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2021年上半期 衝撃を受けた邦楽トップ10

「2021年上半期に衝撃を受けた邦楽トップ10」を、
完全なる独断と偏見でピックアップします。
2021/1/1〜2021/6/30のあいだにリリースされた曲が対象です。

10位 Daichi Yamamoto「Pray feat. 吉田沙良(モノンクル)」

Daichi Yamamotoと吉田沙良(モノンクル)という組み合わせが意外でまずそこで驚き(桑原あいさんきっかけの繋がりだそう)、そして楽曲を聴いたらもうガツンと喰らいました。Daichi Yamamotoのパーソナルな出来事と亡くなった人への言葉をラップしていて(曲ですべては語っていないけど想像すればするほど壮絶な出来事)、タイトル通り「Pray」の気持ちを沙良さんが歌うという構成。Daichi Yamamotoの独白のようなラップに対して、沙良さんの絶望の淵から祈るような声がとても効いている。
Daichi Yamamotoといえば、2021年上半期の代表的作品のひとつであるドラマ「大豆田とわ子と三人の元夫」のエンディングテーマ「Presence」に参加したラッパーの一人でもありますが、「大豆田とわ子と三人の元夫」と「Presence」は、世間的には「サブカル」や「アンダーグラウンド」と言われるものをとても美しい形でオーバーグラウンドに持ってきた企画であると思っていて、この業界で仕事をさせてもらうからには才能の持ち主たちがちゃんと評価される場を作りたいと思い続けている自分にとって、憧れと嫉妬を抱く対象でした。佐野亜裕美さん、藤井健太郎さん、すごい。常にジャンルを跨いでヒップホップや音楽の可能性を広げてきたKID FRESINOのMステやNHKでの姿も、あとアルバム「Presence」が発売される日のニュースに寄せたコメントも、とてもかっこよかった。
話がズレていきましたが、吉田沙良さんと言えば、象眠舎(小西遼さんソロプロジェクト)の「FFF feat. SIRUP and 吉田沙良 from モノンクル」や、モー娘。「抱いてHOLD ON ME!」のカバーも衝撃でした。

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<引用元:https://natalie.mu/music/news/433609>

9位 Official髭男dism「Cry Baby」

ミュージックビデオではなく、あえてライブ映像を載せる。ライブ映像も胸ぐらを掴まれるので。ヒゲダンのイメージを覆す、思わず「攻めるなー!」という言葉が漏れた1曲。アニメ主題歌でありJ-POPの枠に入りながらも、うちの夫みたいにドリーム・シアター好きおじさんも掴んじゃうプログレ要素あり。イントロ、Aメロ、Bメロとそれぞれで転調し、サビでは「不安定な」という言葉に合わせて途中で転調し、1曲の中で10回程転調するというまじでカオスな構成。ラスサビはフレーズごとに転調するのに、最後は<誓ったリベンジ>でちゃんと元のキーに戻ってキメるのがまたかっこいい。転調のアイデアは、ピアノを不意に間違えたことがきっかけで、それをアニメ「東京リベンジャーズ」のタイムリープ感を表すために広げっていったそうですが……「たまたま偶然のミスから名曲が生まれたよ」って、そんなロックレジェンド的なエピソードある!? そもそもヒゲダンが世を駆け上がるきっかけとなった「ノーダウト」は、もともと別アーティストでドラマ「コンフィデンスマンJP」の主題歌を調整していたところギリギリでハマらず、急遽ヒゲダンに決まって2週間くらいで曲を作り上げたというエピソードがあります。「運も実力の内」とは言いますが、運や偶然を導きそこで結果を出せる実力を磨き続けられる人というのが才能の持ち主、売れる人の特徴であるなと思わされます。

