炎上🔥させないための監査論

1.初めに

続々と他の方のアドヴェントカレンダーが掲載される中、皆さま掲載するレベルが高すぎると震えながら書いております（笑）
コーヒーブレイク的な感覚で、乾燥した時期にもなりましたので、こんな炎上の場面もあるんだよと暖を取りながら生暖かい目で見てもらえればと思います。
ちなみに私のXアカウントの🔥の数は現在進行形で燃えている案件数ですなので、こんな偉そうなこと言ってますが、大体本業なり、兼業先で燃えてます🔥()

2.簡単な経歴

私は、大学院修了後、ベンチャー企業で経理を含むバックオフィス全般の業務、業務フローの整備、IPO準備、監査対応や主幹事対応等々やりつつ、公認会計士の勉強をしてまして、合格後の今は監査法人で上場企業の監査やIPOの監査、IT監査に携わりつつ、複数の兼業先でアドバイザリーやコンサルをやってます。

3.本記事の位置づけ(想定読者)

本記事時は私が過去携わっていた実際の炎上案件なんかを引き合いにだしながら、そもそも炎上させないためには？という観点と、もし炎上してしまったらどうすれば？ということを書いていこうと思います。監査のみならず、PJ型のジョブの場合、いつでも火種は抱えていると思うので、監査のみならずPJ型のジョブに関与している方々に少しでも参考になればと思います。
今年合格されて監査法人に初めて入所された人は、論文では出題されない監査について、こんなこともあるんだと思ってもらえればと思います。これから現場責任者(主査、インチャージ)をやる！初年度監査をやる！という人は同じ轍を踏まないように是非とも目を通してもらえればと思います。(初年度監査は何かと燃えがちです)
この記事では、現場責任者としてどうすべきか？という視点から書いていこうと思います。
(注意書き)
この記事に記載の内容はすべて個人の見解であり、現在または過去に所属した組織の意見を代表するものではありません。

4.監査における炎上とは？

監査における炎上とは、ここでは当初の監査計画時に想定しえなかった事象が生じて、見積にない工数が相当程度発生した場合を想定してます。相当程度ってどの程度？と思うかもしれませんが、個人的には朝日が昇るくらいまで仕事を定常的にやってるくらいかなと思ってます。
じゃあ何で監査で炎上するの？と思われるかと思いますが、主に監査計画で識別していなかった事象があり、それをケアできなかったと考えられます。（特にサイナーであるパートナー、品質管理部門や審査で直前に刺されると致命傷です）
そうすると何で識別できなかったの？となると思いますが、主に①監査計画時におけるリスク評価が誤っていた②計画後の変化について、監査計画の修正が適時に行えなかった③①②に包含されますが、不正などの外部要因や組織再編を伴う突発的な事象で対応が求められるなどあるかなと思います。順に説明していきます。
まず、監査計画って何をするの？というと、監基報300にはこのように書かれてます。

監査計画（監査基準報告書300）
2.　監査計画には、監査業務に対する監査の基本的な方針の策定と詳細な監査計画の作成が含まれる。監査基準報告書220「監査業務における品質管理」に従った個々の監査業務における品質管理は、当報告書における適切な監査計画と組み合わせて、監査を実施する上で様々な利点があり、例えば以下の事項が可能となる（A0項からA3項参照）。
・　監査の重要な領域に対して監査人が適切な注意を払うこと。
・　潜在的な問題を適時に識別し解決すること。
・　監査業務を適切に管理し、その結果、効果的かつ効率的な方法で監査を実施すること。
・　リスクに対応するために、適切な能力及び適性を有する監査チームメンバーを選任し、作業を適切に割り当てること。
・　監査チームメンバーに対する指揮、監督及び作業の査閲を適切に行うこと。
・　必要に応じて、構成単位の監査人の作業や専門家の業務と連携すること。

これらについて、ある程度真面目にリソースを割いて行えば、大半の炎上は防げるかと思います。(他方、上記の③は災害にぶち当たったと思って諦めてください(6参照))

5.監査を炎上させないための６つの心得

監査は何よりも計画が肝要です。計画さえしっかり作りこんでおけば、たいていはそれに対応する手続を淡々とこなしておけば何とかなります。
そのため、2項ベースにどんなことをやっていけば良いか考えていきたいと思います。
まず、２つ
・　監査の重要な領域に対して監査人が適切な注意を払うこと。
・　潜在的な問題を適時に識別し解決すること。

