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7 weeks #10

2020.07.30 thu

16:30
3日目の抗がん剤投与が完了したと、父から報告メール。今は栄養補給の点滴を受けている最中だ、とも。今後の効果に期待しているとあった。そして2時間後に迫った山下達郎の配信ライブが楽しみだ、と。
(このとき聞き流していたが、栄養補給の点滴を受けているということは、この日あたりから食事があまり取れていなかったと推測できる)

19:30
我が家もライブ視聴の準備に入る。夕食は作らず調達。お酒に合うものを選んだら、フェス飯みたいになった。正しいライブの楽しみ方。MacBookで配信プラットフォームに接続し、それをテレビに繋いで家族で待機。

20:00
配信スタート。前半は2018年に京都の小さなライブハウスで行ったアコースティックライブ、後半は2019年の氣志團万博に出演した際のステージだった。音や映像のクオリティに対して尋常でないこだわりを持っていることで有名な山下達郎(だから生配信ではなく過去のアーカイブからの配信なのだが)が、初めてライブ映像配信をするというので界隈はざわついていたが、さすがのクオリティだった。父からすぐにメールが飛んでくる。

我が家としてはこどもたち2人が途中で飽きてごね始めないかだけが懸念だったが、不思議と楽しんでくれた。後半の氣志團万博のステージではアップテンポなナンバーも多く、2人で踊りまくっていた。5歳の長男は、山下達郎というミュージシャンのことは認識しているし、曲もいくつか知っているが、1歳はもちろんそんなことは分からない。ただ兄の後ろにくっついて兄の真似をして、クルクル、ぴょんぴょんしているのだった。65歳の父と、5歳と1歳の子どもたちが同じものを見てそれぞれに楽しんでいる。このシーンこそを父に見せてやりたかった。短い動画を撮って、Facebookに上げる。父はFacebookを割とこまめに見ていて、私や妹の投稿にはコメントこそしないが、会えば感想を聞かせてくれた。

本編の最後は「さよなら夏の日」だった。2020年の東京はこの日まだ梅雨が明けておらず、この曲を聴くのにはいささか早すぎたが、名曲はいつ聴いても名曲だった。雨に濡れながら僕らは大人になっていくのだ。

21:30
約1時間と予告された配信は予定を大幅に超えて1時間半ほど続いた。終了直後に父から「臨場感が最高だった。ありがとう、いい夢が見れそうだ!」とメール。よかった。これまでろくな孝行もしてこず、むしろ子どもたちのことを含めて気にかけてもらってばかりだったので、せめてものお返し。と思ったが、何を書いても辛気臭くなりそうで、代わりにライブの感想と子どもたちの様子を書いて返信した。7週間のあいだでおそらく唯一、何も考えなくて良い、純粋に楽しい夜だった。

"音楽は、人を助けることはできなくても寄り添うことはできると思う"
(山下達郎)

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