2016年を境に日本の音楽シーンは多様化し文化として発展が進み、ヒット曲も変わり、日本人のリスナーの耳も成長してきているように思います。ここ数年は「トラックは雑多なジャンルや海外のトレンドも取り入れて実験的、でも歌は歌謡曲的」というものがヒットしていたように思うのですが、2021年上半期の特徴として「歌も実験的にいっちゃえ」という姿勢を各アーティストから感じていたりします。のちに挙げる星野源などのヒットアーティストしかり、Kroiのような若手アーティストしかり、よりミクスチャーでリズムや転調や歌も日本人に馴染みないものを自由に大胆に取り入れていこうとしていて、しかもそれがちゃんと人々にも受け入れられている印象。
「Cry Baby」だって、こんなんカラオケで歌えへんやん。しかもその「カラオケで歌えない」の中身が、たとえば「Pretender」みたいに「こんな高いキー歌えない」とかではなく、「こんなリズムや転調に素人が綺麗に歌乗せられるわけないやん」みたいなもの。J-POPの鉄板だった「売れたいんだったら歌えるものを作る」というのがいい意味で更新され始めて、音楽がさらに多様になってきているのかなと思っている2021年上半期です。もしかしたら、2020〜21年はコロナでカラオケに行く文化が止まってしまったから、というのも少しは関係あるのかもしれないですね(他の要因のほうが強いとは思うけど)。

8位 Kroi「Balmy Life」

さきほど書いたことの続きになりますが……4つ打ちブームが終わり、サブスクが浸透し、音楽ランキングのあり方もCDセールスを基準にしたオリコンチャート一辺倒から変化し、等々あらゆる要因が絡まり合って変化していったこの5年で、今が一番いろんな音楽的要素に挑戦して曲を作ることができて、それが世の中のど真ん中で受け入れられている時代で、Kroiはそんな時代を象徴するバンドであり、さらにこの文化の流れを継いでいい方向へと更新させてくれる存在になるんじゃないかと期待しています。2週連続ビルボードの「JAPAN Heatseekers Songs」ランキングで首位獲得していたのもアツイ。
Kroiの精神性については、詳しくは発売中の雑誌「Rolling Stone Japan」でたっぷりインタビューさせてもらって書いたのでそちらをご覧ください。撮影のときにも思いましたが、Kroiは5人が揃って並んだときの迫力がすごい。一人ひとりのキャラ(音楽的知識・技術も、ビジャアルも、人間性も)の濃さがかけ合わさったときのバンド感がすごくいい。
「Balmy Life」はラジオや有線でめちゃくちゃオンエアされていて、近所のスーパーに行くたびに流れていたのですが、ドラムのパターンも静と動を混ぜて音楽的に面白いのにサビはちゃんとノリやすくて、怜央さん(Vo)の歌&ラップはやはり「Kroiってボーカル二人いるの?」と思わせられるような使い分けをしながらサビはメロディアスゆえにしっかりとキャッチーで、そして千葉さん(Key,Synth)のトークボックスが鳴るところは毒っ気が耳に入ってくる、という塩梅で、スーパーのスピーカーから聴いたときでもちゃんと刺さってくる曲だなと思ったのが衝撃でした。あと、MVの「ミッドサマー」感も狂気。
この曲のサビ、私ははじめて聴いたときに今の日本の政権批判だと捉えたのですが、あなたはどう捉えましたか?(直接的に政権批判の意図はないようですが、今の社会の混沌さを表した歌詞であることは間違いなくて。具体的な捉え方は受け取った人次第、というのがKroiのスタンス)

7位 SIRUP「Thinkin about us」

SIRUPは今、アーティストとしてすごく見事な立ち位置にいると思っています。SIRUPの姿勢全体や、3月にリリースしたアルバム「cure」も含めて、このランキングに入れざるを得ない存在だと思いました。
詳しくは、まもなく公開されるであろうライブレポートに書いたのでそちらを読んでいただきたいのですが。音楽的には、R&Bとヒップホップが自分のルーツである事実をちゃんと背負って、それらのカルチャーに本気でリスペクトを示して勉強と配慮をなして、その上で先鋭的なアーティストであろうとして新たなサウンドのクリエイションに挑んでいる。で、その上で、影響力のあるアーティストとしての社会的責任も果たそうと行動していて、ファンと一緒に学ぶ機会を作り、有料会員向けのアプリは普通のアーティストならファンサービスに徹するところを「学び合う場」として活用している(本人もまだまだ未熟で勉強不足であることを自覚しているスタンスもまたリアルで美しいなと思う)。ただ社会や政治を批判するのではなく、コアとして発信しているのは「Love & Educate Yourself」で、自分を愛すること、学ぶことをメッセージとして発信している。たしかに、「自分を愛すること」と「大人になっても学び続けること」って、これまでの時代では疎かにされていたけれど、本当は人間にとってめちゃくちゃ大事なことであり、今の時代に見直されるべきポイントだと思わされます。私自身、SIRUPの音楽を聴いて、ライブを見て、取材を重ねさせてもらう中で、たくさんのことを考えるきっかけをもらいました。
アルバム「cure」にはサウンド、リズム、フロウ、リリックの綴り方、言葉の選び方など、あらゆる面において面白くて独創的な点だらけで、1曲だけを選ぶのは難しいのですが、裏リード曲と言ってもいいこの曲をピックアップしました。THE FIRST TAKEでも歌った曲です。「Thinkin about us」は、自分と向き合うことと相手を思うことは、世の中全体の「みんな」を考えることにつながっていく、ということを歌った曲。先日行われたツアーで本編最後にやったのですが、凄まじい音の渦が巻き起こっていて圧巻でした。