これらは重要な領域のケアや潜在的な問題はリスク評価を適切に行えないと後々後を引くことになります。監査は何と言ってもリスクアプローチなので、何処にリスクがあるか適切に判断できないとその後のリスク対応手続を間違えてしまいます。重要な領域って何？というと、大体が、減損だったり投資有価証券だったりと見積り項目などが多い印象です。会計上の見積りの監査(監基報540)を読んでもらえれば分かりますが、見積りって複数の要素が複雑に絡み合って、不確実性を伴いますし経営者の主観も入ります。潜在的な要因も見積り項目が大きく絡んできます。非上場株式など、期末に買ってきたばかりで、いざ決算期に決算書や事業計画を見てみたら業績ボロボロで著しい下落を認識せざる得ないなんてこともあります。それらを計画時に如何に識別するか、その後掘り下げるかが大事かと思います。
特に初年度監査などで、入手できる情報が少ない時こそ、四半期などで、クライアントと密に話して計画に織り込んでいくべきです。四半期が無くなるであろう今後こそ、こういった項目に時間をかけられればと祈ってます。
他には、内部統制なんかも最初に目を通すべきだと思っていて、初年度監査なら監査計画時点で少なくとも机上のウォークスルー、できればクライアントと何度か膝を突き合わせてウォークスルーを実施することが望ましいです。実際に整備評価、運用評価をふわふわ期中にやりすごし、いざ期末にITACが識別され、IT監査人が泣きながらITGCを評価するといった光景も無くなるかと思います。
ただ、言うは易しでこれって物凄く労力がいります。多くの法人では監基報315号に照らして、科目別にアサーション別、商流別と切り分けて、不正リスクの有無、固有リスクや統制リスクを分けて評価していくかと思います。この作業が膨大で、いやになるのですが、これをしっかりやっていないと後々爆発することが多いです。先に苦労するか、後に苦労するかだけの違いなので、先に苦労しておきましょう。
特に初年度監査はこの辺り、前任監査人のリスク評価を見るとはいえ、0から作りこむ形になります。初年度の監査の場合は、契約が決まって資料のやり取りができるようになったら「前任監査人にお渡しした昨年度資料全部ください！」などと前期の資料を一通り貰ってどんどん消化していった方が良いです。資料を貰っておくと、まず会社にどんなPBCがあるか分かりますし、そのPBCで不足していた場合でもすぐに次のアクションを取れます。
また、ここは会計系 Advent Calendar 2023でも触れた分析的手続がとても有用です。監基報300のA2にもわざわざリスク評価手続として実施する分析的手続と記載がありますが、ここで重要な虚偽表示リスクを洗い出せれば、あとは淡々とリスク対応手続を進めていけば、監査は終わったも同然です。（そっちが掲載されたときにでもリンク貼っておきます）

・　監査業務を適切に管理し、その結果、効果的かつ効率的な方法で監査を実施すること。

これも大事です。次の仕事の割り当てにもかかってきますが、この業界は何故だか業務を管理せずに、ほったらかす人も割といます。WBSなんてものはなぜか監査で作ってないことが多いですし、進捗管理すら期限が迫らないとやらない人も多いです。私は、上記2つの手続後に、作成する監査調書全てに標準作業時間を付けて、実際のアサインとメンバーの業務量をモニタリングしながら勧めることが多いです。メンバーが終わりそうになければ、他のメンバーに渡せるようにあらかじめ想定しておきます。（ただし、それでも多くの現場では現場責任者やマネージャが巻き取ってることが多いかと思いますが）
あとは、監査の手法です。膨大な数の実証手続をするよりも、分析的実証手続で終わらせられるのであれば、そうしますし、そもそも実証不要な整理に持っていくことで、手続を削減しておきます。会社が生ものである以上、手続は今後どんどん増えるので監査は常にバッファを残してひたすら効率化すべきだと思ってます。

・　リスクに対応するために、適切な能力及び適性を有する監査チームメンバーを選任し、作業を適切に割り当てること。

メンバーの選任自体は法人が割り当てられることも多いため、中々コントロールできないところもあるのかなと思います。また優秀な人が入ってくれても、当然各現場で引っ張りだこになり、アサインが全然取れない、期ズレの会社では、特に3月決算と被ると四半期で人が全然取れないということもあります。現場責任者だと上に駆け寄ってなるべく良い人材を指名したり、最近は閑散期にリスク評価や手続の前倒しを進めて平準化するしかないのかなと思います。（閑散期なんて無い人もいますが）

・　監査チームメンバーに対する指揮、監督及び作業の査閲を適切に行うこと。

これもとても大切です。特に私はスタッフに業務を振る際に、あらかじめ注意すべきことや監査調書上の方向性を必ずすり合わせます。特にスタッフはいろんな会議に出る現場責任者と違って、入手する情報が限られているので、まぁ監査計画ちゃんと読んでおいてと思う一方で、あらかじめすり合わせ、完成までのイメージを共有することで、レビュー時点で何これ？みたいなことは減るかと思います。スタッフの皆さまも調書はやり切ったら提出するのではなく、まずは現場責任者にこういった方向性で作りますと説明しつつ、60~70%できたと思ったらどんどんレビューして貰いましょう。私も昔は仕掛中だった調書を完成したと思い現場責任者に見せたらおそらく20~30%程度の制度でレビュー依頼して怒られてましたが、後から怒られるよりは全然マシです。気にしないでどんどん見せましょう。そのためにも、

