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「愛の不時着」プロット分析①:船渡しまでの3日で恋は始まった

*この記事はNetflixオリジナルシリーズ「愛の不時着」の脚本の素晴らしさをプロット分析した記事です。

はじめに

2020年、Netflixで配信され世界的大ブームとなった「愛の不時着」。

実はこれまで韓国ドラマにも韓流にもまるで興味がなかった私なのですが、コロナ禍の自粛で時間に余裕ができた際「話題みたいだし、一応見とく?」みたいなテンションで湯船に浸かりながら見始めたが最後......追い焚きするのも忘れて見入ってしまって気付いたらお湯が水になってました笑

最終話まで見終えたあとも好きなシーン(船底キスとかアロマキャンドルとか病院キスとかetc)をピックアップして何度も見返し、Soohyangのセリ&リジョンヒョクのキャンドルも当然購入して余韻に浸っていたんですが......2021年元旦。ヒョンビンとソン・イェジンの熱愛発覚ですって!!!!!!??????

これはもう1話から見返すしかない。そんなわけで元旦からまた再び不時着沼にハマっており、そうだ、せっかくならば脚本の素晴らしさを分析してnoteに残してみようと思い立ちました。

最初にお断りしておきますが、個人の主観が大いに入っております。一個人の感想として、楽しみながら読んでいただけたら嬉しいです。
注)以下ネタバレあります。1〜2話以外のエピソードも含まれますのでご注意ください。

I-「セリズチョイス」がすべての鍵

「愛の不時着」はストーリー全編を通じて私たちに数多くのメッセージを伝えてくれていますが、中でも大きなテーマとなっているのがこちらの言葉だと思います。

"Sometimes the wrong train takes you to the right station"
ーー間違えて乗った列車が、正しい目的地に連れて行ってくれることもある。

インドの諺だそうです。メッセージがダイレクトに登場するのはもう少し物語が進んでからですが、冒頭の1話・2話ではこの大きなテーマを伝えるための伏線として「セリズチョイス」のエピソードが印象的に描かれていますね。

まず、ユン・セリが経営するファッション&美容(今後はスポーツ部門も始める予定だった)ブランドの名前も「セリズチョイス」

セリは韓国の財閥令嬢でありながらも自らの力で「セリズチョイス」を成功させたデキる女。運が必要な場面でもセンスが必要な場面でも、セリはいつだって正しい選択をして自らの人生を切り拓いてきました。

ところが.....!

パラグライダーが竜巻に巻き込まれるという事故であろうことか38度線を超え(笑)、非武装地帯に不時着してしまった。父親から財閥後継者に指名され、ようやくすべてを手にしようというタイミングで、社長自らパラグライダー飛行テストを買って出たせいで。(ちなみにこれも、セリの選択。セリズ・チョイス)

これまでずっと、セリズ・チョイスは正しかったはずなのに。

しかしながらやっぱりセリは強運です。不時着しても、リ・ジョンヒョク中隊長に救出されるんだから!!!!!(だってこれ、他の人なら即射殺されてたわけでしょ?)

さらにはジョンヒョクが地雷を踏むという予想外のアクシデントがおき、セリは一人で逃走を試みるのですが.......覚えていますでしょうか?セリが韓国へ戻る道を尋ねた際、ジョンヒョクは「突き当たりを右に行け」と言いましたね。

しかしながらセリはジョンヒョクを信用せず、自らの意志(セリズ・チョイス)で左に行った

もしこの時、指示通り右に向かっていたら......ジョンヒョクの家の前に偶然たどり着くこともなく、もう二度と彼と再会せずに終わっていたはず。

つまり、間違えたように思えた「セリズチョイス」でさえも、結果的にはすべて正しかったということ。

まさに、"Sometimes the wrong train takes you to the right station"です。この描き方が本当に秀逸で、ため息が出ちゃいます。

I-リジョンヒョクはいつからセリが好きだった?