6位 粗品「乱数調整のリバースシンデレラ feat. 彩宮すう(CV: 竹達彩奈)」

霜降り明星の粗品がユニバーサルミュージック内に自身の音楽レーベルを立ち上げて、第一弾としてリリースした楽曲。プロデュース、作詞作曲、アレンジまですべて自分で手掛けていて、しかもドラム、ギター以外の音は粗品が自ら打ち込んでいる。M-1、R-1で二冠とっておいて、絶対音感もありこれだけ音楽を作れるなんて、人間として発達しすぎてません? で、さらに衝撃的なのが、ミュージックビデオです。右下に出てくる数字。歌詞に出てくる数字がすべて右下にカウントされていくわけですが……最後にその数字をひっくり返すと……ものすごいオチが。初めて気づいたとき「ブワーッ!ゾワゾワーッ!」でした。ここまで計算して曲作ってるのがめちゃくちゃすごないですか? 粗品さんはもともとボカロ曲を作られていた方ですが、本人はブルーハーツ好きも公言していて、ドラムとギターにはそういったテイストがあります。で、そのドラムを石若駿さん、ギターをReiさんにやってもらっているという、笑っちゃうくらいの贅沢使い。お笑い第七世代の代表的存在である粗品さんが、音楽でも同世代の才能の持ち主とプレイしてるのがまた素敵。ナタリーで公開されてたsyudouさんとの対談は、2021年上半期に読んだ対談記事の中でベスト3に入るくらい理想型の対談でした。あと、粗品さんの音楽と笑いの芸風の繋がりを語っていた、柴さんによるRolling Stoneでのインタビューも面白かった。

5位 BREIMEN「Play time isn't over」

BREIMENのアルバム「Play time isn't over」がめちゃくちゃよかったなー。「ミクスチャーファンクバンド」を自称してるBREIMENですが、ファンクにこだわりすぎることもなく、本当の意味でミクスチャーな音楽を作り上げていて衝撃がある。2000年代後半〜2010年代前半の4つ打ちブームのアンチテーゼとしてSuchmosなどいわゆる「シティポップ」とラベルを付けられたバンドたちが出て人気を獲得していき、その後に脈々と続いてるブラックミュージックのリズムをきちんと吸収しながら雑多な音楽の知識と技術を習得してオリジナリティある音楽を新しい時代に産み落としてるバンドの流れを、2021年に継いで更新してくれているのがKroiとBREIMENだと言える。
特筆すべきはBREIMENなりの人間賛歌の表現の仕方です。誰しもがどう生きたらいいのかを悩むこの混沌とした2021年に、BREIMENの生き方の指針の提示がすごくしっくりくる。BREIMENの高木祥太さんの家は「誰でも来ていいオープンな家」らしく(実家も常に人を招いて、いつも見知らぬ人が一人は住んでるような環境だったらしい)、それがきっと影響しているであろう、人間に対する真の意味でのオープンな受け入れ方・愛し方が、本当に今の時代を生きる人たちにとって必要な提示だと感じさせられる。少し前に世の中で聞きまくった「多様性を認めよう」という言葉がもはや具現性のない薄っぺらい言葉となってしまって、「どうすれば多様性を認め合えるのか?」という点でバチバチに争いが起きている中、「とことん語り合ってお互いが違うことを知って胸の内をさらけ出し合えば人間同士少しくらい愛おしさを感じられる。そんな日々がいい」という姿勢は今すごくしっくりくる(三宅正一さんによるMikikiでのインタビューの5ページ目にある、家に来ている相容れない二人の間にお母さんが入って朝まで語り合ったというエピソードが印象的)。この1年半特に人と深く語り合う機会って減ったよな。そして、自分のアンテナをちゃんと研ぎ澄まして、楽しいことや幸せなことも違和感も感じとること。自分の手で、周囲にいる人たちとの小さな遊びを終わらせないこと、音を止めないこと、ちゃんと作り出していくこと。いろんなことが止まったり奪われたりした2020〜21年だからこそ、その大切さを切実に、仲間を呼んで合唱したことが、本当に美しい表現だと思った。2021年に鳴るべくして鳴った、そしてこの国だからこそ鳴らすことができた、新たなゴスペルのようにも聴こえる。
BREIMENの高木祥太さんが参加したTempalayの「GHOST ALBUM」も名盤でした。

