アーバンギャルド、初の自伝本「水玉自伝」松永天馬の部 - 感想やメモ

天馬の部。
バンド史とアルバムレビューを交えて書きたい。書けるかな??



◯松永さんの考え方、経験に対して


▽P2『青春と呼ばないで』
「その事実を否定も肯定もしないでいられるようになったのは、きっと歳を重ねたからだろう」
好きなアーティストが以前、闇を抱えた青春(学生)時代を憎まずに客観的に見られるようになったから、暗い青春を思わせる歌詞を書けるようになった、と言っていたのを思い出した。
色々な事を受け入れて、作品の糧にする。松永さんにしては珍しく自分を語ってくれている。この前書きの時点でもう既に、内面を見せてくれている。松永さんがやっているnoteではこういう事も書いているんでしょうか。

「どうしても客体化してしまう」
それって凄く職業作家的だし、偉そうな言い方だけど本当に作家に向いているというか、作家体質なんだと思いました。

「『僕の』作品と言い切ったら〜メンバーから反論がきそうだけど」
以前は松永さんのバンドってイメージもあったけど、今はメンバーのエッセンスが楽曲やスタンスの端々から伝わるし、それぞれが真に根付いたんだと思う。各々が作品を形作り、全員がしっかり機能している「バンド」らしいバンドになっていると感じています。「昭和九十年」以降それが顕著だと思うし、後の章では松永さんもその頃から、自分の手を離れた娘の様だ、と言っていました。

P67「作品自体は空洞であったほうが良いというか…」
意外だった。
作り手には思想が無ければ、という考え方を少なからず持っていた自分にとっては考えるきっかけになったし、身につまされる感覚もあった。
でも、確かに、思想を持つべきという押し付けにも成りかねない。見る者が考える"きっかけ"だけというのも、その方がむしろ芸術的なんでしょうか。

P88〜89
「生まれてみたい」制作期の話。色々とやばいけど(笑)、松永さんが「友達と思ったことはなかったのですが、やっぱり友達みたいなノリでやっていた部分もあったのかな」(要約)と書いているのが、ちょっと青春っぽくてグッと来る。時が経つと、事件も懐かしさを感じる。

p95
『日本の音楽業界』の話は感心したし、常に心に置いておきたい。

P126「これも自分自身の引き出しだし」
自分自身でもあるけど、アーティストとしての手段の一つでもあるというか。他からの影響や、自身とは別の何かを描写でもあるというアンビバレントな感覚は、アーティストらしい。

自分の手から離れてしまったと書いているけど、そんな気持ちになったのは、ソロをやったからハッキリしたのか、その感覚があったからソロをやったのか。それを聞いているインタビューとかどこかにないかな?
↑mikikiのインタビューがあった。

そりゃあるよね。
言ってしまえば少女を描く事への飽き、世間的に同じような表現が溢れたからという事と、更にはコミュニケーション過剰な時代への反動として孤独、それから自分自身に興味が向いた結果とのこと。
ソロをやるきっかけは時流によるものだけど、自分の手から離れた感覚がどこから来たのかは、また別の話だと思う。バンドが生きてる証拠でもあるけど、どの部分が離れたと思ったのか。
'15年のスプリング・セール・ツアーで、アーバンのオリジナリティを考え始めるようになった泥臭いツアーだった、と回顧しているけど、その辺りからバンドに対する客観的視点が広くなったんでしょうか。

(『少女フィクション』について)
一周りしたという「僕らの世代の文化」
知っていてもほとんど触れていない文化ではあるけども、それらを経験したメンバーやファンの気持ちを想像してこのアルバムを聴きたい。

アーバンギャルドはフィクションだった、なんて言うのはリスナーをケムに巻くような歌詞。やっぱり優しくない。でも、
「やっぱり幸せな関係。」
再度使われたフレーズ。この締めは上手い。っていうかお前らもう結婚しろよ状態。

