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アルビノで生きていく覚悟~「この顔と生きるということ」を読んで~

この本が届く前に、「見た目問題」と私。というタイトルで文章を書いた。

届いて読んだら、きっとまた違うことを考えるようになると思ったからだ。私はアルビノで、「見た目問題」の当事者でもあるけど、偏見を持っていないとは言えない。この本を読んでいったらきっとそのいくつかを直視する。そんな怖さも、あった。

誰のことも否定しない旅

読んで最初に感じたのは、優しい本だなあということだった。優しい。優しいって何なんだろう、優しさって、難しいよね、と日々思っている私の感想としては随分不思議なものだ。

ただその根拠ははっきりと言える。この本は決して独善的ではないのだ。独善的になりがちな雁屋は自戒も込めてこれを書く。雁屋は正しさに溺れがちだ。求めてしまいがちだ。正しくなくてもいいのだ。

この本には様々な「見た目問題」を抱えた人が登場する。見た目を変えるために、手術した人もいるし、治療を続ける人もいるし、しないことにした人もいる。その選択のどれもを尊重している。

「見た目が変わるなら手術すべきだ」とも、「ありのままの見た目を受け入れるべきだ」とも言わない。その人の選択をそのまま尊重している。他人の選択を尊重する。一見簡単そうなことの、どれほど難しいことか。私は、そこに関して幾度も失敗を重ねている。

そしてこれは、旅なのだ。著者である岩井さんのお子さんのための旅。決してきれいで楽しいだけの旅ではない。しんどくて、きつい現実に直面したり、自身の直視したくないところにも向き合ったりする。しなくてはならない。その旅路が、この本だ。

岩井さん自身の迷いや葛藤も見えるからこそ、この本は他人事じみていなくていい。それでいて、強引な共感もない。目の前に取材を受けた人々がいる感覚になる。共感ではない。その人が目の前にいて、話を聞いているように思うのだ。決してその人になった気にはなれない。絶妙な距離感だ。

人は「見た目」を語る時、自身の「見た目」への偏見に気づかされる。そんな一面はたしかにある。私自身、アルビノではあるけれど、他の「見た目問題」に詳しいわけでも、偏見がないわけでもない。偏見をなくすには偏見があることを自覚するところからだと思うので、前には進んでいると思いたい。

同じ能力の人が二人いたら、自分は落とされる

私自身アルビノなので、アルビノの人のところは特に読みこんだ。アルビノとしては、以前私のnoteにも登場していただいた神原由佳さんをはじめとして、薮本舞さん、矢吹康夫さん、伊藤大介さん、粕谷幸司さんが登場している。

その中でも、忘れられない言葉がある。伊藤さんの言葉だ。同じ能力の人が二人いたら、自分は落とされる――それは、私も同じくアルビノの友人と話したことのある話題だった。その時は「同じ能力の人が二人いたら、弱視で配慮のいる私達は落とされるよね」って話だったけれど。

その記憶がよみがえって、私はしばらくの間、考えていた。”普通の人”がするよりも私達はそれ以上に努力をしなければならないのだろうか。現実はそうなっている。けれど、それは、”正当である”のか……。同じ成果は同じ評価を得られるべきだ。でも、その同じ成果を出すためにアルビノの人が人一倍の努力を強いられるとしたらそれだって公正な競争とは言えないなとかそんなことを考えていた。

本当に、目を背けてはいけない問題だ。「見た目問題」から目を逸らすわけにはいかない。

見た目と恋愛

学校、就職ときて、恋愛がテーマになった章があった時には少し驚いた。恋愛を扱うとは思っていなかったからだ。何故私が恋愛を「見た目問題」の本で扱わないと思ったのかと言えば、極論、恋愛しなくても人は死なないからだ。

私自身、恋愛を求めていないし性欲もない、アセクシャルとノンセクシャルの間で揺れ動く存在であることもそうだが、多分恋愛における差別を軽視してしまっていたのだ。学校でいじめられればそれがめぐりめぐって低収入に繋がるかもしれないし、就職で差別されれば収入を得るのは難しくなる。しかし、恋愛はしなくても死なない。そんな風に、「見た目問題」における恋愛を軽視していた。自戒も込めて書く。

「見た目問題」において恋愛とは無視できない側面である、と。

それでいて、私自身は恋愛における差別と無縁ではない。私の親が再婚する時に相手方の親に「またそんな白い子が生まれても困る」と再婚を反対されている。私はこの事実を忘れない。なのにどうして恋愛の側面を軽視してしまったのか。

それはこの経験からアルビノに恋愛は”ないもの”とすることで傷つくのを避けようとする思考が働いていたからかもしれない。苦労するとわかって恋愛のことを考えるより、はじめからないものとした方が楽。そんな思考があった可能性は否定できない。

アルビノで生きていく覚悟

アルビノで生きていく覚悟があるか、と問われれば、私はきっとないと答えるだろう。見た目については気に入っているが、視力は欲しくてたまらない。

それでもこの本の著者の岩井さんのように、「見た目問題」を自分のこととして考え、取材し、考え続けてくれる人がいるのなら、希望はゼロではないのかもしれない。

執筆のための資料代にさせていただきます。