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応援が試合を作る

私が横浜ベイスターズファンになったのは、大学生の頃付き合った彼氏の影響だ。彼は、いわゆるヤンキーで、ユニフォームの後ろに刺繍を入れてしまうような筋金入りのベイスターズファンだった。中高女子校育ちで、箱入り娘のお嬢様だった私は、自分とは全く違う人生を生きる彼に魅力を感じたのだと思う。夜中にボウリングやカラオケに連れ回してくれるのが新鮮だった。


彼が「野球観に行こう」と言ったとき、実は不安だった。なぜなら、小学生の頃、父と弟と一緒に言ったハマスタは、つまらなかったからだ。その頃、ちょうどベイスターズ全盛期で、石井琢朗や佐々木主浩など有名な選手がたくさんいた。弟が野球をやっていたから、ある程度の野球の知識はあった。けれど、外野の端っこの方の席で、あまり試合の様子が分からず、楽しめなかった記憶がある。結局、夜遅くなり眠くなってしまい、試合を最後まで見ずに帰ったのだった。


初めてのハマスタデートは、試合こそボロボロに終わったが、とても楽しめた。それは彼が楽しみ方を教えてくれたからだと思う。

まず、彼は私にユニフォームを着せてくれた。彼が愛用しているセブンスターの香りがした。背中にある刺繍は少し恥ずかしかったが、ちょっと誇らしい気持ちになったのを覚えている。試合が始まる前に、コンビニでおつまみとビールを買った。彼は、スーパードライがお気に入りだった。お酒が飲めない私は、ペットボトルのお茶を買った。

外野席では、応援しているチームが攻撃の間、立ち上がって応援歌を歌う人が多い。選手たち一人ひとりに応援歌があるのだ。応援団の人から応援歌が印刷されている紙をもらって、私も歌った。ぎこちなかった「かっとばせー」という声も、だんだんさまになってきた。声を出して応援するのが気持ちよかった。

私がベイスターズにハマった最大の要因は「応援団」の存在だ。応援団は外野席にいて、次に何の応援歌を歌うのか指示を出し、観客をリードする役目がある。

ある日の試合、途中で雨が降ってきた。雨天中止かと思ったが、何とか試合が成立する5回裏までやるみたいだった。雨足がだんだん強くなってきて、半分以上の人が席を立ち屋根のある方へと避難していた。カッパを着て席で応援をしていた私たちも、避難しようか迷っていたときだった。

応援団の人が「選手はまだがんばっています。みなさんも最後まで応援しましょう。」と観客に声をかけていたのだ。

カッパも着ずに、濡れるのもいとわず、必死に声を出す。その一生懸命な姿に心を打たれた。当時弱小球団だったベイスターズは、相変わらず負けていたが、応援団の熱はどこの球団にも負けないと思った。

彼と別れてからも、野球は私の生活の一部になった。弱小球団だったベイスターズは、親会社が変わり、Aクラス常連の球団になった。ファンが増え、ガラガラだった球場が、チケットが全然取れないほどになった。

勝つことは楽しい。けれど、私は負けていても、弱くても応援するあの日々が楽しかったと思う。

野球の楽しさは勝つことだけではない。
応援するから楽しいのだ。


私が1番好きな応援歌「ライジングテーマ」に次のような歌詞がある。

Let's Go BAY不器用で
かっこ悪くても 選手を信じ 声を枯らし
Let's Go BAY変えてゆく!
俺たちが変える!!
想いよ届け! 君のもとへ

10点以上の点差で負けていても、諦めずに応援し、逆転した試合の感動は今でも忘れられない。選手と一緒になって、手に汗握りしめて、声を枯らして応援したからこそ、味わえる喜びがあるのだ。

応援には、選手たちと一緒に試合を作る力があると思う。
声を出して応援できる日が早くくるように祈っている。

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