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猫を捨てる(村上春樹)


村上春樹が、実父である村上千秋氏の半生を綴ったエッセイ。本によると、村上千秋氏は、大正6年に京都の寺の住職の子息として生まれ、20歳の時に徴兵されて陸軍に入隊し、中国戦線(当時は日中戦争の最中だった)に送られて、生死を彷徨った。その後復員し、結婚して春樹氏が誕生、生計を立てる必要もあって中学校の教職に就くことになる。
実はこの村上千秋氏は、僕の中学時代の国語の先生だった(1970年代のことです)。まったくの偶然だが、後にこのことを知って大いに驚いた。(笑)

僕の知っている村上先生は、朗らかでダジャレを飛ばす、まるで落語家のようなお人柄で、我々生徒の人気者だった。ただ時々ふっと表情に独特の「苦味」のようなものが浮かぶことがあって、それが何かは当時中学生の自分にはよく分からなかった。が、この本を読んでその謎が解けたような気がした。戦争という過酷な体験が先生の運命を狂わせ、その精神に暗い影を落としていたのだろう…と。本を読んでそんな風に感じた。

(村上ファンはよくご存知のように)春樹氏と父・千秋氏は長年不仲だったが、千秋先生が晩年糖尿病などを患って入院されてからは、春樹氏は介護をし、最期も看取ったようだ。「1Q84」の第3部で、主人公の一人、天吾が父親の看病をする様子が延々と綴られているけど、この場面を春樹氏が執筆していた時期と、お父様を看病されていた時期がほぼ重なるので、おそらくはその時の体験がベースになっているじゃないかと(個人的には)思っている。

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