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第二十七話 シノノメナギの恋煩い
「常田くんもちゃんと治療してバリバリ働いてもらわないとーっ」
「わかってますってぇー、その間は輝子さん……頼みます」
「りょーかい、あと梛ちゃんに変な虫がつかないように見張っておくよっ」
輝子さんがハッハッと大きく笑いながら作業している。その口から出るものがなければ完璧なんだけどね。常田はいつもの調子でかわしてへらへら。よくできたもんだ。
わたしはそう思いながらカウンターで受付している。開館からわずかあっという間に人が増えてきて借りていく。今日も忙しくなるわね。
「あ、お願いします。それと……予約していた本ですが」
あっ、ジロウだ。外は寒いかしら。鼻の先が赤くなってる。わたしは彼の予約履歴を見て探し出して渡した。
「外は寒いですか?」
つい聞いてしまった。ジロウはびっくりしていた。いきなりだったからか驚いてあたふた。
「……は、はい。今日は寒くなるけど明日はまた暖かくなるようですよ」
あらま、そこまで教えてくれた。ご丁寧にどうも。
「ありがとうございます。では返却は二週間後……」
「あ、あのっ」
ジロウが小さい声で止めた。すると彼のポッケから何か紙みたいのが。さっと渡されて彼は本を持って階段をかけて行った。
わたしはポッケに入れて事務所に戻り誰もいないのを確認して紙を開いた。
『今度どこかでお茶しませんか 次郎』
意外と可愛い丸文字で書かれたこの文字。
少し紙が古いからきっとずっと持ち歩いてわたしに渡すタイミングを伺っていたのかしら。
そしてようやく今日……。やだ、また妄想しちゃった。
にしてもどこかでお茶って。なんか古めかしいけど彼なりの精一杯のアプローチなのね。なんか可愛い。
まさかジロウ……いや次郎さんから好意持たれるなんて。
「東雲さん、例の先生来てますよー」
「は、はいっ!」
パートの子から呼ばれた。例の先生って。もうあの人しかいない。
仙台さん。
慌てて受付に行くともちろんいた。
「梛さん、こんにちは」
あら、にっこり笑顔。
「こんにちは。今日はどうされたんですか?」
「ちょっとあちらでご相談が」
仙台さんの視線はわたしの後ろ。視線を追って振り返ると常田と他の司書たち。
!!! ちょ、なによぉー。わたしは仙台さんと受付から離れたところへ移動した。常田はジーッと見てるし。
仙台さんも苦笑いしてて。
「君の彼氏さんは本当に好きなんだねぇ。今日は卒業制作作りのためのご相談でね」
「すいません、公私混同するなって言ってるんですけど」
「愛されてるんですよ。羨ましいです」
羨ましい……か。仙台さんは卒業制作のモニュメントを子供達と作りたいとのことで何かいい資料はないかとのこと。
工作のコーナーかな……。美術のコーナーだとさらに本格的にできる。まぁ全部回ろう。
「ではご案内します、まずは……」
仙台さん? どうしたの、立ち止まって。わたしをじっと見てる。
「僕は諦めていませんから」
「えっ?」
「……案内してください、おねがいします」
「は、はい……」
えっ、何を諦めない?! なに、なに、なに?!
仙台さんを見送ったあと、返却ボックスを取りに行く作業。常田はどこか違うところ行っちゃったみたいだけどまぁいいか。
輝子さんはニヤニヤわたしを見てるけど。本当嫌。わたしは苦笑いしてワゴンをひいてエレベーターから降りると、でんさんがやってきた。
「シノノメナギちゃん、ちょっと来てくれよー」
「な、な、なんですかぁ」
久しぶりにがっついてくるなぁ。なんだろう。
「うちの息子パート2なんだが、そいつの写真も見てくれないか?」
「パート2?」
なんかすごく迫ってくるんだけど。それよりもパート1の郵便局員は見たかったのだろうか、相手。
「35歳、家電販売員。パソコンオタクでなー陰気なやつで……冴えない。彼女なし、童貞!」
ちょっと、人の多いところでそんなこと言わないでよ。わたしも童貞ですけど何かっ?
それにでんさん、パート1の容姿からしてあまり期待しない。
「ほれ、かっこいいだろ」
どーせ、期待して……なんて、ない……。
「な、かっこいいだろ〜。しまったなーまずこいつから見せるべきだったか。こいつは妻に似て美形なんだよ」
いや、なんということだろうか。
「い、いえ……わたしにはもったいない。仕事がありますので、また」
でんさんがわたしを追いかけてくる。
なによ、パート2がカッコ良すぎる、どタイプ、なによあの子犬みたいな……ああああっ、そっちを早く紹介してよぉおおお。
って、わたしには常田いるのにー。なにこの変に無駄なモテ期!!!!
仕事を終えるといつものように常田が先に車の中で待っていた。
「お疲れさん、梛」
「お疲れ様。……ねぇ、公私混同はダメって言ったよね?」
「……ん、なんのことや」
「覚えてないならいい」
とわたしは車を走らせた。って今日一日モテ期発動すぎで疲れた。
続く
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