P129
確かに「KEKKON SHIKI」なんてやったし、「KEKKONしましょう」なんて言ったんだから、ソロも浮気だと思われたり(これは順番逆だけど)、アーミーもハーレムだと思われるかも…。



◯"アーバンギャルド"への言及に対して

P68
これは命令形だ、とか強い言葉が多い。
確かに優しくないですよね。笑

P82
3.11の翌日にレコーディングだったんだ…。

P84
ライブでのメジャーデビュー発表直後、「どう見ても喜びの涙ではない」号泣をしながらフロアから飛び出すファンが居たと書かれている。そういう"メジャー/インディーズ"の境がハッキリとしてる時期もあったなと懐かしく思う。
ヤフーのオーディションに送るぐらいだし、本人達は元から大きい所を目指していたとの事。確かにそうですよね…。自分が知る前の事ではあるけど、ファンの気持ちも分からなくもない。今なら好きなバンドの方向性を理解して応援できるけど、十年前も同じとは言い切れない、気がする……。

P85
MUSIC JAPAN ANNEX。ベボベが「short hair」で出た時。そこでアーバンを初めて知ったと思う。変な雰囲気の色モノが出てきたなと思った。同時に、その頃はセカオワが出始めた頃、その少し後ぐらいだから、バンドというフォーマットはこれから新しい形のものが出てくるんだなとも思った。その兆しを何となく感じた記憶がある。
ちなみにその番組は録画していて、数年後にアーバンにハマってこの番組に出ていた事を思い出し、過去の自分ナイス!と思ってわくわくして見返すとカットされていた…。当時はベボベやねごとだけが目的だったのでそれ以外はほとんどカットしていた。でも何故かモーモールルギャバンは残していて「何でだよ!」と思いつつ、若干ニアミスしているのは面白かった。(鬱フェス出演歴アリ。そしてVo.が天馬さんと同じ大学同じ学部卒で2年先輩。)

「『インディーズ最後のカリスマ』みたいな紹介をされていた」、この頃は第何次かのバンドブーム直前、フェスブーム直前だから、バンドは終わった、ロックは終わったという感覚からの言葉だったのかな。何でこのフレーズになったのか。この頃の定番というかよく目にした気がする、薄っすらと。

P87
ドラマーがレコに入った事で、バンド的アプローチが出てきた。それによる齟齬、の話。
ロックとテクノポップの間を取って、ニューウェーヴ的なサウンドに変化した時期との事で、だから自分の琴線に触れたのかなと感じました。
ラジオ番組「× music」内での、ベボベ小出さんによる「ポストパンク・ニューウェーブについて」の特集で、紹介される曲がどれも良く刺さるものばかりで、自分が好きなのはニューウェーブだったのかと最近やっと気づいた。なので自分がアーバンを好きになった理由がこれでわかった気がする。

P91
AXの事件後の会議からの、「この後のツアーは自分たちでやってくれ」と言われて、レンタカーやホテルを自分達で手配したという。やばい。そんな事あるのか…事務所側の契約違反とかなのでは?

p105
生ドラムが少なくて「鍵山のレコーディングを満足にさせてあげられなかった」という話。初期の曲や活動を知る時にも薄々感じる事があったけど、ここでその輪郭が見えた気がする。
憶測に過ぎないけど。
音楽面でメンバーの意見をまとめたりフォローする役割の人が、メンバーかスタッフに1人でも居れば、ここでバンドはもう少しまとまっていたのかもと思った。松永さんはコンセプターだけど実際に舞台に立つし、谷地村さんは在籍時にそういった役割もあったのかもしれないけど居なくなってしまったし。本来そういうのはレコード会社のディレクターとかがやる事なのかもしれないけど。
打ち込みの理由を説得出来たり、反対意見に対して別の道を模索できる人が居れば。それが居る居ないも、そういうタイミングもひっくるめて進んでいくのがバンドというものではある。それに現在の目線からすれば、この過渡期があるからこそバンドは上手く続いているとも思える。
だから、けいさまは本当に上手いことピースがはまった様に感じる。いや、けいさまが上手く形を合わせてくれた所もあるかもしれない。それなら尚更けいさまが凄い。
(思えるとか感じるとか多いな…)

