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インド一人旅の初日にiPhoneを失ったら ~Vol.4~

〜Vol.3からの続き〜

タージマハルのあるアーグラに向け、無事に列車は走り出した。
一等車を取っていたので、駅の混沌さとは対照的に、車内はすこぶる快適だった。

2席×2列で計4席の、日本の特急や新幹線と同じような座席。
予想外にも、途中で朝食的なものがサーブされたが、
「インドでは、確実に信頼のおける出所からの食べ物以外は、お腹を壊す可能性があるから手をつけない」
とガイドブックから学んだ僕は、華麗にスルーを決めた。

食後(食べてないけど)、広大な地平線から昇る朝日を眺めながら、列車に揺られているうちに、重大なことにふと気がついた。
そういえば、この旅に僕は、ipad miniも持ってきていたのだ。

いや、実を言えば、ipad miniがあることは、うっすらと意識の中で知覚していた。
ただ、当時(mini5の時代だ)は、映画を見たり、雑誌や本を読んだりする程度で、それ以外の機能は全てiphoneに依存しきっていたこともあってか、miniがこの状況下で「使える」という意識が全くなかったのだ。

しかし、当然ながらminiでも、LINEもできるし、Gmailもできる。(幸い、ポケットWifiは持っていた)
今考えると、なぜそんなことに気が付かなかったのかと思うけれど、よほど前夜の事件で混乱していたのだと思う。

それに気がついた途端、一気に希望の光が見えてきた。
実は、「旅程を当初予定通りにこなす」、ということを決意したのはいいが、やはり異国で手元に何も情報端末がないという状況は、かなり不安なものだったのだ。

まず、日本にいる妻に連絡を取ってみた。
GmailとLINEで状況を伝えたところ、すぐにLINE電話での着信があった。
しかし、電波に限界があるのか、お互いの声が全く聞こえず、通話での意思疎通はままならかった。

何通かのLINEのやりとりで、ようやく今の状況を伝えることができた。
後で聞いたところ、妻はこの時、実家で義父母や義弟と一緒にいたそうで、「なんか旦那が異国でえらいことになってるウケる」となっていたそうな。ウケる。

ちなみにこれは後でジワリと効いてくるのだが、Uberは確か「携帯電話からの認証」的な作業が必要で、そもそもその携帯電話が無い状況なので、使えるようにはならなかった。

そうこうしているうちに、列車はアーグラ駅に到着した。
社内では隣席のインド人男性と仲良くなり、自分が先に降りる際には一緒に記念撮影をした。
心温まる交流にほっこりしていたが、ここはインドだ。列車を降りたら、また気を引き締めてかからねばならない。

駅に到着した僕がトイレを探していると、声をかけてくる人間がいた。
どこからどう見ても、客引きフェイスをしたインド人だ。
対峙するのは、どこからどう見ても、ぼったくられフェイスをした日本人。

昨夜の事件があり、完全に人間不信になっていた僕は、ずっと無視を決め込んでいたのだが、この男がまあしつこい。
仕方なく「トイレに行きたいんだ(だから付いてくるな)」と言ったら、「トイレはこっちだ」と教えてくる。
トイレを済ませたら、当然のように外で待ち構えている。

そして「どこに行くんだ?」と聞いてきた。
やはりというか、バイクタクシーの運転手だった。
Uberもどうせ使えないし、色々と面倒くさくなっていた僕は、「タージマハルだ」と答えた。

「タージマハルもいいが、1日チャーターしてくれたら、色んな所を案内してやる」と彼は言った。
「タージマハルに送るだけなら〇〇ルピー、1日チャーターなら△△ルピーだ」と。

細かい金額は忘れたが、これがまた「それなら絶対に1日チャーターの方がいいだろ」と思わせるような価格設定だった。
「ラーメン500円、チャーハン500円、ラーメン&チャーハン550円」みたいな。四則演算と加減乗除の概念が崩壊する。どうでもいいけど、「加減乗除」と聞くとなぜか「諸行無常」が浮かぶ。

「ここまで来たら、もうとことん流れに身を任せてみるのも面白いかもしれない」。僕はそう思い始めていた。
その判断を後に後悔することになるのだが、それはまた、別の話。

〜続く〜

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