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7 weeks #9

2020.07.29 wed

9:00
前日に届いた山下達郎の配信ライブのアクセス情報を、夜のうちに送っておいたら、父は早速ログインを試みてうまくいったようで、ログイン通知メールが届いてきた。ちゃんとログインできたんだねとメールする。

10:30
父からの返信。今朝も体調に変わりなく、今日はエトポシドのみの投与とのこと。これは転移を防ぐ目的の薬だとあった。まったく、がん患者のうちでこれほどひとつひとつの治療の意味を自分なりに咀嚼し理解して臨んでいる人が一体どれだけいるのだろう。父の、現代の科学やテクノロジーに対する並々ならぬ信頼を目の当たりにしていた。メールの最後に「今日も頑張る」の文字。

主治医との相性も良いように思えた。医師ですら「ここまで大きい腫瘍は見たことがない」と言うほど進行した腫瘍を抱えて緊急入院してきた患者と家族に対し、初めから死の宣告をしなければならないのだから、医師の責務の重さは想像を絶するが、会うたびに努めて淡々と、でも丁寧に時間をかけて説明してくれた。もちろん、主治医としてはそれが職務を全うすることにほかならず、慣れてもいるだろうが、父をはじめ私たちは皆、一貫してM医師を信頼できると感じていたと思う。それは今振り返ってみるととてもとてもとても大切なことだった。治らなかったからこそ、なおさらだ。

16:30
2日目の投薬が終わったと、父から報告のメール。まだ体調には変化がないようだった。

病室の他の患者が今日はたまたま皆退院・転院・別室移動などで誰もいなく、貸切状態だという。先日検査結果を聞きに病院に行ったときには、同室の患者の咳がものすごく大きくてうるさいと少しだけ不満を言っていたので、良かったねと言う。明日もそのまま誰も来なければ、気兼ねなく配信ライブが見られるね、と。ふと、病室を去った人たちは、快方に向かって去ったのだろうか、それとも逆だろうかと、答えを知る由もない疑問が浮かんで消えた。

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