リジョンヒョクって、いつからセリのことが好きだったんでしょうね。そのヒントが1話のエピローグにありました。

パラグライダーで不時着し木の枝に引っかかった状態のセリをジョンヒョクが見つけたとき。実はセリが自分に気づくまで、リジョンヒョクは彼女を静かに観察し、そっと笑顔まで漏らしていた.....というシーンが描かれていましたよね。

セリは持っていた無線に向かって一生懸命に助けを求めていたわけなんですが、こういうセリを見るのって、機械に向かって必死に何かを訴えるセリの姿をジョンヒョクが見るのって、彼にとって2回目です

そう。1度めはスイスに留学していたとき。婚約者のソ・ダンとともにスイス観光をしている中でジーグリスヴィルの橋を訪れたジョンヒョクは、そこでセリを見かけていました。セリがボイスレコーダーに向かって一生懸命に何かを話している(実は自殺するつもりで遺言を吹き込んでいた)、その姿をジョンヒョクは見ています。(4話エピローグで明らかになってる)

つまりジョンヒョクは、ジーグリスヴィルでの出会いとかなり似たシチュエーションでセリ見つけたというわけ。

この時はまだ同一人物だという認識はないですが、「好みのタイプ」ではあったってことですよね。てことは、気のないそぶりをみせてはいても最初からセリに惹かれてたんじゃない?と思わせてくれるロマンチックな演出です。

だからって韓国からやってきた得体の知れない女を無条件に助けようとはならないだろうし、リジョンヒョクは一目惚れで恋に落ちるほど心も置かれている環境も単純な男じゃない。

救出の時点では、まだ恋は始まっていませんね。

しかしながら.....パラグライダーで不時着したところをリジョンヒョクが見つけたというのはまあ、1万歩譲って「あるかもしれない」とも思えますが(いや、ないか笑)、さらに以前にもスイスで出会ってたなんて非現実にも程がある笑

正直、このありえない設定に入り込めなかったという方もいるんじゃないかな。

ただ「過去にも縁があった」というのは韓国ドラマあるあるで、どっぷりハマってしまえば「ありえない」▶︎「運命だわ!」とお花畑思考になれるから不思議ですw。

I-「船渡し」までの3日間で恋が始まった

二人の恋が始まったのは「船渡し」までの3日間だと私は思っています。

セリをどうにか早く韓国に帰そうと方法を探す中、韓国ドラマ大好きジュモクが「叔父が船渡しをしてる」と希望の光を口にする。次の船渡しは3日後。

この3日間の猶予が、セリとジョンヒョクの関係性を深めるのにかなり重要な役割を果たしていたなぁと感じました。

細かく見ていきたいと思います。

【1日目】
セリが「肉が食べたい」と言ったらジョンヒョクが焼いてくれる。

執務室につながる内線を教えてくれて、セリがしょーもないことで電話しても呆れながらも対応してくれる。(なんだかんだ言っても優しい男、最高です)

停電に怯えているところにジョンヒョクが戻ってきて、ついに弱音を吐いてしまったセリを励ましてくれる。

セリがあれこれワガママを言うたびに「仕方ないな」という表情で応えてくれるリジョンヒョク......彼は優しい男なので、女性の頼みを断れないんでしょうね。

けれど、リアルでも男性って(好みの)女性に頼られるのが好きですよね。世話を焼けば焼くほど放って置けなくなる生き物なんじゃないですか。

リジョンヒョクもセリの要望を「仕方ないなぁ」と呆れ顔を見せながらも叶えてあげて「ありがとう」と笑顔で言われるたび、徐々に彼女が気になっていったのでは。そんな風に思います。

