見出し画像

第百十八話:無意味な話し合い

 席に着いてからも、少しの間私が誰かを連れてきていないか辺りの様子をうかがっている夫にどんどん嫌悪感を覚えた。誰もいないと安心したのか、猫撫で声で近況を聞かれる。感情が態度に出やすい私は、平常心を装いながら答えるように精一杯の努力をした。

 夫の話を聞いてみると、労働局からは相手にされず、警察からも責められ、当初の目論みであったお金を分捕る作戦も失敗し、私とよりを戻すこともできず、むしろ問題に巻き込まれ困っているようだった。
 私の背後に誰がいるのか探りを入れつつ、自分がこの問題を解決し自分の株を上げたいという意思が見え隠れする夫と「自分が問題を作り上げておいて今更まじでなんなの?」と憤慨している私。そして、この温度さが感じられないのか、この期に及んでちょいちょい隣接するホテルに誘う夫。もちろん話し合いは上手く進むはずもなかった。
 結局、何も解決せず新しい情報を得ることもなく、余計嫌悪感だけが増して別れたのだった。
(このとき2020年、そして今これを書いている現在まで一度も連絡も顔も合わせていない)

 そして私は他の州の労働局のトップとカフェで会うことになり、状況を説明した。丁度明日、労働局の各州のトップが集まるミーティングがあるらしく、そのあとに飲みながら世間話をしつつこの話をして、解決方法を探ってくれるとのこと。わざわざスピーカーフォンにして電話をしてくれ、目の前で飲む約束を取り付けてくれた。
 私自身やスタッフが直接交渉をしようとしたときは、顔も見たくないと追っ払われた相手。汚職防止機関にまで話がいってしまい、余計に話がややこしくなり嫌われているのは確実な状況で、話し合いの解決に応じてくれるのか、応じてくれたとしても凄い高額を包まないといけないのではと不安が募った。とはいえ、少しでも望みがあるなら試してみて、一刻も早く問題を解決したい状況に置かれているのは事実。
 翌日に会って、結果を報告してもらう約束をして、その日は帰路に着いたのだった。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?