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心は夜に浮かぶ星

どんなにやりとりを重ねても、他者との会話はあくまでも、わたしはわたしが話したいことを、相手は相手の話したいことを話している。そのことに気づいたとき、それがたとえ積極的な選択でなくても、わたしはわたしのしたいことをしているのだ、と思う。

それはどこまでいってもわたしはわたしという枠を超えることはできず、けれど相手を尊重しようとするときに起こっているのは、できるかぎり相手の輪郭に近づこうとする行為なのだと思う。相手のいることによってわたしは輪郭を持ち、相手と交わることができる。輪郭と輪郭のあいだに自由がある、と考える。

日々、葛藤することが多くある。正しさについて考えるとき、わたしはわたしの限界のあることを意識しながら正しさとそうでないもののあいだのことを考える。いつになっても答えは出ないけれど、いまのわたしにとっての正しさのようなものはぼんやりと浮かび上がってくる。そしてそれはまた次の機会に更新され、真新しい正しさとしてわたしの心のなかにほんのりと浮かび上がる。

わたしは歳をとるし、家族も変わる。住んでいる環境や仕事もつねに変化するのだから、そのなかで考える正しさもそれに応じて変化していく。それが成長なのか退化なのかは知るべくはないけれど、考え続けてしまうことはどうしてもやめられない。

そういえばこのあいだ、夜中に満天の星を見た。思わず双眼鏡を持って同じ空をのぞいてみたけれど、空は紺にぼやけていた。星はわたしの双眼鏡の倍率よりもずっと遠くにある。わたしとあなたもそんなふうに遠く、しかしときにはまなざすことのできる関係なのだと思う。

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