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カリフォルニアでは家庭料理の販売が合法です(ミールシェアの話)

ミールシェアという言葉、ご存知ですか?

色々なシェアリングサービスがある中で、ミールシェアとは「家庭料理のシェア」のことです。日本語でいうと「おすそ分け」という言葉が、馴染み深くて理解しやすいかな、と思います。

飲食店で働いている方はもちろん、そうでない方も「ん...?でも家で作ったご飯って販売しちゃダメだよね?」とすぐに気がつく方、多いと思います。

そうです。
食品衛生はとてもとても大事なことで、食品衛生を担保するために各国、各自治体で様々なルールが決められています。そのため、シェアリングサービスがトレンドになっているからと言って、ミールシェア事業は安易に始められるものではなく、世界中のチャレンジャーが始めては止め、始めては止めを繰り返している領域です。
(失敗の原因は、リーガル的な理由が大きくあるものの、それだけではありません。マネタイズが難しい、そしてユーザーが求める価値を届けるためには受け渡し=デリバリーの壁が大きい、という理由があります。ミールシェア事業を断念した事業者のこんな記事もあります↓)

そんな中、タイトルの話。

カリフォルニアでは2019年、家庭料理の販売が合法になりました。(ただし、実際の販売は、現在はまだ一部の自治体でしか可能ではない)

カリフォルニアではなぜ合法になったのか、どんな条件で販売ができるのか、そしてどんなミールシェア事業者がいて、どうやって食品衛生を担保しつつミールシェアをしているのか、をまとめました。


声をあげたのは1つのスタートアップ


法が変わる時には、いつも後ろに「誰か」、強い想いを持って行政、そして社会に訴えかけた「誰か」がいます。

カリフォルニアで家庭料理の販売が合法になった後ろには、「Josephine」という、カリフォルニア州オークランドで家庭料理のシェアを始めたスタートアップがいました。彼らの思いは「家庭料理を販売するというスモールビジネスをしやすくしたい」というところにありました。カリフォルニアには移民が多いので、移民が始めやすいスモールビジネス、という考えもあったと思います。

2014年にスタートしたJosephine、2017年には5万ユーザーのいるサービスになっていました。

リーガルの問題をクリアするために各州、各市で試験的なサービス提供を行っていきましたが、どこの自治体でも規制をクリアすることが出来ず、2018年にサービスをクローズしました。

でも、ここで諦めないのがJosephineチームの凄いところなんです...!何とCOOK Allianceという団体を作り、家庭料理の販売を合法化すべく動き出しました。
(JosephineのCEOが「Josephineをクローズした=家庭料理の販売ができる世界を諦めたわけではないぞ」という熱い想いを書いた記事↓)

「食」にもっと多様な機会を、「食」でもっと地域との繋がりを生み出したい、という強い想いが溢れるこの記事、感動します。


合法化までの道のり


COOK Allianceのページはこちら。このHPに今までの変遷やら彼らが達成したことが書かれているのですが、簡単にまとめると、以下です。

2018年 : COOK Alliance設立
家庭料理の販売に賛同する80,000もの署名、そして100を超える組織を賛同企業として、カリフォルニア議会に訴えかけました。

2018年~2019年 : AB626、AB377が成立
家庭料理の販売を合法とする、AB626およびAB377の法案が議会を通過し、成立しました。

現在 : 各自治体のOpt in(受諾)待ち
2020年2月時点ではリバーサイド郡とソラノ郡の2郡で、家庭料理の販売が可能です。

恐ろしい有言実行具合。ただただ拍手👏を送りたい気分です。

ただしCOOK Allianceもこの州法も、食品衛生を軽く見たものではなく、しっかりと食品衛生を考えた上で、一定の条件のもとで家庭料理の販売が合法になるとしています。


家庭料理を販売するための条件


カリフォルニアで家庭料理を販売するには、以下が条件になります↓

1. Food Manager Certificationの取得

これは、日本だと「食品衛生責任者」の資格ですね。食品衛生の基本的な知識を身に着ける目的で講習&テストが行われるので、全ての家庭料理販売者にはこのFood Manager Certificationを取ることが必須となっています。

2. 各自治体への登録&許可の取得

各自治体が求める情報を提出し、その上でキッチンのチェックが入ります。

・手洗い場はきちんとお湯が出るか、石鹸があるか
・冷蔵庫やオーブンは基準の温度を保てるのか
・調理中にはペットや他人が入れないようになっているか
など...

3.規模の上限

・売上は年間5万ドルまで
・1日30食まで
・1週間60食まで
・提供者は1名
・許可は1居住区間ごと

大量調理は食中毒発生のリスクが多くなります。大量調理にならないよう、そしてレストランとの線引きをはっきりさせることも兼ねて、規模の上限が決められています。

4. 以下の食品の販売はダメ(各自治体によって多少異なる)

・生牡蠣ダメ
・薫製・熟成料理ダメ
・真空パックの食べ物ダメ
・漬物や保存食ダメ
・アイスクリームや生乳の料理ダメ
・CBDやTHC(どちらも大麻の成分)ダメ
など...

