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「聴覚障害児の逸失利益85%」判決への憤り。でもこの結果は私たちが生んだものかもしれない。

スマートフォンを開くと、ニュースアプリの通知が目に入った。


障害当事者に関するニュースはよく目にする。

私がいつも障害福祉領域にいるからかな。
Twitterを開くと、タイムラインでこの件に触れている人が数人。
この件について「おかしい」と思う人が多かったのだろう。

タイムライン上には「妥当だ」という意見はあまり見当たらなかった。そうやってカスタマイズされているのかもしれないけれど。

私自身も、「おかしい」と思った。

この判決は「おかしい」と。

憤りがふつふつと。

それだけではない感情。

でも、「おかしい」と思うだけではどこか納まりのつかない感情もあった。
もやもやっとする感じ。

虚しさ、と言ったらいいのだろうか。

記事をしっかりと読んで、思った。

週30時間以上働く聴覚障害者の平均月収は全労働者平均の約7割。被告側は、こうしたデータを基礎に逸失利益を算出すべきだと主張していた。

https://mainichi.jp/articles/20230227/k00/00m/040/031000c

全労働者の平均年収は497万円らしい。
遺族は、この金額をベースに算出するべきだという主張をしていたとのこと。

そして判決では、音声認識アプリなどの普及によって聴覚障害の就労の影響が少なくなっていくことを見越して、全労働者平均年収の85%の422万円が相当だと結論付けた、とのこと。


裁判長は、2018年当時よりもこの子が大人になる頃には、15%は改善しているだろうという見込みで結論を出したということだ。

誰に対しての憤り?


最初に感じた憤りは、判決に対してだった。
それはおそらく、裁判長に対してだったと思う。

聴覚障害者の価値を軽んじているように感じたからだ。
タイトルから、そう受け取った。

でも、判決に至った理由を読むと、裁判長に対して憤りを向けるのは、違うんじゃないかって思った。

少なくとも裁判長は、現状の7割ではなく、社会の変化を見込して85%としたのだ。
その判決は、価値を軽んじているのではなく、社会の責務であることと現実に向き合うべきであることを投げかけていたように感じた。

現実問題として2018年時点で聴覚障害者の平均月収が約7割であるという事態がこうさせたのだ。

法定雇用率がどんどんとあがっても、満たせてない企業が増えるばかり。

「任せられる仕事がない」
「”適した人”がみつからない」

こういった声をよく耳にする。

障害のある人を雇おうという意識を持つ人や企業はだいぶ増えたと思う。
それでも、活躍できる場づくりはまだまだ発展途上である。

企業だけの問題ではないと思う。

障害当事者の能力を最大限に引き出す教育ができているのか。
就労に影響を及ぼす障害をハードやソフト面で開発するための技術は備わっているのか。
障害のある人と一緒に働く人の経験値が足りているのか。

いろんな要素にまだまだ足りないところがある。

だからこそ、平均月収が7割にとどまっているのだろう。
知的障害や精神障害となると、さらに下がってしまうのかもしれない。

この社会を作っているのは誰?

間違いなく、憤りを抱いた私もこの社会の一人なのだ。
憤りを感じた私は、いったい何をこの社会にしてきたのか。

自分の役目・役割ではないと言って何も動かずにいたら、加担しているのときっと同じ。

憤りは裁判長に向いていたのではなくて、自分に向いていたのだ。

だから私はぼんやりと、虚しさを覚えたのだ。

曲がりなりにも障害福祉の領域にいて、パラスポーツに携わっていながら、私が影響を及ぼせている範囲はものすごく狭い。

「パラスポーツは面白い」

そう言ってくれる人が増えた。

でも、その先は?
それだけでいいの?

東京パラの盛り上がりがずっと続くのかもわからない。
スポーツをしない当事者の環境が変わったのかもわからない。

「パラスポーツは面白い」

そう思ってもらったら先に、どんな未来を描くのか。

誰もがスポーツを楽しめる社会を作るだけじゃなくって、その先の、誰もが活躍できる社会を作らないといけないんだ。

今回の件を「おかしい」と思った人がたくさんいたと思う。

裁判長にその矢を向けても、社会はきっと変わらない。
この判決が、100%に変わったとしても、社会は変わらない。

変えるべきところは、きっとそこじゃない。

「おかしい」と思った感情の向けるべき先を、私たちは間違えちゃいけない。

私たち一人一人の意識が変わらないと、判決が変わっても社会が変わらない。


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