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エストニア訪問記(4)「エストニアのIT企業」

エストニア2日目と3日目に現地IT企業に訪問して、起業に至る経緯や現在のビジネスについて聞いた内容をまとめました。先にエストニアで大成功を収めたSKYPEは、エストニアのITスタートアップに対して手厚いサポートを行ってきたようで、その流でスタートアップの活動活発となり、起業が企業へと進化する流れが生まれていました。

今回訪問した ADM 社はSkype出身者の支援を糧に、スタートアップから成功した企業の1つです。現在は規模を拡大しつつ、現在のエストニアのITスタートアップに対して手厚いサポートを行っているようです。このようなエストニアの成功企業によるスタートアップ支援の輪廻が、エストニアから多くのユニコーンITスタートアップを排出する原動力になっているようです。

一方、エストニアが注目され海外からも資金が流入しているようですが、今回訪問した Planetway 社のように技術・サービスが期待されつつ、シーズから実際のビジネス展開はスタートしたばかりの企業も多く、今後が注目されます。

エストニアの中堅IT企業 ADM

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エストニアの中堅IT企業 ADM は、エストニアのタリンとイギリスのロンドンに拠点を持つ、スタートアップから順調に規模を拡大する会社の1つでした。ADM は、モバイルパーキング(*1)などのエストニアの電子国家を支えるアプリ開発に携わりながら、ウオレット、配送、メディア関連のアプリ、サービスを次々と開発、提供しているようです。

mwallet(モバイルウオレット)
https://mwallet.pro/

POSTPAL(配送サービス)
https://www.postpal.eu/

FRANK(SNS、Web向けオンライン広告代行)
https://frank.ai/

SHUUT(ソーシャルメディア広告用映像作成サービス)
https://www.shuut.it/

ELEVATION PROGRAM FOR TECH-BASED CREATIVE STARTUPS(スタートアップ支援)
https://elevatorstartups.com/

datanor(ITシステムコンサルティング・分析・開発)
https://www.datanor.ee/

*1 mobile parking
https://e-estonia.com/solutions/location-based-services/mobile-parking/

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Riho Pihelp CEO がしきりに強調していたのが、SKYPE の成功から始まった、ITスタートアップ支援の流れです。

SKYPE は以前 Microsoft に買収されていますが、現在もエストニアのタリンに開発拠点があり、Skype で成功を収めたメンバーは積極的にITスタートアップの支援を行っているようです。そして ADM のように、その後事業が順調に拡大スタートアップしたスタートアップ企業は、さらに次のスタートアップ起業に投資する流れが生まれています。

実際 ADM は、エストニアの他2社と協力して、ADM GROUP WAS AWARDED THE TITLE OF DREAM EMPLOYER(*3) というスタートアップ支援を立ち上げています。この支援が、さらにエストニア発のユニコーン企業を生み出してゆくのか注目されます。

*3 ELEVATION PROGRAM FOR TECH-BASED CREATIVE STARTUPS(スタートアップ支援)
https://elevatorstartups.com/

Skype の現在に至る経緯と現状については、以下を参照ください。
Skype at 10: How an Estonian startup transformed itself (and the world)
https://www.microsoft.com/en-us/stories/skype/

エストニアのスタートアップ資金調達については、以下を参照ください。Imagine, create, grow. Estonia is the place for ideas worth funding
https://e-estonia.com/imagine-create-grow-ideas-worth-funding/

エストニアの有名なスタートアップ企業については、以下を参照ください。5 Estonian Startups You Should Know About
http://undp.ee/5-estonian-startups-you-should-know-about/
エストニアのスタートアップ事情とは!? 注目ユニコーン企業4社徹底解説!!
https://estonia-holic.com/estonia_unicorn/

エストニアのスタートアップ Planetway

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Planetway は本社がアメリカのサンノゼにあり、開発拠点をエストニアのタリンに、ビジネス開発とバックオフィスを東京と福岡に置いています。後にHPを確認すると、CEOを含む取締役は全て日本人で、コアメンバーの 2/3 以上が日本人でした。そんなこともあり、エストニアオフィスにも日本のスタッフがいるようで、当日対応いただいた 大塚CIO は 元パナソニック出身の方で、途中アメリカのベンチャーから Planetway に所属し、現在はエストニアに在住していました。

Planetway はICT先進国エストニアで生まれた情報連携基盤を民間向けに応用開発し、世界的にもサービス品質の高い日本で実証し、その実績を世界展開することを目指していました。その世界展開を目指す主要プロダクトは、エストニアの電子政府を支える情報連携基盤「X-Road」を企業向けにカスタマイズした PlanetCross(*2) と、エストニアにおける最先端技術を活用したユニバーサルなIDを提供する PlanetID(*1) の2つでした。

