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不明のわたし

あの駅を越えたら電車は加速する。運転士が手元のハンドルを加速へと押し出す手の感触をありありと感じながら横並びの席に座っている。

安全なはずの乗り物はときどき荒々しく加速する。高速道路に合流するとき踏み込むアクセルの音、飛行機が飛び立つ直前のエンジンの振動、その轟音と振動がわたしの心を不安に、高揚させる。

わたしの身体を凌駕するなにかに乗って目的地へ行くという不思議に想いをはせ、わたしは移動する。日常が猛スピードで過去になり、頭がすっきりとしてくる。電車が都心に近づくにつれ、電車は落ち着いてすこしずつ減速する。渋谷。都心へは慎重に入らねばならない。

なぜ生きているんだろうと思う朝がある。生まれて死ぬまで生きていくという、生まれ落ちた瞬間から点灯する大きな謎、わたしはいまもときどき妙な気持ちになる。かぎりある体がいまわたしの心とともにあること、それはゆるぎない事実で、けれどわたしはそれがいったいどういうことなのか、この体とともにベッドのなかにいるわたしは何なのか、よくわからなくなってしまう。

自分が決められないことで自分が決定的に運命づけられていることが不思議だ。いやそもそも、努力でなんとかできるもの、選択できるものの方が少ないという方が正しいのかもしれない。なかば逆説的ではあるが、だからこそ努力すること、選ぶことには意味がある。

夜にぬくぬくと体をあたためるための敷きパッドを買った。わたしはわたしのかんぬきを外すことができる。これはわたしの今日の選択。

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