「時間が経過した食べ物やリスクの大きい食べ物は、家庭では販売してはいけませんよ」という、極めて納得感のあるルールです。

5. 準備・調理・受け渡しは同じ日

細菌は通常、時間がたてば経つほど増えます。そのリスクを最低限に抑えるためにも、調理〜食べるまではその日中に行ってください、と言う、こちらも極めて納得感のある内容。

ちなみに、以前「基本的な食中毒の知識」を以下のnoteにまとめているので、もし興味のある方は目を通してみてください!↓

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などなど、もう少し色々とあるのですが、大雑把にまとめると上記になります。

ちなみに、ミールシェアサービスの事業者は以下がマストになっています。

・料理提供者そしてユーザーの両方に、サービス料金を分かりやすく表示すること
・サービス料金が2%以上変動する場合には、最低1ヶ月前には通知すること
・同じ料理提供者が1年のうち3回、食品衛生に関しての苦情をユーザーから受けた場合、自治体に報告すること
・年間の取引数、ユーザー数、食中毒の発生数を自治体に報告すること

上の2つは、「スモールビジネスの活性化のための法なんですよ」と言うことが明確にわかる条件ですよね。面白いです。


ミールシェアサービス:DishDivvy


家庭料理の販売がカリフォルニアで合法になったのは2019年。まだ去年の話ですが、もちろんスタートアップが既に複数出てきています。

一番最初に乗り出したのがこのDishDivvyなのではないでしょうか?

現在10,000食以上をマッチングしているらしいこのDishDivvy、事業としてうまく行っているかどうかは分かりませんし、結構難しいところも多いんじゃないかなぁと思いますが、食品衛生に対してはとても真面目に取り組んでいます。

以下、DishDivvyの食品衛生についての取り組み↓

・料理人の対面式の面接
・料理人の自宅訪問、キッチンチェック
・DishDivvyの担当者の前で、最初から最後まで調理をしてもらい食品安全ガイドラインに沿っているかの確認
・味の確認
・ユーザーの料理人へのレビューの透明化
・保険加入

そのほか、AB626(家庭料理の販売を合法にする法)を分かりやすく解説したインフォグラフィックを作ったり、料理人への定期的・継続的なサポートを行っており、ミールシェア事業者としては一歩先を歩いている感じがします。


ミールシェアサービス:shef


シリコンバレーで有名なアクセラレーター、Y Combinator出身のミールシェアサービスです。

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既に50,000食以上マッチングしているよう。(LPがイマイチだったので、本当かな...と思っていますが、不動産会社と提携をしているようなので、あり得るかな)

shefはDishDivvyのような食品衛生への取り組みにプラスして、以下の取り組みも行っているようです↓

・食品衛生のプロを含む10名以上の承認が必要な、料理人審査プロセス
・shefオリジナルの、追加食品衛生トレーニング
・調理時のマスク、手袋、ヘアネットの着用
・調理前の体温測定(一定の体温以上の場合は、調理不可)
・抜き打ち食品衛生チェック

これをみてみると、食品衛生についてはかなり真剣に取り組んでいることが分かります。


COVID-19 とミールシェア


ミールシェアへのチャレンジャーが徐々に増えていく中、新型コロナウイルスで世界が一変しました。

ミールシェアだけではなく、CtoCのシェアリングサービスは不特定多数との接触を助長させる一面もあり、極めて難しい状況に置かれている事業者もいると思います。

一方で、こんな時だからこそ「人との繋がり」が今まで以上に求められているし、「個」のエンパワメントが益々進むので、シェアリングサービスの意味がより増えるとも思っています。

ミールシェア事業が今後どうなるかは別として、ミールシェア事業者が行っている「衛生への取り組み」は、COVID-19への感染拡大防止を今後長期に渡って考えないといけない他事業者にも参考になるところがあるのではないでしょうか。

「家庭は細菌だらけだ」とよく言われます。複数の家族が出入りするし、そこで生活しているので、実際に「家庭は細菌だらけ」だと思います。


ただ、
「細菌/ウイルスはどうやって付着するのか」
「細菌/ウイルスはどうやって繁殖するのか」
細菌/ウイルスはどうやったら減らせるのか」
を知り、適切な対応をしていくことで家庭料理の販売ができるようにしたのがJosephineそしてCOOK Allianceの人たちであり、COVID-19にもそのような対応が求められるのではないでしょうか?

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このnoteを書いた理由は、私が「マチルダ」という子育て家庭のためのミールシェア事業を試験的に行っていて、日本でのミールシェアの実現に挑戦をしているからです。

現在は緊急事態宣言によりサービスを一時停止している状態ですが、DishDivvyが医療従事者に無償で家庭料理を届けていたり、キッチンハックを届けていたりする姿に励まされています。

飲食店が沢山ある日本で「個人が作った料理を食べる」、そもそものニーズに疑問を持つ人も沢山いると思います。

でも、

近所に自分のために料理を作ってくれる、料理上手な人が複数人いて、いつでも頼める社会

って結構素敵じゃありませんか?

頂いたサポートは全て本となり、私の知識となります。