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インド一人旅の初日にiphoneを失ったら~Vol.2~

~Vol.1からの続き~

その時だ。

右背後すぐ近くに、一瞬、人影を感じた。
あまりにも急で、そして不自然なほど近くに感じた気配だったが、お人好しにも「自分が邪魔だったかな」くらいに思った僕は、「Excuse Me」と言って少し左に避け、通り道を作ってあげようとした。

その時だ。(2回目)
その人影は、ものすごい速さで僕が右手に持っていたiphoneXを引ったくり、全速力で走り出した。

何が起きたのかわからず、一瞬、思考が停止した。
だが次の瞬間には、全身の細胞が「絶対に取り返せ」と叫んでいた。
スマホのテクノロジーに依存しきった現代文明において、iphoneを異国の地で失うことは、死を意味するといっても過言ではないからだ。

考えるより先に、ダッシュで相手を追いかけ始めていた。
後で色々と冷静に調べたら、「最悪の場合は命の危険があるので、犯罪に巻き込まれても、追いかけたり、やり返したりしない方が良い」的なアドバイスを目にしたが、その時はとにかく必死に、捕まえようと走った。

これでも短距離・長距離走ともに自信はあるクチだ。
少しずつ相手への距離が縮まり、「追いつける」、そう思った。
その時だ。(しつこい)

走って逃げる奴の前方に、バイクが待ち構えているのが見えた。
「やられた、仲間がいた」。
そう思った刹那、奴はそのバイクに飛び乗った。

バイクは勢いよく走り出した。
B(バイクのエンジンが)
K(急激に)
B(ビートを刻み出した)
B・K・Bだ。ヒィーアッ。

絶対に追いつけるはずがないのに、受け入れ難いこの状況に、僕はしばらく走ることをやめられず、追いかけ続けた。
バイクが遥か彼方に見えなくなってようやく、僕は足を止めた。

食事の直後に急激に走ったからなのか、「これからどうしたらいいのか」という恐怖からなのか、急激に吐き気を催し、せっかくの「インド一食目」をほとんど戻してしまった。

走った、転んだ、既に満身創痍だ。ついでに吐いた。
脳内にBUNP OF CHICKENが流れるなか、トボトボとレストランまでの道を戻った。
追いかけていた最中は一瞬の出来事のように感じられたが、歩いてみると、思った以上に遠い所まで来ていた。

どうしようもならないと分かってはいたが、レストランのスタッフに事情を話してみた。
しかしやはり、彼らも困った表情を浮かべただけだったので、諦めて「タクシーを呼んで欲しい」とだけ頼んだ。

とりあえず、ホテルに戻って考えよう、それしか考えられない状況だった。
ところが、彼らはタクシーを呼ぶでもなく、通りかかったバイクタクシーを捕まえてきた。なんでだ。

インドとはいえ、2月の夜は寒い。
むき出しのバイクタクシーの中でガタガタ震えながら、寒さも手伝って泣きそうになった。

~続く~

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