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爪先まで寒いよ

 心臓が痛いな、と、おもいます。
 今日は、泣きながらカレーを作って、お米を炊いたらべちゃべちゃになって、お酒を飲んで、また泣きました。

 いま居候している家の裏には公園があって、いつもたくさんの子供達が遊んでいます。
 不良みたいなのが来ることはなくて、小学生くらいの男の子ばかり、鬼ごっこしていたかと思えば、ヒップホップをかけて踊ったりしていて、大人なのか子供なのかよくわからないなと思って、時々すこし笑います。大人と子供が同居している年齢なのでしょう、ちゃんと自由にさせてもらっていて、彼らはゆっくり大人になっていけるのでしょう。
 でも、暑くなってきたから、誰かの半袖から、痣とかが見えたら、嫌だな。

 わたしの、この意味のない日々は。
 とても大切な人が亡くなって、ただ年齢としては十分に普通にあり得る話だから、若い友人の自殺とかではないから、もう二度と話すことが出来ないみたいな事実が、頭のてっぺんから爪先まで、すーんと抜けてゆくような感覚でした。
 爪先はいつも冷えていて、寒いです。
 こんなに暑いのに、寒いです。
 寒くて、寒くて、涙が出る。

 握りしめている大切なものが、指の隙間からこぼれ落ちてゆくことを悲しんでいたはずだったのに、
 手を開いてみたら、何にもありませんでした。
 握りしめていた空虚は、強く握って掌に刺さった爪の跡は、流れる血は、
 何もかもに意味なんてなくて、だから死ぬことができないんでしょう。

 わたしが、悪い。

 それに尽きる人生で、何もできないまま無駄に歳だけとってゆく。
 わたしがいないことが、わたしにとって一番いいんだとおもう。
 わたしにわたしを捨てさせてください、夜の空気が冷たくて、吸い込む、少しの湿気、星も出ない汚れた空、窓から少し身を乗り出してみる。
  こわい。

 わたしがこの10年ほど、彼女に送った手紙や葉書は全て綺麗にファイリングされていたそうです。
 骨壺は、美しい青地に桜の花びらが咲いていて、彼女の人生を表しているようで綺麗だった。
 触れたらひんやりと冷たくて、棺の中にいるときの肌みたいだと思った。
 いつもわたしは気づくのが遅い。
 大切にされていることに気づけない。

 また毎日が続く、ひたすらに続く、
 仕事をして家事をして大切にされてないって泣いて、
 バカなわたしはずっとバカなままだ。

 お願いですから、
 わたしにわたしを捨てさせてください。

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