現場責任者→マネージャ→パートナー→審査日
といったおおまかなレビューのスケジュールを意識しつつ、いつまでに資料を網羅的に貰うべきかなど、何をいつまでにやるのか可視化しましょう。
現場責任者はまず一通りの監査調書を作れると思いますが、スタッフの方でまだ担当した科目が無いときはこちらの書籍を買いましょう。前期調書を見ればよいという方もいますが、正直言って前期調書なんてあって無いようなものなので、担当科目が決まったらまずは目を通すことをお勧めします。
ちなみに、今執筆中もこの書籍の値段が上がっており、一部界隈ではトレーディング目的の棚卸資産だの、売買目的有価証券だの言われているのでお早めに購入がお勧めです。

四訂／勘定科目別　不正・誤謬を見抜く実証手続と監査実務

※この書籍は見当たらなかったですが、まとめ買いするなら送料がかかってしまいますが、組合員なら公認会計士協同組合で購入すると安く買えますので、お勧めです。

また、依頼資料は貰いっぱなしではなく、貰った瞬間に1分でも良いので資料に目を通し、その資料で実施するであろう監査手続を充足できるのか確認しましょう。あとから気付いて実は資料が不足していた、パスワードがかかっていて開けないなどクライアントに伝えてもクライアントとの信頼関係が悪化するだけです。

・　必要に応じて、構成単位の監査人の作業や専門家の業務と連携すること。

これは言わずもがな、必要な時は前もって連携しましょう。

6.それでも炎上した場合

上記のように、監査計画を作りこみ、事象の変化があるたびに計画を修正してても炎上するときは炎上します。本体や子会社で不正があり、訂正報告書対応をする時は短い期間で監査をやり直しますし、買収でも現場部門のほうが力が強く、翌期首に買えばいいものを、期末に大きな会社を買収されたりするともう監査現場は大変です。
※訂正監査があるとどんな大変なことがあるの？という方は監査・保証実務委員会実務指針第103号 訂正報告書に含まれる財務諸表等に対する監査に関する実務指針に目を通してもらえればと思います。論文だったり修了考査の答練なんかでもお馴染みですね。

そんな時はどうすれば良いか？ということでいくつか書いていきます。

・炎上を楽しむ

一つは炎上を楽しむことだと思います。特に炎上した時って、もう現場責任者がどうしようとどうにもならないことが多いので開き直ってある種のお祭りだと思って受け入れましょう。逆に炎上って人によりますが、そんなに経験できる機会もないので、逆に良い経験になった、ラッキーくらいで対応すればよいと思います。
(炎上に限らず、仕事は楽しんでなんぼだとは思いますが)

・折れない心

個人的にどんな状況でも肉体的な疲労は別として、精神的な疲労さえなければどうとでもなったりします。逆に言うとメンタル不調だと本当に辛いです。
私も8年くらいの社会人経験で、役員に囲まれて詰められたり、土下座させられたり、経理で飛び込み営業したり、上司から監査六法投げつけられたりと色々とありました(事業会社時代)がいちいち気にしていると気が持たないので気にならなくなりました。
鬼滅の刃の煉獄さんじゃないですが、心を燃やして歯を食いしばって前を向きましょう。何とかなりますし、振り返ってみると大半は笑い話です。
某企業ではないですが、大変な時こそｺｯｶﾗｯｽ!!の精神は大切です。

・時には逃げる

それでも無限に働けるか？というと当然身体に限界はきます。その時は逃げましょう。過去いろんな立場の方と働きましたが、体調不良やメンタル不良で倒れた方を何人も見てきました。体は資本といいますが、体を壊してしまうと元も子もないので、自分の限界を知りつつ、無理だと思ったら逃げましょう。独立しているなら話は別ですが、組織の仕事なんて1人いなくなったところで結局はどうとでもなります。特にこういったPJ型の仕事は仕事ができる人に集中しやすいので、私のようにてきとうな人間ならまだしも、責任感が強い人は諦めることも重要だと頭の片隅に入れておいてください。
また、管理職でもこの業界は全然管理しない人が多数いるように思えます。スタッフでチームに入ると、現場責任者と違って、さらに裁量は無いので、どうしようもないときは誰かにHelpを出すなり、自分の身は自分で守りましょう。

7.終わりに

皆さま、最後まで稚拙な感想文にお付き合いいただきありがとうございました。
個人的には、いわゆる炎上って、単なるリスク評価が適切にされていなかったり、単なる監査人側(チーム側)の怠慢なところもあるので、皆さまが炎上しないためにも書いてみました。ただし、どうしても炎上するときはするので、その時の心構えも書いてみました。
ご質問等あれば、QuerieなりDMなり気兼ねなくお送りください！