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拝啓、初めましてのあなたへ。

アルビノって知ってる?

私が人生で一番多く使ったフレーズは、「アルビノって知ってる?」か、「アルビノってご存じですか?」のどちらかだろう。初めて出会った人に私はこのフレーズを使うほかない。知ってもらわなければ、関係性は始まらないからだ。

新しい場所へ行ったら、必ずこのフレーズを使う。だから、私の初めましてはやはり、「アルビノって知ってる?」から始めるのがいい。そう思った。

アルビノとは何か、と聞かれて即答できる人の方が少ないことを私は知っている。アルビノの認知度は近年上がってきてはいるけど、やっぱりマイノリティ中のマイノリティだ。どれくらいマイノリティかというと、約2万人に1人の割合でアルビノは存在しており、全国に5,000~6,000人いると言われているくらいだ。ただこの統計も古いので、実際のところはどうかわからない。少なくとも今はそう判断するしかない、というところだ。この人数、結構少ない。

一方で私はここでアルビノの記事をはじめとした文章を書く以外に別名義で創作活動をしている。創作活動をしている、特に絵や小説を使って表現する方のなかでの、アルビノの認知度は、一般より少し高めである。ただし、その理解が正しいと言える方は数年やってきて片手の指で足りるほどしか会ったことがない。ヒトのアルビノに対する情報は動物のアルビノのそれより、はるかに少ないから、正しい知識をもたない人々を責めるつもりはない。

アルビノとは何か、と問われたら、私はまず最初にこう答える。

「遺伝疾患です」

しかし、これは私の答えである。当事者によっては、「障害です」かもしれないし、「難病です」かもしれないし、「見た目問題です」かもしれないし、「ユニークフェイスです」かもしれない。そして、これらはすべて正解だ。

私にとっては視覚障害を含めた遺伝疾患としての側面が大きいという話である。

アルビノという言葉をインターネットで検索すると、一昔前は動物のアルビノの写真でいっぱいだった。今は違う。薮本舞さんや神原由佳さんのインタビュー記事が出てくる。こういうところは時代が進んで変わったなと思う。勿論よい方向に。

アルビノは、遺伝疾患で、障害で、難病で、見た目問題で、ユニークフェイスだ。

アルビノって何?~視覚障害~

初めまして、私は雁屋優です。その次くらいに私はアルビノって知ってる? と言う。言わざるをえない。その理由はアルビノが視覚障害を伴う遺伝疾患であるからだ。それ故に人の手を借りることもある。だから伝える。そうでなかったら多分何も言わない。

アルビノは視力が低い。「何だ、じゃあ眼鏡をかければいいじゃない」と思うかもしれない。しかし、実際には眼鏡をかけている当事者は私の体感ではそう多くはない。

単に視力が低いだけではないからだ。初めましてに医学的な話をするのもどうかと思うし私はまだ浅学なので医学的なことは省いて事実を書く。アルビノの視覚障害は、眼振、羞明、低視力に分けられる。

眼振とは書いて字のごとく、目が揺れることだ。人は何かに視線を合わせていられるが、眼振がある人は何かに視線を合わせようとしても、ふいっと目が動く。話をしている最中に、目があっちこっち動いても、自分では調節できないので、話を聞いていないわけではない。

羞明は、人より眩しく感じる状態を指す。同じ強さの明かりでも、普通の人は平気だけどアルビノの人には眩しくてたまらないといったことがある。アルビノの人は家で照明を暗めに設定していたりするのもそのためだ。

さて、最後の低視力。これが難題だ。羞明や眼振の程度にも個人差があるのだが、視力は数字が出るのでよりわかりやすく個人差が出る。多くの場合、矯正は大した効果を発揮しないが、私も、視力は裸眼で0.1前後、矯正で少し視力が出て0.3前後となる。近くなら、0.5くらいまでだせる。私の視力では視覚障害者手帳はでないが、私より目が悪く、視覚障害者手帳をもっているという当事者もいる。

アルビノって何?~見た目~

アルビノの視覚障害について先に書いてしまった。アルビノを多少ご存じの方は、「えっ、見た目は」と驚かれたかもしれない。でも、私にとってアルビノの見た目よりも視覚障害の方が問題だったのだ。見た目で苦労したこともそれなりにあるけど、視力のことを先に言わねばという気持ちがはやってしまった。

