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第十三話 シノノメナギの恋煩い

繊細さんを案内する。今までいろんな人から本を探してほしいと言われてそつなくこなしていたけどその中でドキドキするのは何でだろう。

そんなこんなでたどり着いた。このコーナーは新聞雑誌コーナーの近くにある地元の文献が置いてあるスペースである。
そして植物、そう……わたしもあまり見ないけど小学生や中学生が学校の課題とか宿題なんかで探しに来る人いるけど……あと山が好きな人とか。わたしはあまり興味ないからなぁ。
よかった、この本の存在知ってて……。

「あ、これです。こちらのテーブルで確認されますか」
「ありがとうございます、すごい……あるんですね」
「そうなんですよ、地元の方が作ったらしいんですよ。とてもマニアックで……ほら、これなんか近くの寺の参道にある植物が……ほら!」
ほら、とか言いながらも全く中身は知らない。その場で取り繕ってるだけである。

「これはこれは! 子供たちも喜びます」
「子供、たち……?」
なに、子ども? しかも最近見ない目元の細さ……喜んでるけど、子ども? 繊細さん……結婚してるの?
き、既婚者……!?

「あ、僕……小学校の教師やってましてね」
「教師……子どもたちというのは」
「生徒たちです。この寺の近くの小学校の」
あああ、よかったー。……て、何が良かったなの。バカじゃない? 自分。

「でもあの参道は急すぎて子どもたち大丈夫かな……」
あー、確かに。わたしも数回行ったけども行きはなんとかいいけど帰りがキツくて……次の日筋肉痛になったっけ。

「下見、行きませんか」 
「はい……えっ?!」
静まりかえった図書館でつい大声を出してしまった。周りには人いなかったしよかった。

「なんてね。お姉さん、かわいいね」
「ええええっ」
「反応が」
ああああ、冗談をさらっと言う男はチャラい。気安く可愛いって言う男もチャラい。(経験談)……でも繊細さんが笑うの初めて見た。

「そういえば今度図書館見学に行きますので……東雲さん、あなたに頼んでいいですか」
「あ、はい……なんなりと」 
名前を見られちゃった。東雲って読めるなんてさすが先生。
「じゃあこれ、借りるから」
「かしこまりました……ではお持ちしますので受付へ」
「こんな重いものお姉さんに持たせられないよ。あ、東雲さん……下の名前は」
下の名前まで聞くなんて、チャラい! チャラすぎる!

「梛……東雲梛です」
「梛さん。いい名前だね。僕は仙台春生」
仙台っ……! 繊細さんならぬ、仙台さんのお名前いただきました……。



なんだろ、これこそ浮き足立つ……と言うのかな。その後の仕事中もふわふわって感じで。夏姐さんはジーって見てたけど、ね。

仙台さん……カッコいいっ。


「どしたん、ええことあったかー」
常田?! 

「梛さんが早番だから待ってたで。なぁ、デートせぇへん?」
なんで急にそんな話を?!
「えっ、今から?」
「うん、今でしょ」
「今……」
「車出して」
常田……。

「はよ。じゃないと他の人に見られる」
まだ夕方前。早番のわたしはさっきの仙台さんの件でふわふわしていたのに。
常田の剥き出しの犬歯、屈託のない笑顔に惑わされる。

「近くの公園だけよ、わかった?」
「よっしゃ」

負けた。

つづく
https://note.com/yukai3dayo/n/ndf7d73edb791

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