そしてさらに、これまでずっと気丈に振る舞っていたセリが涙を見せた

これも大きな出来事だと思います。実際、このシーンを境にしてジョンヒョクのセリに対する態度が「男」になったような。

セリの方も、欲しがってたシャンプーや(普通の)キャンドルだけでなく化粧品や下着まで!市場で手に入れてきてくれていたジョンヒョクの優しさに心打たれていました。

【2日目】
F4がジョンヒョクの指示で自宅にやってきてセリを守ってくれる。

ジョンヒョクの本棚で、ピアノの楽譜、スイスの音楽学校への願書、演奏会のチラシを見つける。願書についていた写真を見て「どこかで会った気がする」と呟く。(大事な伏線)

チョチョルガンが宿泊検閲をすると言い出し慌てたF4がジョンヒョクに連絡。

ちなみにこの宿泊検閲、最初に見たときこんなの本当にあるの?!と驚いて色々調べていたら脱北者だという若い女性がやっているYouTubeにたどり着きまして(真偽は不明)、その子の話によると実際に行われているそうですよ......。

そして、2話の盛り上がりといえばセリを救出するために平壌から729ナンバーで駆けつけるリジョンヒョク、ですよね!!!!

I-「僕の婚約者に何の真似ですか?」

平壌から駆けつけ、セリのピンチを目の当たりにして咄嗟に吐いたこのセリフは......!!!!

これは、この言い方は、本人としては「偽装戦術」だったとしても(笑)好きじゃなきゃ言わないセリフだと私は思う。そう思いませんか?

リジョンヒョクは自覚してないけど、この時点でもう絶対好き。恋始まってますよね。

そしてこの、絶体絶命のピンチに助けに来てくれる王道展開。ラブコメ好きにはたまらないポイントですよね。安定感があるというか「そうこなくっちゃ」という気持ちよさがあって無条件にときめかせてくれます。

私、この「僕の婚約者に何の真似ですか?」で完全にリジョンヒョクに心掴まれて、追い焚きも忘れお風呂のお湯が水になるまで見続けてしまいましたからね笑

愛の不時着の脚本家 パク・ジウン作家は、過去作「青い海の伝説」「星から来たあなた」でも同様の王道展開をこれでもかと盛り込んでいますので得意技なんでしょうね。いや、もう、展開といいセリフといいさすがすぎます。

I-「デキる男」と「デキる女」の恋愛

ところで、愛の不時着で描かれたヒーロー / ヒロイン像は「男が女を守る」「男が女をリードする」「女は男に甘える」という既存の価値観と一線を画しており、ジェンダー論を絡めて考察する記事をたくさん拝見しました。

確かにそれぞれに自立した「デキる男」と「デキる女」の大人の恋愛であったこともこれだけ多くの共感を得た理由の一つだと感じます。

北朝鮮にいる間はどうしてもセリが弱い立場でジョンヒョクがセリを助けるシーンが多いとはいえ、二人きりのシーンでは完全にセリのほうが強く主導権を握っていましたもんね(笑)

ところで......愛の不時着はすごく面白いけど、1話がちょっとつまらない。そういう感想をお持ちの方も多いのではないでしょうか?

冒頭からグイッと視聴者を引き込むならば、セリのパパラッチシーンやら仕事描写やら家族との確執やらはすっ飛ばして、パラグライダー事故のシーンから物語をスタートさせてもよかったのかな〜なんて僭越ながら思ったりしました。

けれどあえて1話をセリの韓国での仕事ぶり&セレブライフから始めたのは、彼女が財閥令嬢でありながらも実家に甘えず自立しており、さらには仕事もできて恋愛経験も豊富.......というヒロイン像をまず見せたかったのではないでしょうか。

その前提があるからこそ、不時着した後のセリの気丈さや生命力の強さ、ジョンヒョクに対する機知に富む切り返し等々に深みが出る&納得感があるし、キャラクターへの愛着も湧いてくる。

多少説明的になってしまったとしてもやはり必要なシーンだなぁと、見返してみて改めて思いました。

NEXT:『愛の不時着』プロット分析②:リジョンヒョクの心を掴んだセリのモテ技(3〜4話)

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