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建築家 安藤忠雄(安藤忠雄)


世界的建築家、安藤忠雄の自伝。デビューまでの生い立ちや、自身の建築の解説、基本的なポリシーなどが書かれている。2008年出版。
僕の住む関西エリアには彼の建築がたくさんあって、特に京都にある大山崎山荘美術館は何度訪れても素晴らしい。さて、彼の作品の本質は何か?この本から読み取れるのは「自然との共生」であり「歴史の継承」、そしてそれらを踏まえた「体験型」の建築といえるのではないか。

自然との共生

住吉の長屋(狭い家屋の中央部に中庭がある)

彼の初期の代表作「住吉の長屋」では、小規模な敷地の中央部3分の1の空間を中庭とした。両側に分散する寝室や台所から反対側に移動するにはこの中庭を通らねばならず、雨の日は傘をささねばならない。生活するオーナーにとっては不便極まりない構造だと思うが、日だまりや風の香りなど、自然との一体感が味わえる独自の空間が形成されている。

歴史の継承

大山崎山荘美術館(昭和初期の旧館とコンクリートの新館を接合)

1996年建造の大山崎山荘美術館では、実業家、加賀正太郎が昭和初期に自ら設計、デザインした英国風の山荘を、アサヒビールの樋口廣太郎社長が購入、安藤忠雄の手によって復元整備し、美術館として開館した。歴史を感じさせる落ち着いた厳かな雰囲気の旧館と、そこから地中に降りて行き、モネの睡蓮が展示されているコンクリートの空間に出会う組み合わせがユニークだ。

近年の作品、パリに開館した「ブルス・ドゥ・コメルス」もまた、商品取引所だった旧館にコンクリートの壁を挿入し、新たな美術館へと改造したものだ。
(下記写真参照)

ブルス・ドゥ・コメルス
同館の内部

彼は一貫して、コンクリートという素材や単純な幾何学的造形だけで、その地にふさわしい複雑な味わいのする空間をこしらえあげる。この「ブルス・ドゥ・コメルス」も古い建築の内部に巨大なコンクリートの円筒を挿入する大胆な提案を行なった。現地の行政や歴史研究者の多くは反対したが、彼は何度も同じ提案をし、反対を押し切って計画は進められたという。その強心臓は(とてもじゃないけど)真似できないですね。

ガンを患い内臓を5つ切除したことを「体が軽くなってむしろ調子が良い」という言い切るその胆力に、何度も励まされる気持ちになる。

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