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第三十一話 シノノメナギの恋煩い


 いつものように門男さんと奥さんがわたしのところに。

 今日もこの二人は私に孫のための絵本を見繕って欲しいとやってきたのだ。

 いつも早朝の開館前から図書館の前の門の前で待つ長身の男、だからわたしは門男さんと名付けていたけど本名は門田和男さん。まさしく門男さん。

 そしてその奥さんであり小柄な女性の門田さくらさん。いつも門男さん一人で来ていたのにいつのまにかさくらさんも一緒に来るのが増えた。


 ほんとこの二人は仲がいい。お孫さんいるから……少なくても20年近くは一緒にいるってことよね。
 二人の身長差はかなりあるけどほんとお似合い。どうやって抱きしめるのだろうか、キスの時は? エッチの時は? て常々考えてしまう。

 兎にも角にもわたしの中では理想の夫婦。わたしも常田と二人のように20年もその先も過ごしていきたい。

 門男さんはわたしが選んだ本をじっくり見ている。するとさくらさんに呼ばれたのでそこに行く。すると彼女はこっそりとこう囁いたのだ。

「梛さん、ここでいうのもあれだけど……あなたは本当は男性でしょ?」

 !!! 


「私は別になんとも思わないけどそういう生き方っていうのもありかなって」

 何をきっかけにわかったのかしら。女性から見たらわかってしまうのかな。そこまで根掘り葉掘り聞いていいとものだろうか。


「あとね、うちの主人。梛さんのことが好きで通いに来てたのよー」

 !! また無駄にモテ期ー。

「なんかやたらと図書館に通うから女がいるのかと思ったら……あなた目当てだってこないだ言ってたのよ」

 門男さん、その辺は黙っておこうよ。さくらさんの方が優勢なんだな、この夫婦。

「でも私はあなたが男とわかってからほっとしてるわ。ちなみにこのことは主人は知らないからねっ、ふふっ」
 と、さくらさんは門男さんのもとへ。

 ……仲良さそうに絵本を見ている。女の嫉妬は怖い。そしてなんでわたしが男ってわかったか教えて!!!


 その日はわたしが早番だったから先に家に帰って洗濯物をしまって畳んで晩ご飯の支度。

 生姜焼きを作る。常田の大好きな料理。千切りキャベツも添えてあげるとすっごく喜ぶ。


「そろそろ時間かな」
 メールも来てたし、常田を迎えに行く。歩いて帰って来れる距離だけど遅番の時は夜暗いしわたしはやっぱり心配になるから駅まで迎えに行く。



 迎えに行って、作っておいた料理を常田に出す。

「たぶんさー夏姐さんからそろそろ年末の飲み会誘いありそうやな」
「たしかに」
「姐さん深酒して大変な目に」
「毎年恒例ですから……」
「そやな」
 常田と、毎年夏姐さんの泣上戸に付き合ってたけど今年は私たちカップルになったからどうなるやら。

「そいやさ、さくらさんにわたしが男ってバレた」
「まじで? 最近よくさくらさんと一緒にいるからなにかとわかったんやないかな」
「なのかなぁ……何でばれたんだろ。タートルネックはしてるから喉仏じゃないか」
「胸がやたらと薄いこと」
!!!

「冗談やて! でもブラジャー付けてないからもしかって思ったんやない?」
 私は断じてブラはつけたく無い。

「そうなのかな……でも門……いや門田さんは気づいてないって」
 でもここで門男さんがわたしに惚れてるなんて言ったら常田はヤキモチ妬くだろうな。

「さくらさんは女性だから細かなところ気づくんだろうなぁ」
「常田はいつわたしが男って思った?」
「まぁ僕は最初から聞いてたからね。んー、まぁ強いて言えば力作業したときにチラッと見えた筋肉が男だなぁとか思ったよね」
とわたしはふと二の腕をめくった。……ここか、ここなのか?
 でもさくらさんには腕を見せた覚えない。図書館では常に長袖長ズボンだし。

「まぁさくらさんは悪いこと言わなさそうだしさ。たぶん」
「うん、良くしてもらってる」
「大事にしないとね、そういう縁は」
 と常田は微笑んだ。

 こういう人たちのおかげでわたしは女でいられる。ありがとう!

続く

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