4位 大森元貴「French」

やっぱり自分は大森元貴の才能に心掴まれっぱなしで離してもらえないんだなと思わされた1曲。某匿名プロジェクトも、大森さんの名前を一切伏せた状態で聴かされて「これはもんのすごい才能だ」と思ってしまったので、本当に、私は大森さんの歌も声もサウンドメイクも歌詞に表れる哲学も、どうしたって心を掴まれてしまうのだと思い知った2021年上半期です。「French」の衝撃的パートはなんといってもサビ。<忘れては無い><忘れては居ない><擦れては無い><ズレては居ない><全ては無い>と、歌詞カードをちゃんと見ないとなんて言ってるか明確にわからず、同じフレーズがループされている感覚に陥る言葉の並べ方。しかもそれらのフレーズを歌うときの1.5オクターブくらい上がっていく大森さんの美しいハイトーン。やばいでしょ。サビ以外の裏声のビブラートも美しすぎる、やっぱり大森さんにしか歌えない歌ってあるよね。
あと、この曲、音の配置がすごい。ヘッドフォンで聴いてみてください。アデル「25」とか、テイラー・スウィフト「folklore」とか、アリアナ・グランデ「Thank U, Next」とか、あとミスチルの「SOUNDTRACKS」とかのマスタリングをやっているRandy Merrill氏がこの曲のマスタリングもやってるのですが、彼がすごいのかも。
あとプロモーション面でいうと、CDTVに出演する前後でSpotifyの視聴キャンペーンなどを張って、しっかりと狙い通りにバイラルチャート1位をとったこともお見事でした。

3位 星野源「創造」

初めて聴いたときの衝撃たるや。なんじゃこりゃ!って、思わず口にふくんでたご飯粒吹き出しちゃうような。星野さんの任天堂愛とリスペクト、「創造」を通してなんとか動かしてきた星野さん自身の人生、そしてそれまでの星野源の音楽を超えながら他の誰にも作れないものを創る、というのがこの曲のメインテーマだと思いますが。私はこの曲を、安倍元首相の「うちで踊ろう」事件(あえて「事件」と言う)に対するアンサーだとも捉えました。インタビューによるとコロナ前にCMサイズは制作していたけれど、その後2020年の終盤からさらに曲を詰めていったそうで、「うちで踊ろう」がいいことも起きたけど悲しいことも起きたと踏まえた上で、「これはもう無茶苦茶やるしかねえ!」「俺が一番頭おかしいことを知らしめてやる!」という気概と狂気に満ち溢れてたそう。ジャンルの定義とかロックやポップスとはどうあるべきかの議論とかどうでもよくて、とにかくかっこいい音楽を作ってやる!というモチベーションを最近多くのアーティストから感じますが、「創造」はまさにそういったすべてを跳ね除けてとにかくかっこいい曲を作った、その代表格だなとも思います。
目線を変えてネットカルチャーの方を見てみると、2021年上半期はたかやんの「手首からマンゴー」が爆発的にバズり、そしてコレコレに引っ張り出されて曲に任天堂のゲームの音が使われていることを著作権侵害だと指摘され、楽曲を差し替えるという出来事がありました。任天堂の音を抜いた新バージョンの「手首からマンゴー」を聴くと、ガラリと印象が変わるゆえに、もし最初からあのサンプリングが入ってなかったらもしかしたらここまでバズってなかったかもしれないなとも考えたりしていたのですが(つまりそれくらい、ちょっとした1、2音ってめちゃくちゃ大事)。そういった出来事に対して、星野源さんの「創造」は、「タイアップ」「広告起用」という枠を超えた任天堂とのガッツリ握手の仕方と、「サンプリング」を超えた任天堂との共作の仕方、ぶっちゃけ比じゃないくらいの圧倒的な音源の作り方において、プロフェッショナルとはなんたるものかを見せつけたなと思いました。

