どこかへ
大学を卒業した友だちは就職していた。地元の役場に就職した友だちの景子とは時々会った。正社員として就職してもアルバイトとほとんど変わらないくらいの給与しかもらえないと話していた。景子は就職とともに新車を買っていたからよくドライブに連れて行ってくれた。
お洒落なブティックのようなところで地味だけど質の良い服を買っているのをよく見ていた。痩せたい気持ちが一緒だったし、いつか海外旅行に行きたいという話もあった。
何より私のことを何らかの才能のある人物であると思ってくれているらしいのが嬉しかった。うまくいかない恋愛の話を包み隠さず話してくれる。ラブホテルのお風呂で泣いた話。彼氏の浮気現場に遭遇した話。大変だねと言いながら笑った。10年くらい後、彼女は同僚の少し気の弱そうな男性と結婚した。その男が彼女を愛しているのか、彼女がそもそもその男に興味があるのかはわからなかったが、結婚式は素敵だった。綺麗な子だから白いウエディングドレスがよく似合っていた。
コンビニも歯科助手もやっていることは特に大きく変わらなかったが、歯科助手になってからの方が男性にモテるようになった。
地元に帰ってきた高校の先輩が声をかけてくれて、男性グループの中で女が1人、飲みに行くことがあった。ただちょっとした壁の花。でも嬉しかった。「歯科助手の子を誰か紹介してよー」と甘えた声で頼まれたりしたが、職場には既婚者のおばさんしかいなかったから、結局みんな別のところでお嫁さんをもらって子どもを持ちお父さんになったようだ。
白い歯科の壁を見ながら漠然と「どこかへ行きたい。」と思った。家に帰ると、インターネットを通していろんな可能性を探った。海外の大学、ワーキングホリデー、農業の手伝いをしながら世界を渡り歩くことのできるウーフというプログラム、フランスでの遺跡発掘など。
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