18年秋の少女フィクションツアー。
テクノポップが前面に出てる所とか、完成度高かったとか書かれていて気になる。音源あるかな。そもそも行ってたのかな自分。
↑ライブDVD持ってた。そして行ってない多分。思っていたよりテクノポップは前面でないと感じたし、ライブハウスらしい所だったのもあってむしろロックバンドらしさがあった。かなり肉体性を伴ったライブだった。
言及されている通り、ストレスから解放されたおかげか風通しの良さを感じるパフォーマンスで、観客と近い距離で楽しむことを無意識に優先しているような、それでいて完成度の高いライブだった。

P133
これまでの経緯を知った上での、"待ちに待ったツアー"という言葉。
それからどうなったかを知る現在からすると、帝国の崩壊を見る様ですらある…。歴史小説とか、何かが決定的に変わる瞬間を知っている立場での読後感とか。スター・ウォーズ EPⅢを公開当時に見た熱心なファンとか、こんな気持ちだったんじゃないかな。
まあ、アーバンや世間のほとんどの人達が、それらを乗り越えた事も知っている2023年ですけど。


◯テクノポップ史としての側面

P60
ネット時代の日本テクノポップシーン、その貴重な証言と注釈。アーバンだけでなく、近いジャンルやシーンも含めて歴史がわかる、日本の音楽歴史本としても、とても価値ある書籍だと思います。



◯音楽面

2ndAL『少女都市計画』


「コンクリートガール」
今聴くと良さがわかった。クラウト・ロック的な重いテクノ感がニューウェーブっぽい。

「アニメーションソング」
も、シンセのリフが低音だからという他にも、スタッカート気味だから、そういう聴こえ方とかで重い雰囲気を感じて、そこはクラウト・ロックっぽさを感じる。でもメロディーは明るいからニューウェーブっぽいし、っていうか聴き直したらイントロがもうそれっぽかった。子供声とか入ってるし、外国の人にとってはかなりポップな聴き心地になってそう。

あのイントロとか全体の雰囲気とか、イメージソースは有名な曲なのかな、にわかだからわかんないけど。

〜〜

4thAL『メンタルヘルズ』



やっぱりメジャー1stだからか、音だけで言えば全体的に明るい感じがする。聴こえ方が賑やかみたいな(?)

「ゴーストライター」
は、何回も言われてるというか本人も言ってたかもしれないけど、書き手が見えるから松永さんソロっぽく感じる。でもその見える"書き手"は松永さんというよりその歌の登場人物のこと。だけどPVがあったらそれを松永さんが演じてそうだからダブって見える。
書き手のことが思い浮かぶ詞であるし、そうやって想像することは幽霊を見る様でもあるから、「ゴーストライター」というタイトルにはその意味も含ませているのかな。
ゴーストがライトする歌じゃなくて"ゴーストライター"の歌だからか、よく読むと"書く"描写はほとんど無く、ライドしたり囁いたり踊りだしたり、文字は書かずに数えたり潰したり、夜明けを燃やしたり不幸をさがしたりしている。
いや、そういう歌詞がちゃんと歌詞カードに"書かれている"から、結果的にちゃんとライトしているのかもしれない。そもそも制作時の意図は全然違うのかもしれない。自分は何もお分かり頂けていないのかもしれない。
言葉遊びで展開していくヒップホップらしさも松永さんっぽいですね。

「メンタルヘルズ」と「生まれてみたい」はメンバークレジットが無い。メジャーデビューからメンタルまでのシングル2つはメンバー名記載有るけど。

〜〜

5thAL『ガイガーカウンターカルチャー』

「さよならサブカルチャー」
が2曲目。この展開やコード進行はラストかと思ってた。むしろ一曲目な気がしてくるぐらい、最初の曲を打ち消すインパクトすらある。
でもアルバムラストに相応しい曲は他にあった。その為の曲があった。でももう少し後ろで、前半のピークにあってもおかしくない。
否定ではありません!

