合図によって朝が来るのでした。

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 再び前半部で現れた『聖徳伝説』[譜例①]が再現されますが、2回目ではより前に進む活力のあるアレンジへと変化します。神子は後述する自身の不老不死の夢、為政の夢を実現させるべく、皇族でありながらも私的にあちこちを駆け回り動き始めます。神子は布都と屠自古と3人で協力し、『聖徳伝説』は『大神神話伝』と『夢殿大祀廟』と混じり合いながら[譜例⑤]、神子たちは新しい時代を創造することを夢見るのです。

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 次第に神子の超人的な能力やカリスマ性は、都の人々を通じて次々と外へと後世へと広まり、それらの伝説めいた評判を礎にして、ここ大和国そして飛鳥の土地から幻想郷へと、自らの権威を確立していくのでした。


 二、『隋からの渡来人』へ続く――


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