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ひめくり☆トラベル:12/30
「なんだろ、これ」
裕美は、封筒から出てきた物を手に首をかしげた。
「アドベントカレンダーじゃない?」
「アド弁当って? お弁当屋さん?」
「ちがーう! アドベント!」
真由子がつっこみを入れる。
「なにそれ」
つっこまれても、わからないものはわからない。
「12月1日から24日、つまりクリスマスまで、毎日窓を開けていくカレンダーのこと」
「ふーん。真由子って物知り~」
問題のそれは、裕美
ひめくり☆トラベル:12/31
裕美は、ベッドの上に置いた、例のカレンダーらしき物を眺めている。
一辺が50センチくらいの正方形で、それぞれ異なる形の31個の窓が描かれている。ミュシャを思わせる淡い色彩の、アール・ヌーヴォー風デザインで全体が統一されていて、そこは気に入っていた。
「そもそも何で当たったんだったかなあ・・・」
懸賞応募は裕美の趣味のようなものだ。暇なときに適当に応募しているせいで、どんな懸賞に応募したか
ひめくり☆トラベル:1/1
時計が0時を回った。
「あけましておめでとうございます」
居間で一緒にテレビを見ていた両親と新年の挨拶を交わすと、裕美は立ち上がった。
「私、もう寝るね。おやすみなさい」
自室に戻った裕美は、置きっぱなしのカレンダーを見た。
「さて、日付も変わったし、開けますか!」
「1」と書かれた窓を開く。
「・・・・・・」
わくわくしながらのぞき込んだそこには、凝った書体で「Welcome」とだけ
ひめくり☆トラベル:1/2
「昨日はなんか変な夢見たなあ。しかも中途半端だし」
裕美はつぶやいた。年明けに妙な夢を見て、しかもやけにはっきり覚えていたものだから、気になったのだ。
「まあ、夢なんてそんなもんか」
そう言いながら、カレンダーの「2」と書かれた窓を開ける。今度は「to」とだけ書かれていた。
「こっちも訳わからないわ……まあいいけど」
裕美はカレンダーを置いて立ち上がると、部屋を出ていった。
その夜。
ひめくり☆トラベル:1/3
裕美はカレンダーを眺めていた。
ウサギ男は、裕美を「カレンダーの主」と呼んだ。もしや、カレンダーと夢に、なにか関係がある?
「まさかね」
今度は「3」と書かれた窓を開ける。そこには「WonderLand!」と書かれていた。
「不思議の国へようこそ?出来過ぎじゃない?」
裕美は苦笑した。
その夜。
果たして、ウサギ男はみたび夢の中に現れた。裕美は皮肉っぽく言う。
「不思議の国への
ひめくり☆トラベル:1/4
おかしな夢は気になるが、同時に興味もあったりする。
裕美が「4」と書かれた窓を開けると、そこには「Do」と書かれていた。これだけでは何のことかわからないが、たぶん他の窓も開ければわかるようになっているのだろう。一気に開けてしまうか?でも、そうしてしまったら、きっと一気につまらなくなってしまうに違いない。
「そう、たとえば、ひとつだけ夢をかなえて差し上げる、と言ったらどうしますか?」
ウサギ
ひめくり☆トラベル:1/5
今日から仕事だというのに、寝覚めは悪かった。
原因は、ウサギ男の嫌味な笑いだ。思い出して、またムカムカしながら、「5」の窓を開ける。そこには「you」と書かれていた。
「あー、ムカつく!」
裕美は八つ当たり気味にカレンダーを放り出すと、会社に向かった。
「では、まずはそこから始めましょうか」
ウサギ男が指を鳴らした。途端に、周囲が真っ暗になる。
「え?ちょっと!」
「探す、見つける、思い
ひめくり☆トラベル:1/6
裕美はカレンダーを眺めた。しばらく考え込んでから、「6」と書かれた窓を開ける。そこに書かれていた言葉は「know」だった。
暗闇の中、裕美は途方に暮れていた。
「あいつ、なんて言ってたっけ?探す、見つける、思い出す?」
探す、見つける・・・周囲は真っ暗闇で、何も見えない。思い出す・・・そもそも、何を?
「夢がどうとか言ってたっけ。夢、夢ねえ・・・・・・そういえば、将来の夢とか、そんなことを
ひめくり☆トラベル:1/7
裕美は出かける支度をしながら、壁に立てかけてあるカレンダーを見る。使い始めて1週間になるが、これがなんなのかはまだわからない。正直、カレンダーかどうかも怪しいままだ。
そう思いながらも、裕美は「7」の窓を開く。「what」とだけ書かれていることを確認すると、裕美は部屋を出ていった。
気が付くと、暗闇の中で座り込んでいた。また前回の続きから始まっているらしい。
昨日の夢で思い出したのは、子
ひめくり☆トラベル:1/8
朝から気が重い。夢の中でまで、「現実」なんて感じたくない。どうせ見るなら、楽しい夢がいい。残念ながら、夢のコントロールなんてできないが。
裕美はため息を付きながら、「8」の窓を開けた。「is」それだけが書かれていた。
あいかわらず周囲は真っ暗だ。何も見えない。
子供の無邪気な夢から、現実的な将来の夢への切り替えは、突然やってくる。子供の頃の夢を持ち続けて、そのまま夢をかなえる人もいるが、
ひめくり☆トラベル:1/9
「9」の窓の奥に書かれていたのは、「your」という言葉だった。一連の言葉がなにを示しているのかは、まだ見えてこない。
裕美はふと気付いた。
無邪気な「夢」を見るのをやめてから、「何をしたいか」や「何になりたいか」ではなく、「何ができるか」ですべてを判断してきた。
今の成績や資格で入れる高校、短大、会社。やりたいと思うことが特になかったから、できることを基準に考えてきた。そのほうが、楽で
ひめくり☆トラベル:1/10
裕美はむくりと起きあがった。しかし、そのまま前に突っ伏してしまう。
「あー、なんか色々、気付かされたかもかも・・・」
自己嫌悪に似た気持ちは、「10」の窓を開けて更に強くなった。底に書かれていた言葉は、「precious?」だった。
「さて、何か見つかりましたか?」
その声と同時に、周囲がぱっと明るくなり、裕美は思わず目を閉じた。しばらくしてから、そっと目を開ける。
「残念ながら、まだ何も
ひめくり☆トラベル:1/11
何かを見つけたい。夢の中で、裕美はそう思った。
何を?それは、まだわからない。この窓に書かれている言葉は、捜し物の旅に、ヒントを与えてくれるだろうか?
「11」の窓には、「Search」と書かれていた。
「では早速、行ってらっしゃい」
ウサギ男の唐突な宣言とともに、再び周囲が一変した。
今度はなにやらおかしな場所にいる。暗いけれども、ぼんやりと辺りの様子が見えるような空間だ。お
ひめくり☆トラベル:1/12
休日はうれしい。でも、その終わりが近づくと憂鬱になる。
「ああ、明日からまた仕事かあ・・・明日もお休みならいいのに」
勤め人の多くが、一度は思うことではないだろうか。もちろん、裕美もその一人だ。
そんな気分で開いた「12」の窓には、「it,」と記されていた。
「仕事を楽しんでるか?楽しくは・・・ないかなあ」
次の段にも、何か書かれている。
「仕事に、やりがいはある?」
「やりがい、ねえ。