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『AI時代で人が活躍するために』

・「AI美空ひばり」は紅白出場歌手なのか

 AIという言葉、2019年の年末に耳にした人も多いのではないだろうか。
2019年の12月31日に放送された『第70回NHK紅白歌合戦』のステージでAIの技術を用い再現されたAI美空ひばりが新曲『あれから』を歌った。あの一件で故人の尊厳とはどこに行ってしまったのかという議論がTwitter上などで散見され、一時はトレンドになったほどだ。今回『初音ミク』を開発したヤマハ株式会社が、歌唱における「AI美空ひばり」の設計を担当した。設計の過程をドキュメンタリー番組で視聴したが、膨大な美空ひばりの歌唱データを取り込み、分析することで美空ひばりの歌のルールを見つけ、再現するという仕組みだった。物議をかもしたセリフの部分も美空ひばり本人が息子に向けて絵本を読み聞かせたカセットテープの音声を分析することで再現をしていた。ここで私は一つ問いたい。
「AI美空ひばりは紅白出場歌手なのだろうか」

・そもそもAIとは?

 そもそもAIとはどのような仕組みなのか。ディープラーニング、シンギュラリティ―、機械学習など様々な単語が飛び交っているが、そもそもAIをきちんと理解できているだろうか。AIはArtificial Intelligenceの略称だが、実は何をAIと定義するのかは専門家によって見解が異なる。なお、人工知能は特化型人工知能と汎用人工知能との二つに分けることができ、特化型人工知能は現状世間に普及しているものがそれにあたる。例えば「ブレーキサポート」が搭載されている乗用車が昨今多く見られるが、あのように人や車を認知することに長け、導き出される結果で衝突回避行動をとるか取らないかを判断しているのも一種の人工知能だ。一方の汎用人工知能は与えられた情報をもとに自ら考え、応用することが出来る人工知能であると言われている。では今回のAI美空ひばりはどちらに含まれるのだろうか。答えは特化型人工知能だ。様々な音声データを情報として分析し「歌い方」というルールを導く。新曲の楽譜を与えられればそのルールに従って音声データを出力するというのがAI美空ひばりの人工知能としての大まかな働きだからだ。

・AIの得意な事と苦手な事

 AIは現状アラン・チューリングの生み出したコンピュータの時代から変わらず膨大な情報の中からルールを見つけることには長けている。要素としてあげるならば、学習力、記憶力、計算力、推論力、予測力、継続力、単純作業に対しては人では到底及ばない力を有している。
では、一方の苦手なことは知覚力、感情、ひらめき、想像力、創造力であるといえるだろう。
ここで忘れてはいけないのは、結局どのルールを探索させ、見つけたルールを元に何を成すのか決めているのは「人間」のほかならないということだ。

・AIに本当に職業は乗っ取られるのか

AIのグラフ

 近い将来、現在の職種の中の90%が機械(AI)に置き換わるという論文がイギリスのオックスフォード大学から公表されている。上記のグラフにあるように人工知能やロボット等による代替が起こる職種についている人が全体の労働人口の49%を占めると言われている。しかしその一方で、人事マネージャーや経営者、パタンナーや小学校教師、弁護士などは生き残る職業として挙げられている。この差はなんなのか。ひとえにAIの苦手=人ならではの強みを職業にしているか否かである。今後AIの時代人間として活躍するためにはAIの苦手を自らの強みとして戦うことが求められるだろう。

・終わりに

 AI美空ひばりのドキュメンタリーで『あれから』の作曲を担当した秋元康の言葉に「人間の思いを科学がサポートしてる」という言葉がある。つまりAIは膨大なデータを分析しその中からルールを見つけ再現するという作業に優れているがその長所を活用して人が成したいものを支える役割を果たしているのだ。確かにAIは一見万能に見えるかもしれない。しかし、AIだけがあればいいのではなく、それを使う人の思いがあって初めて役だつものになると言えるだろう。人はAIと戦うというよりも「AIを活用して何を成したいのか」それが肝心だ。自分もこれからAIの時代を生きていく上でAIを使って何をしたいのか、自分がAIを手にしたとき世に何をもたらすことが出来るのかに挑みたい。それこそがAI時代で自らが輝くチャンスだからだ。


最後に。AI美空ひばりは確かに一人の歌い手としてステージを張ったのかもしれない。しかしそれは多くの人の思いの上に立つ一つの作品なのではないだろうか。したがって私は「紅白出場歌手」というよりも「紅白に出展された一つの技術の形」と取るのがふさわしいのではないかと考える。

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