無題 夢の1シーン

  私は職場にいる。職場といっても、一般的にイメージするオフィスみたいな感じではない。どちらかというと学校の教室のように見える。私はそれなりに偉い立場にあるらしい。しかし、どうもそれは私の資質によるものではなく、私の婚約相手の家柄によるもののようだ。役職があると言っても、お飾りで「お前の指示など聞く気はない」という無言の圧を皆から感じている。誰もこちらと目を合わせない。
 ふと一番前の2席の異変に気付く。席次表に名前はあるのに、そこにはあるはずの椅子も机も置かれていない。近くにいた私の部下らしき人間に訳を尋ねる。彼女は「今までそんなことを聞く人はいなかったが、なぜそんなことを聞くのか」と言わんばかりに不可解な顔をこちらに向けている。私は訳がわからず、もう一度質問を繰り返す。
 そのやり取りを遠巻きに見ていた数名の部下の一人が代わりに答える。「来ないからです。その席には誰も来ないから置いておいても意味がないでしょう。」
 休んでいるという意味だろうか。詳しいことはよくわからなかったが、私は他と同じように座席を設置しておくようにと指示した。彼女たちが戻ってきたときに自分の席がないと悲しいでしょう?と言ったのだが、いまいち部下たちが同意したようには見えなかった。議論するのも面倒だから、まあ一応指示を聞いてやるか、といった感じに渋々動き始めた。
 後から聞いたことだが、その座席に指定された者は必ず出社しなくなるということが何年も続き、その席には最初から誰もいないものとしてふるまうのがいつのまにか慣習となったというのだ。そしてその席の人間が完全に退職してしまうと、新たに別の人間がその席にあてがわれ、そして来なくなるといういわば生贄のようなものとなっているようだ。来なくなる理由は、何か家庭の事情だったり、体調不良だったりとその時々で違ったはずで、たまたま不運が重なったというのが始まりだったのだろうと思うのだが、いつしかその席のことに触れることすらタブーになり、いまやその席に指定されると途端に誰からも口を利かれなくなり、実質的に出社することができなくなるのだという。つまり、組織によって抹殺されているのだ。
 この組織にはどうやらそのような時代錯誤の禁忌のようなものがたくさんあるようだ。私はそれを変えようと思っている。おかしいことにはおかしいと言っていかなければならないと。そのようなことを皆の前で話したが、全く無反応なのはまだいい方で、7割は余計なことをしてくれるなという顔、残り2割はこちらを向いてこそいないが、怒りに肩を震わせているのがわかる。そんな中、不安そうにこちらを見る顔が2,3名。何か言いたそうではあるが、口にする勇気はないようだ。正義の闘いに向かうという闘志と大変なことに首を突っ込んでしまったという少しの恐れとが湧いてきた。


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