2位 millennium parade「FAMILIA」

綾野剛主演映画「ヤクザと家族 The Family」の主題歌として書き下ろされた、millennium paradeの「FAMILIA」。井口さんが歌をレコーディングしてるとき勢喜さん、新井さんが涙ぐんだといい、映画を試写で見たときにエンディングでこれが流れてきた際井口さん自身も泣けたという。本人たちも強く実感しているほど、冒頭の井口さんの歌が衝撃的に素晴らしい。映画を見る前に曲を聴いたときから凄まじいレクイエムだなと感じていましたが、映画のエンドロールで聴く「FAMILIA」は本当に映画を引き立たせる余韻を作り上げています。
ただ単に「製作委員会の権利」とかで決まったタイアップではなく、ちゃんと映画と音楽のクリエイターたち同士が意気投合した「共作」であることもこの曲の衝撃的ポイントのひとつ。ミュージックビデオも、映画のシーンの使い回しとかではなく、MVのために役者たちがまた集まって撮り下ろされたという事実が美しい。なかなかそんなことあり得ない。この曲と映画の「共作」の凄さ、同世代である映画チームとmillennium parade/PERIMETRONの共鳴、それぞれが映画/音楽の未来を背負っていくべきだと自覚していることについては、Rolling Stoneに掲載されている常田さんのインタビューを是非読んでください。この取材は2021年上半期で強く印象に残っている取材のひとつです。
あ、もし私が死んだら、お葬式ではmillennium paradeの「FAMILIA」とAAAMYYYの「AFTER LIFE」を流してください。おねがいします。

1位 宇多田ヒカル「One Last Kiss」

「PINK BLOOD」も素晴らしい曲でした。その評価もちょっぴり上乗せして、宇多田ヒカル「One Last Kiss」を1位に。
<初めてのルーブルは なんてことは無かったわ>という入りから衝撃的でしたよね。そんな言葉、音楽以外も含めてどんなところでも聞いたことないし、どんな表現者も発想したことのない一行では。「愛してる」と言わずにいかに愛してると伝えるかが歌詞の醍醐味だったりしますが、この一行だけで相手への愛の強さが伝わる。もちろん「ルーブル」というのは、主題歌となった映画「シン・エヴァンゲリオン劇場版」がパリから始まることや、そもそもNERV本部がルーブルのピラミッドや構図と同じというところにかかっているわけですが、ここからは私の勝手な考察で……この曲のすごいところって、Aメロは各フレーズの最後の言葉の伸ばすところの母音がすべて「あ」なのに対して、Bメロやサビは各フレーズの最後の言葉の伸ばすところの母音がすべて「お」なんですよね。最後のアウトロも<吹いていった(あ)><風の後を(お)><追いかけた(あ)><眩しい午後(お)>と「あ」と「お」のループの畳み掛け。映画のテーマに合わせて、「はじまり」と「おわり」を表現しながら、それらがループしていくことも表現している、と読み取れる気がしました。この曲の歌詞にも出てくる「喪失」が、宇多田ヒカルにとっては創作において大きなテーマであり、庵野秀明監督もエヴァシリーズは「一言でいえば、喪失を受け入れる。そのストーリーを何年もかけて描いただけ」と言っていて、それが二人の鬼才を繋ぐ共鳴ポイントだったということもこの曲を聴くとさらに深くわかります。
あと、A.G.COOKの音がやばい。映画館で「One Last Kiss」を聴いたとき、A.G.COOKの音を爆音で聴くだけでもチケット代の1900円の価値が十分あるわと思うほどでした。


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あくまで「衝撃を受けた曲」という基準で選ばせてもらいました。
いい曲とは衝撃的なものだけでなく、
ぬいぐるみを抱くようにホッと落ち着ける曲も、部屋の片隅に一輪の花を飾るように彩ってくれる曲も、夏のドライブに合う曲も、様々な種類の「いい曲」があるので、ここに挙げた曲以外にも私のお気に入りはたくさんあります。

あと、聴きたいと思ってるのに聴けてない曲もまだまだたくさんある……

さっとだけ書こうと思ったのに長くなってしまった。ここまでお付き合いいただいたあなたに、ありがとうございます。メディアに載せる記事だと絶対に書かないような、主観まみれの雑文で失礼しました。


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