「なんとなく、カタルシス」
シングル・さよサブのカップリング。ベボベっぽいのは、四つ打ちやカッティングという10年代邦ロックっぽさじゃなく、スネアのリバーブの強さやニューウェーブ的リードギターによって、っぽく聴こえる。なんとなく。←いやニューウェーブだからだろう。

「処女の奇妙な冒険」
テンション高いしこれも邦ロックっぽいけど、でもメロディとかからしてよこたん作曲かな?と思ったらそうだった。

「血文字系」
浜崎さん作曲だしハイエナジーっぽさがある。スピンミーアラウンド味。

「トーキョー・天使の詩」
ロカビリー調だったんだ。良いな。

いよいよ全体的にバンドっぽい曲作りしてそうなアルバムに。セッションやリフやアイディアから組み立てていってそう。

〜〜

ベスト盤『恋と革命のアーバンギャルド 』

確かに音がシンプル!「初恋地獄篇」。

初期はやっぱりDJ的な、トラックメーカーが作ったオケの上にメロディを乗せてるように聴こえる。
そんな始まりのバンドが、ドラムを入れたりロックバンドらしい作り方の時期もあったり、ジャンルを越境したり、それらを経て今もまた色々変化中で、更なる泥臭さを纏い、改めてライブバンドとして確率しているのも凄い。
3人のみのテクノポップ・セットでやる事もあるけど、DJセットから始まった様なバンドが、ある時期から肉体性を必須とする様なライブバンドとしてシーンに在り続けているという、現在。

〜〜

6thAL『鬱くしい国』

前作ベストにあった佐久間氏プロデュースの新録曲の様な、装飾の少ないシンプルな音像が引き続いている所もある。これまでのソングライター脱退の影響もあると思うけど、かといって、それまでの賑やかさやジャズ調の部分も新たに作り出そうという気概も感じるし、ビッキビキな曲やノスタルジックな曲も失われていない。編曲に杉山さんとけい様が入ってるし。ただ、確かに「違う人が作ったアーバンギャルド」っぽさは感じる。
人気曲多いから、今聴くとむしろアーバンっぽいんですけどね(笑)

「アガペーソング」
編曲にけい様が入ってるからだけど、けい様加入後みたいな曲。これは昭和九十年の前触れも感じる。

「ガールズコレクション」
こういう都会っぽい曲好き〜(笑)
「いつも トレンドはうつろう子猫の目みたい/髪を切りすぎた夜みたい」という歌詞は、自分じゃないみたい、本当は嫌、という共感。
「あまねく恋なんて/きらめくアクセサリー/イミテーションであればあるほど綺麗」、『愛はおしゃれじゃない』に通ずる。光り輝く虚無。逆説的に、泥臭いほど本当の恋なのかも。という事は、ゴシップで聞く不倫も本当の気持ちなのだろうか。いや、それは泥臭いとは違うかな。

定番曲や好きな曲はあれど、ニューウェーブ的な楽曲は無いな、と思っていたら「R.I.P.スティック」がプログレ・ロックで良かった。オールドスクールなロックも珍しいなと思って聴いていたら、やっぱり混沌とした世界に展開していく。それがアーバンらしさもある。

「僕が世」
エヴァじゃん!

〜〜

8thAL『少女フィクション』

少女にしやがれで終わってもいい所だけど、それは物語本編の結末、主人公の成長を描いたピークであって。その後はエンドロールのように、大破壊〜がある。歩き続ける姿、走って見えなくなる様が見えてくるような、そんな曲で終わるのはとても良い構成だと感じた。ベボベ『二十九歳』と似た感覚だった。

〜〜


◯まとめは無い。本はまだ現時点で松永さんの部分しか読んでいない。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?