*2 PlanetCross
https://planetway.com/planetcross

*3 PlanetID
https://planetway.com/planetid

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X-Road ベースの Planetway はすでに日本企業への提供を開始し、日本瓦斯株式会社 のガスボンベやメーターなどのデバイスからのデータを収集するIoT基盤「ニチガスストリーム」(SORACOM Discovery 2019 で日本瓦斯社長の和田氏 が呼んでいた呼称)などで利用が始まっています。「ニチガスストリーム」は、個別DBをおのおのをVPNでデータ連携していたシステムを、X-Road ベースの Planetway でインターネットを伝送路に、疑似的な1つの分散DBのような連携を実現しているようです。詳細は、以下のサイトなども参考にすると良いでしょう。

2019-07-26 日本初!X-Road(*1)とブロックチェーンを商用実装した、コールセンター向けワンストップサービスを開発・運用開始!
https://www.zaikei.co.jp/releases/840758/

エネルギー業界の風雲児、ニチガス和田社長が語る「企業経営とDX」(上)
https://tech.nikkeibp.co.jp/atcl/nxt/column/18/00896/080500003/?P=2

スマートタウンを実現するデータ交換基盤“PlanetCross”
https://www.unisys.co.jp/tec_info/ik15po00003lxrpd-att/13806.pdf

もう一つのプロダクト PlanetID は、本人確認レベルに応じたIDの付与、認証、および電子署名の機能をそなえるデジタルIDプラットフォームでした。個人情報やプライバシーに関する情報など秘匿性の高いデータを活用する行政や銀行などをターゲットにしているようです。当然、PlanetCross と組み合わせた活用を意識しているようで、エストニアで実現しているように、個人の許諾を得た機関がデータ閲覧連携を可能にするシステムの提供を目指していました。

スタートアップ Planetway のこれまでと今後

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Planetway は2017年にシードラウンドで約240万USドルの資金調達を、 Mistletoe株式会社、ABBALab IoEファンド 、株式会社トクスイコーポレーションより得ています。このような出資による潤沢な資金を元手に、エストニアで成功した技術を企業や行政向けに改良し、日本瓦斯、千葉県市川市、凸版印刷など、すでに日本でサービス提供や、提供に向けた準備を始めています。

一方で、現地をガイドの方から「原資には限りがあり、今後ビジネスとして利益を確保できるかが、直近の課題になっている」と聞きましたが、確かに2017年からの経緯を追うと、2年を経た現在でもまだビジネス案件数が少なく、今後の推移が注目されるところです。Planetway のこのような経緯を知りたい方は、以下などを参考にすると良いでしょう。

2017-09-29【Planetway】シードラウンドで約240万USドルの資金調達を実施 Mistletoe株式会社、ABBALab IoEファンド 、株式会社トクスイコーポレーションより
https://www.nikkan.co.jp/releases/view/2370

日本を代表する9社が参画!革命前夜ともいえる記者発表。電子国家エストニアの情報連携基盤を活用したスタートアップが仕掛ける革命とは?
https://eiicon.net/articles/469

2019-06-06 データ連携基盤ソリューション、「PlanetCross製品版」の提供を開始
https://www.nikkan.co.jp/releases/view/100875

「PlanetCross」を活用したコールセンター向けワンストップサービスとして実運用
https://planetway.com/pressreleases/planetway-planetcross-customer-search-call-center/

最後に

日本でも東京や福岡などの都市を中心に、スタートアップから発展を続けるIT企業を輩出しています。一方で高知のような末端の地方では、IT関連の起業は少なく、大半のIT企業はメーカーの下請け若しくは旧来のビジネスモデルにしがみつき現状維持を図っているのではないでしょうか。

高知県は東京を中心とした都市部からのIT企業の誘致を積極的に進めていますが、雇用確保の視点から抜け出せず、新たなIT事業を生み出する流れには至っていません。また、起業イベントや講座、補助金などでIT起業を支援する動きはありますが、今のところ目立った成果は生まれていません。
さらに一部の地元企業などはIT起業を支援するどころか、単なる競合相手で理解できないものとし、逆に既存既得権を使って潰しにかかってはいないでしょうか?

先にも述べた通り、エストニアでは政府がIT企業(起業)とタッグを組み新しい技術を推進できる体制があります。そして、政府とタッグを組んだIT企業や、SKYPE などの成功した先輩IT企業が、新たなスタートアップ起業を支援する流れができています。この支援は単に資金面でなく、スタートアップ人財の育成を手厚く行い、起業後は自らスタートアップの技術を活用したり、サービス展開をサポートするなど、起業を全面的に手厚くサポートしています。結果、後日こちらでまとめるつもりですが、LIFT99(*4)などのような新たなユニコーンを生み出す場が現れ、有能な人材が集うのでしょう。

残念ながら、取り巻く環境の違いから高知でそのままエストニアの真似はできません。しかしながらエストニアにはないアドバンテージもあり、その1つが「ITコミュニティ」を媒介とした人材育成と都市と地方の関係構築だと考えています。こちらについても、後日考えをまとめてみるつもりです。

*4 LIFT99
https://www.lift99.co/

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