【読後感評】サラバ!

一気に読み切ってしまった。
2015年本屋大賞で2位を取った『サラバ!』。
もともと気になっていた本で、
文庫本になったので衝動買い。

超ざっくりとどんな本かを説明すると、
主人公の歩(あゆむ)が生まれてから37歳のハゲになるまでに、
様々なことに振り回されながらも自分なりの幸福観を見出していくという
私小説型の小説。

特に幼少期、歩くんはとにかく大人びている印象だった。
空気を読み、周囲の求めることをする。
それをうまくできる自分にどこか酔っているような。

しかしその「大人びている」は、
いつしか陳腐なものになってしまう。
どのタイミングかはわからないけれど、
明確に変化してしまう。

この小説のテーマは、
物語のクライマックスに差し掛かるタイミングでの印象的なワンフレーズに
全てが込められている。

「あなたが信じるものを、誰かに決めさせてはいけないわ。」

このフレーズはそのまま最終章のタイトルにもなっている。

いまこの時代に生きていて、
自分が良いと思うものを「良い」と言うのは、正直難しい。
下手をすれば思うことそのものですら難しいかもしれない。

著名な人が良いと言ったものを良いと思い、
友人からの「いいね!」で承認欲求を満たすことに慣れすぎてしまった身としては、
右脳が良いと思うことをそのまま伝えることに躊躇をしてしまう。

この小説は、900ページを通して、
そんな社会の空気に対して石を放っているものだった。

思えば2017年、僕はプランナーとしてこう思うことによく遭遇した。

イケてる企画だと思われたい。
世の中を動かしたい。(それによってスゴイと言われたい)
そんな欲を落として、企画者のエゴを削り切った企画にこそ、
心を動かされ、しかもなぜか企画者の個性をひしひしと感じるような場面に。

たぶんこのヤマを突き詰めることでしか、
いい企画を生み出すことはできないのではないかというのが、
2017年最も大きな気付きだった。

この気づきを、人生という単位まで広げて語ってくれたのが
この『サラバ!』という小説だったように思う。

最後数十ページを読み進めながら、
僕はBump of Chickenの『Ever lasting lie』を思い出した。
(ニコニコにしか曲が落ちてなかったので聞きたい人はこちらから)

砂の海で 錆びたシャベルを持って
まるで闘う様に 夢を掘る人
赤く燃える太陽に 身を焼かれても
必死で 這い上がろうとする
愛する人の命に値がついた
そこら中に頭を下げても 足りなくて
「石油でも掘る以外 無いんじゃないの?」って
皮肉を 本気にして飛び出した

でも 掘り出したのは 長い年月


いまの自分に、
これほどまでに信じ続けられるものがあるかと言われると、
正直苦しい。
良いと思えるものを信じられる筋肉が、
空気を読み続けることで弱ってしまっているのを感じる。

2018年。
他人の評価を気にしすぎず、
僕が良いと思うものをどれだけ突き詰めて考えられるか。
仕事はじめの直前にそんなことを考えさせてくれる小説だった。

「あなたが信じるものを、誰かに決めさせてはいけないわ。」
この言葉にドキッとした人は、
ぜひとも読んでみてもらいたい。

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