そもそも初めまして、と私に自己紹介をするチャンスをくれる方はその時点で私の見た目も見ている。人より肌が白くて、グリーンとブラウンで構成されたひまわりが咲く瞳、ミルクティーブラウン色の髪。それが私の見た目だ。

しかしこれはネットであり、私は今後も顔は見せないつもりである。だから、先ほどのような描写が必要だったのだ。

アルビノと言えば、白髪赤目の人、というイメージもまだ根強い。しかし、アルビノの人は個人差が激しく、髪も白、白に近い金色、金色、褐色まで様々であるし、瞳の色もグレーに、ブルー、グリーンと多様である。

瞳の色も髪の色も、様々なのである。決して白髪赤目以外のアルビノの人を見て、「おまえはアルビノじゃない」なんて言わないでほしい。

そして私が白髪赤目のアルビノの二次元キャラクターを観る度に、「目が悪い設定どこ行っちゃったの?」とか「日に焼けられないはずでは?」とか考えてしまうことは公然の秘密ってやつである。

アルビノって何?~日焼け~

そう、日焼け。私達アルビノは日焼けを避けなければならない。さもなければ、火傷のように赤くなり、翌日皮膚科に行くことになるからだ。「~すべきだ。さもなければ~することになる」なんて、英語の構文みたい。

私も何度かひどい失敗をしている。

例えばそれは旅行ででかけた四万十川であったり、スキー学習で訪れた近隣のスキー場であったり、するのだけれど、決まって同じ顛末を迎えている。何度も日焼け止めクリームを塗り直していたにも関わらず、強い日差しに負け、私の肌は赤く染まり、翌日の皮膚科行きを宣告してくるのだった。熱をもった肌は、何だか重たかった。日焼けは、痛い。

当然こんな状況で、屋外でのマラソンやプールなどできたものではない。日傘をさして見学したり、図書室で司書教諭のお手伝いに励んだりした。そんなわけなので、もし海に行くとかそういうときは私は遠慮しておく、という感じかな。普段の外出レベルでは、日焼け止めクリームか日傘があれば問題ない。

日焼けに関しては大人になったら仕事もほぼ屋内だし困らない。一番困ったのは学校で体育や運動会などがある時期だ。

アルビノの私は、日常を生きている

ここから先、普段何に困っているとか、どういう現実に直面しているかとか、そういうことも書こうかなと思ったけれど、やめた。初めましてから苦労話をするのは何か違う。

それでも私がリアルでの初めましてからアルビノの話をするのは、必要があるからだ。一緒に歩いていて、いきなり柱にぶつかったり、階段を降りるのが危なっかしかったりする人間がその症状について何も説明なしというのでは相手も何だかリラックスできないだろう。それに私は、「ほら、あそこの看板」とか指さされても見えないことがある。

そういうことを、伝えておく必要があるからだ。でも、それは介助してくださいということではない。介助が必要ならそのために人を雇うなり何らかの対策をする。しかし、私は自分で無事に生きて帰ってこられるくらいには軽症である。ただ、同じものを共有できないのはこういう理由からですよ、というお知らせだ。もし本当に見えなくて困っていたら、ちゃんと言葉にするけれど。

アルビノのなかでは目が見える方だというのもまた事実。だからと言って普通の人とまったく同じにはできない。

でもそんな私にも、おいしいごはんを食べに行ったり、映画を観たり、本を読んだり、先ほど少しふれた創作活動をしたりする日常がある。たしかに全国に5,000~6,000人しかいないらしくてマイノリティ中のマイノリティだけど、私は今を生きている。

それはあなたとも地続きの日常なのだ。あなたがふっと入ったカフェの隣に、レストランの隣の席に、映画館のなかに、私はいるかもしれない。驚くななんて言わない。そのときに、ふっとこの文章を思いだして、「アルビノなんだな」って思ってもらえたらそこに私がこれを書いた意義がある。ちなみにアルビノの人を友人にすると他のアルビノの人に会ってすぐそうと気づける特殊能力が身につくんだって。

日常をどう生きているのか、私のことをもっと知りたいと思ってくれたら、それを知った私は部屋で一人頬を緩めていることだろう。

執筆のための資料代にさせていただきます。